第1254話、巨人機の群れ


 ヴェリラルド王国東領、ノイ・アーベントにスティグメ帝国の超巨大浮遊兵器ケントロンが迫っていた。

 第2艦隊は、スティグメ帝国の新鋭艦隊と交戦中。ケントロンは、すでに大口径メガブラスターを町に向けて放ったが、先の経験に則り、結界水晶装置により第一射の無効化に成功した。


 だがこのまま接近を許せば、どうなるかは予想がつかなかった。ケントロンにも結界水晶防御があり、ひいてはこの結界を通過できる装甲処理がされている可能性があったからだ。

 ノイ・アーベントには敵接近の警報が発令され、守備隊が応戦態勢に入っている。アンノウン・リージョンが近いという地理的条件ゆえ、機械兵器部隊も増強されてはいたが、さすがに今回の浮遊兵器の存在は想定外だった。


 魔人機中隊は、都市前面に展開するが、迫りつつある巨大浮遊物体ケントロンの威容に恐怖を抱かずにはいられなかった。


『あんなデカいもん、どう戦えってんだ?』


 全高6メートルそこそこの人型兵器に、2キロ強の高さの相手など、象の前のありも同然だった。

 最近では地元の志願兵が増え、現地守備隊の魔人機のパイロットには、シェイプシフター兵ではない、人間も増えてきた。


『アイアン中隊へ。敵人型兵器群が接近中。警戒されたし』


 守備隊司令部からの通信にソードマン各機は盾を構え、マギアライフルやバズーカを正面に向けた。


『注意、敵人型兵器は魔人機にあらず。繰り返す、敵は魔人機にあらず』


 守備隊兵は、一列の横陣を形成して進んでくる敵機の姿を視界に捉える。


『……大きい』


 魔人機の2倍以上ある機体。大きな両肩に肥大化したような腕を持つそれは巨人機。新生アポリト帝国が最終決戦に投入してきた巨人機ピレトスの流れを汲む新型。

 その名はノソス。それが壁のように広がりながら、ノイ・アーベント方向へとノシノシと進撃してくる。


 巨人機の額が紫に輝く。そして放たれた光線は、守備隊魔人機に迫り、構えた盾ごとソードマンを貫通した。



  ・  ・  ・



 その頃、ウィリディス第2艦隊は窮地きゅうちに立たされていた。

 すでに大破していた戦艦『大和ヤマト』を僚艦『武蔵ムサシ』が庇いつつ、敵新型戦艦を防ぎ止めていたが、『武蔵』の損傷も大きく、カバーに入った『日向ヒュウガ』も満身創痍となっていた。


 巡洋艦以下の艦艇も高速巡洋艦『熊野クマノ』、アンバルⅡ級『カライス』が沈み、『羽黒ハグロ』大破、『トゥルケーザ』が中破し、戦線離脱していた。護衛駆逐艦も『涼風』『大風』『灘風』『矢風』『天津風』が姿を消していた。


『「土佐トサ」沈みます!』


 敵艦隊へ突撃を敢行した第二戦隊の突撃戦艦『土佐』が、集中砲火を浴びて、ついに命運が尽きた。僚艦りょうかん『加賀』と共に敵戦艦5隻、クルーザー8隻撃沈、4隻撃破の大奮闘の末の爆沈だった。艦首の第二砲塔が爆炎に消える最期の瞬間まで砲を撃ち、さらに1隻敵艦を道連れにした。


