金城市・攻撃開始 参
「まだ!まだまだ!!」
ローゼは全身に火炎を帯び、一身それ自体を凶器と化し、敵から敵へと飛び渡って粉砕する。
着地し、敵の足を踏み、体を横へ薙ぎ倒し、足首を解放骨折させる。仰向けとなった無防備な胸部へ小銃を突き立て、ゼロ距離で撃発。
回避軌道によって別の敵へ急接近し、心臓や頭部に銃口を押し付けて撃つ。行動を起こす頃には次の敵へ目星を付けており、一瞥とて殺害対象には目をくれぬ。あくまでも回避に集中し、鹵獲した銃は決して遠方を照準せず、ゼロ距離でのみ撃発した。
たちまちのうちに頬は返り血に濡れ、口角より鉄の味が流れ込む。嘆きともつかぬ
ローゼは少女の
――白煙を引いて飛び出した肢体は、空中に寝転んでいた。つまりは一瞬の無重力に
再びの徒手式射撃。頭上に両手を伸ばし、空中でスナイパーのような
目標、縦列する敵装甲車二両の銃座。射撃弾数十発。撃発!
発火炎を散らし、砲声を轟かす。
三発着弾せり。一発が銃口へ、砕けつつも滑り込む。一発は照準器を四散する。一発は銃手の胸部を砕く。
兵士の胸部に穿たれた風穴を、残り七発が抜ける。二両目の装甲車へ飛び、二人目の銃手へと命中する。着弾数は一発のみであるが、これが頭部を仕留めてくれた。
空中の回転伏射姿勢より着地。受け身を取り、周囲を一瞥し、敵との位置関係と近衛班の車両を確認する。
こちらを迎え撃つために配置されていた装甲車は国道内で散開しており、五両が後退。残り六両が進行している。近衛班の車両は高架高速道路より東、畑道で待機中のままだ。
敵の注意はこちら一点のみに結ばれている。そろそろ近衛班の車両を通せる頃か。
随伴歩兵の大半を失った敵装甲車両に壊滅的打撃を与えたいところだが、こちらは血液を消費し過ぎている。敵首領との戦闘に備えて、温存と休息が既に必要である。ここからは、効率を重視すべきか。
――北に二両、距離六十メートル。南に四両、距離二十メートル。双方からの
北の二両に警戒しつつ、まずは南の四両を片付ける。
こちらを照準する砲身、その射線を把握し、決して目を離さない。発砲の瞬間を僅かな挙動から知り跳躍回避する。足底に爆発を踏み、たった三歩で五メートルまで距離を詰める。
――左右の随伴歩兵に動き有り。三名同時。いずれも右肩へ銃床を当てている。この姿勢は、多少右へ向き辛い。嘗てキルシェに教わった通り、右側へ飛び退く。
思考が研ぎ澄まされているせいであろうか。
教示を受けた記憶が、走馬灯のように、鮮明に蘇る。キルシェなら、自分より遥かに効率よく立ち回り、大勢の照準を同時に認識して避けられるのだろう。
やはり、自分を信じて戦っているのではなく、キルシェへの依存が思い切った行動を許している。姉への信頼が心の支えであり、その言葉通りに行かない時、対処できるだろうか。
――
自分に問いかけるな!敵の能力を洞察し、撃破するだけだ!
まずは、まずはここを突破し、それからもう一度考える。迷うのは、その後で構わない。
無理やりに雑念を排除した。
空中に爆発を踏み、跳躍を繰り返して敵車両へ急速接近する。炎の衣に包まれながら、その推力にて回転し、敵の発砲と
こちらの武器は徒手式射撃である。先刻の如く弾丸の束を照準し、次々と蜂の巣を浴びせ、随伴歩兵を殲滅しながら突貫する。
紅き疾駆は爆炎と屍を置き去りにして、敵車両へと到達した。
上部ハッチの銃手と隣の近接射撃担当者は既に狙撃済みであるから、銃身を掴み、血の高熱で握り潰す。車内から手榴弾を
一両を突破した時点で、置き去りのこれが
ハッチの開いている車内へは手榴弾を投げ込んだ。遠くへ逃げた車両も発砲してくるが、命中などしない。動きを止めた瞬間を狙ったらしく、飛び付いた敵車両を代わりに攻撃してくれる始末だ。
後方・北の二両が、近衛班の車両を遥か遠くへ捨て置き、ローゼに追い迫る。この時点で、もはや敵はローゼ以外の侵入者に対して興味を失くしていると解る。
近衛班の車両が、この隙に乗じて再始動。国道を横断し、西の小道へ入った。
「行ったか。じゃあ、こちらも」
ローゼは南下を中断し、足底の爆炎を蹴って瞬時に北上へと転ずる。一歩々々が五メートルも推進する炎の疾駆で、
❀
貯水槽を改装した宮殿にて。エルネストは侵攻を受けて尚、白いワンピース姿のまま王座で糸を操っている。
肉体に代謝は不要。自身の一部と
この極めて身軽な格好は、エルネストの能力に適したものである。
「さてと、どうしましょう」
金城市内の傀儡を送っても無駄死にだし、鹵獲した車両・弾薬にも限りがある。大体、そもそも、あの忌々しい赤髪の娘を無力化するには能力をぶつけるしかないと思う。
――決めた。
特別製の主力五名を使う。
あと、この貯水槽のすぐ傍、金城へ、電波妨害に支障を来さない範囲で傀儡を集めておく。
それからもう一つ。金城市外へと連絡の為に配置した傀儡を利用して、メアリにも伝えよう。
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