最高戦力・空中ニテ衝突ス 参
粉塵の中。メアリは
単眼鏡を構える左手の小指をピンと立たせ、指先から流血。一滴をコブシ大の砂金へと増殖させ、キルシェの股関節へ
「さあ、
残された
多量の血液が
「遠すぎるとやり辛いわね。どれにしようかしら。…よし決めた、これが良い」
メアリは過去世の記憶を一部復元した副作用で脳を変異させ、膨大な記憶とその読出しを可能としていた。予め記憶しておいた『それら』から手近なものを割り出す。
――宇宙廃棄物の周回軌道を把握、個体を決定。
「はい、交換♪」
小指に浮かぶ小さな
大気に触れて燃焼するその
キルシェは推察する。
振り返る余裕も無かったが、あれほどの速さでは一瞬で燃え尽きたろう。隕石ではない。例えば周回軌道を有し、位置と速度を把握し得る物体。考えられるのは人工衛星の破片など、宇宙廃棄物の類い。所謂、スペースデブリだ。
メアリの砂金に重複した空間と物体は、秒速七キロの慣性さえ保持したまま転移されるのか。
――強引だが一つ、解決法に心当たりがある。
転移空間内の時間そのものを停止、或いは鈍化すればいい。
思い至り、戦慄する。
メアリは
メアリは少なくとも十二人の同族を生きたまま無力化している。
とにかく、第二射の的とならぬよう、退避する。
宙で後転し、天地が逆に。何もない
丸い。まるで巨大な水泡のようである。閃光を発し、空気の振動が轟く。蒼空を映していたキルシェの青い虹彩が、メアリの金に染まる。
置換されるのは光弾か、メアリ自身か。或いは囮で、地上からの狙撃も在り得る。
八本の刃を後退軌道の『前―――後』へ集結させ、それぞれ四層の盾を築く。この狭間にて軌道修正。急降下を中止すべく、丸めた背中で粒子を放射する。
斜め上方へ。盾から飛び出し、メアリの姿を認める。彼女は、うそ寒くなるような景色を作り出していた。
表皮も衣服も、全身が血だらけである。そこからポツポツと、金の粒が芽吹く。身から離れるたった一粒が、頭一つ・三十センチほどの集合体へと増殖する。
便宜上、この集合体を『
キルシェは敢えて、メアリの滞空高度へ躍り出た。
メアリは視線だけでこちらを追う。瞳孔を開いた金の目が、ずるりと
「愚か者ね。ここは私の支配空域よ」
随分と退屈そうだ。警告も、早死にされては興が冷めるからか。
「承知している」
「逃げないの?」
「それはつまらない」
「待ってあげましょうか?」
愚問だ。こちらとて退く気は無い。よもや貴姉を殺さねば助かるまい。最後まで遊びに付き合ってやる。
「覚悟の定義は知らん。だからここで死ぬと決めて
メアリの瞳孔が、より一層開かれる。ぱっと手を開き、弄っていた髪をほどいた。まさに目を大きくして、心底幸せそうな笑みを湛えて、念を押す。
「ほんとうに、逃げないのね?」
「疑り深いな」
「きゃは」と、メアリは声に出して笑った。
「嬉しい♪ここに留まり私と一緒に暮らすと、そのように解釈してよろしい、かしら?」
大きく頭を傾いだせいで、肩の柔らかいブロンドの髪に頬が
初めて会った時、否、会敵時とする。その時の会話に近い。こちらの口調を真似たらしかったが、全く似ていない。もう一度言う。
「それはつまらない」
メアリの瞳孔が正常に戻る。ゆっくりと目を細め、静かに微笑した。
「いいえ、嘘。きっと、たのしくなるわ」
「ならぬ」
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