『「加賀」、敵艦隊を突破! 反転しつつ、敵艦隊へ再突撃。「妙高ミョウコウ」これに続く!』


 観測員の報告を受けつつ、ダスカ提督は奮戦する自艦隊に畏敬の念を抱くが、追い詰められていることもまた確かだった。


『巡洋艦「鈴谷スズヤ」より入電。ワレ、航行不能』


 敵新鋭艦の攻撃力は、これまでのどの勢力より高かった。三角型砲塔から放たれる光線が連続して当たれば防御シールドをも撃ち抜き、ウィリディス艦に被害を与える。


「フジさん。艦の復旧状況は?」 

「浮遊システムの損傷は再生完了です。しかし外部損傷と機関の再生には魔力が足りません。戦場で修復するなら、砲とシールド用の魔力も投じればある程度は」

「その間に、本艦がやられますか」


 戦況はよろしくない。艦隊が全滅する前にいよいよ覚悟しなくてはならないようだ。


「本艦を殿軍しんがりに、残存艦を離脱も考えねばいけないようですね」


 ダスカは、旗艦『大和』の前進を命じようとした、まさにその時だった。


『提督、戦域に友軍艦隊が到着。王都、第1艦隊です!』


 シェイプシフター索敵士の報告。

 戦域北より、高速で突っ込んでくる艦隊が現れたのだ。



  ・  ・  ・



 ヴェリラルド王国第1艦隊ことウィリディス第1艦隊は、超旗艦級戦艦『キングエマン』とその左右に4隻ずつ展開するドレッドノート級戦艦を前面に押し立て、戦場に突入した。

 旗艦『キングエマン』には、国王旗がはためいている。エマン王自ら旗艦に乗り込み、駆けつけたのだ。


「味方を守れ! 吸血鬼の艦隊を我が国より叩き出せ!」


 王命は下った。『キングエマン』の45.7センチ四連装プラズマカノンが実戦で火を噴いた。

 王に従う騎士の如く並ぶドレッドノート級戦艦も35.6センチ三連装プラズマカノンを発射し、スティグメ帝国の艦隊へ光弾の雨を降らせる。


 王専用の司令官席にて、戦術モニターを凝視ぎょうしするエマン王。傍らに立つボルドウェル将軍は口を開いた。


「敵の数は友軍より多くあります。旗艦は後方からの指揮に専念すべきかと……」

「いまは1隻でも戦力が必要だ。我が旗艦を後ろに置いては、護衛に割かれてしまう。全艦で突撃する!」


 すでに空母戦隊を護衛艦と共に分離した後だから、余計に艦を引き抜けない。ボルドウェル将軍は諦めたように目を伏せた。


 ――この方は、若い頃から前に出ることを躊躇ちゅうちょなされなかったな……。


 付き合いの長いボルドウェルは、この王が前に出ることはあっても下がることなどしなかったのを思い出した。


「……それにしても、敵の大規模攻勢とは。トキトモ侯も、まずはこの穴を先に対処すべきだったのでは」


 いま連合国で地下世界攻略作戦をやっているのを、将軍は知っている。まずヴェリラルド王国内の入り口を叩いて、安全を確保するのが先なのではないかと思うのだ。


 エマン王は微笑した。


「仕方あるまいよ。地下世界の攻略などまだ誰もやったことがない。今回のファーストステップは、まず連合国側のアンノウン・リージョンを突っついて、敵の反応を見る策だしな」

「そうなのですか?」

「うむ。地下空間は複数あって、それらの間は転移門で移動するらしいのだが、突かれたらどう反応するのか、敵の動きを見るつもりなのだジンは」


 四方八方から援軍を送り込まれて退却を余儀なくされたとしても、連合国内なら痛手はないが、もしヴェリラルド王国内でそうなったら、一気に王国は窮地きゅうちに立たされる。


「それに、上手くいくようなら向こうで引きつけている間に、こちらの地下都市も攻略する腹積もりだよ、奴は」

「すると、連合国の地下攻略は、本格攻勢の囮でもあると?」

「どちらも本気だろうがね。ジンとはそういう男だよ」


 だからこそ、我々もできることはやって負担を軽くしてやらんとな――エマン王は笑みを浮かべた。


『陛下! 転移反応――戦艦『バルムンク』が戦域に出現しました!』


 ほら来た――英雄魔術師の登場だ。

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