夏の日のゆめ

夏が好きだと彼女は言った。




葉の生い茂った木々の緑。


白と青がはっきり分かれた空。


アスファルトに落ちる影。


全てが色濃く映る景色が好きなのだと。




「たった一瞬だから好き。」




1年のうちで夏の盛りは2ヶ月ほど。


『一瞬』と言ったその時間を、彼女はめいっぱい楽しんでいた。




穴場の海があると知れば、早朝から車を走らせた。


流星群が見える日には、深夜に山へ出かけ虫に刺されて大騒ぎした。


花火大会があるたびに、どの浴衣を着るか悩んでいた。




暑いねと笑う様子が、とても眩しかった。






ある日の夕方、歩きながら感じた風がひんやりしていることに気付く。


「…涼しくなってきたね。」


ふと呟いて夕陽を見る彼女がどんな顔をしていたのか、僕にはよく見えなかった。




葉の生い茂った木々の緑。


白と青がはっきり分かれた空。


アスファルトに落ちる影。




今年の夏も去年と変わらず暑くて、全てが色濃くて。




けれどその『一瞬』を好きだと言ったひとは、僕の隣にもう居ない。

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