第1253話、奮戦、ウィリディス艦隊
ヴェリラルド王国東トキトモ領。
アンノウン・リージョンから浮上した浮遊兵器ケントロンの攻撃は、ウィリディス第2艦隊に大打撃を与えた。
「艦の安定を保て!
戦艦『
司令塔内に響く警報。敵大口径メガブラスター砲が掠めた結果、『大和』は浮遊システムと機関にダメージを受けて大破した。
司令官席のダスカの表情は険しい。
「想像以上によろしくないですな。これは……」
僚艦『
『アンノウン・リージョンより、敵艦隊出現!』
追い打ちをかけるように、浮遊兵器の出た穴から、スティグメ帝国の艦艇が次々と現れる。
『識別、敵新型艦!』
ジンたちがプロヴィア北方で交戦した新型艦艇群のデータは、ディアマンテを経由して各部隊に転送済みである。故に、完全データではないものの、大まかな武装などは推測混じりながら表示された。
「やれやれ……。我が艦隊はどうも死に体だと判断されたようですね」
敵艦隊は、第2艦隊の前に迫ったが、浮遊兵器自体は、ゆっくりとノイ・アーベント方向へと動き始めている。
都市には結界を展開させているものの、肉薄されればどうなるかわかったものではない。
『第2戦隊、前進! 本艦の前に出ます!』
大破した『大和』に代わり、
40.6センチ連装プラズマカノン砲塔を16基32門も装備する重武装戦艦は、先頭を切って多数の敵艦隊へ突撃を
・ ・ ・
プロヴィア北方の戦いは、風向きが変わりつつあった。
ベルが指揮する超戦艦『レーヴァテイン』は、浮遊兵器『エスカトン』の結界水晶を通過し、その首のような部位に衝角突撃をぶちかました。
しかし、超巨大浮遊兵器からすれば、全長330メートル超えの『レーヴァテイン』ですらナイフのひと突き程度。
「だが、懐に入っちまえばなぁ! 艦首、全砲門っ! ありったけをぶち込めぇ!」
防御の裏に入った『レーヴァテイン』は多数の45.7センチ連装砲、50.8センチメガカノン、マギアブラスターを超至近距離から撃ちまくった。『エスカトン』の装甲を
「ようし、急速後退!」
漆黒の超戦艦は艦首スラスターを噴射して急速に離れる。無敵と思われた浮遊兵器は、至る所から火を噴き、爆発して峡谷近くへと墜落した。
大地震と共に崩れ落ちていく巨大兵器。派手に土砂が吹き上がり、広い範囲に飛び散った。
「障害は排除した! このまま地下世界に殴り込みを掛けるぞ。ドゥルール1、2、3番艦、突撃しろ!」
レーヴァテイン艦隊に所属するドゥルール級突撃揚陸艦が、待ってましたとばかりに姿を現し、大峡谷へと向かっていく。
全長230メートルの強襲揚陸艦であるドゥルール級は、艦首に突撃用の装甲ブレードを装着しており、さながら巨大な斧の刃のような形をしている。ブァイナ鋼を用いたブレードは障壁やシールドを別にしても強固な装甲であり、被弾を無効化する。この揚陸艦は敵地に直接乗り込む装甲艦なのだ。
そして一度上陸すれば、疑似ダンジョンコアから多数のガーディアンを排出し、一種のスタンピードを引き起こす。乗り込まれるほうとしては非常に厄介な代物だ。
今回の地下都市侵攻作戦において、魔力消失装置搭載兵器が使用されるが、それらの機体が消失兵器を使用するまでの護衛と、敵勢力の足止めを担うのが、ドゥルール突撃揚陸艦戦隊の役割なのである。
ドゥルール級が侵入を始めたことで、バルムンク艦隊残留組も都市侵攻の準備に掛かる。
戦闘空母『ヴィラート』ではセア・ヒュドール、アドウェルサなどの魔力消失装置を搭載した機体が発艦準備を進め、ヴァルキュリア級強襲巡洋艦3隻からは援護のシェイプシフター海兵団が突撃ポッドからの出撃を今や遅しと待ち構えている。
これら上陸組を載せた艦艇を、青の艦隊が護衛し、向かってくる敵艦艇をマギアブラスター主砲で葬っていった。
シェード将軍の第7、第8艦隊もスティグメ帝国艦隊と乱打戦を演じつつ、制空権の確保へ奮闘している。
浮遊兵器ケントロンのメガブラスター砲を回避するため、空母でさえ前線に殴り込んでいたから、損傷、撃沈される艦も多かった。しかし戦況はウィリディス軍側に大きく傾きつつあった。
・ ・ ・
スティグメ帝国、鉄血親衛隊所属のアペイロン級高速戦艦『スィンヴァン』。
戦域から離脱する高速戦艦の艦橋。ハル長官は司令官席で、ニーケ艦長と戦況報告を受けていた。
そこへ上がってきたのは、赤毛のショートカットの少女――ペトラ・Cと、プラチナブロンドをポニーテールにまとめている少女エル・Cだ。
「お帰り、二人とも」
「姉貴ぃ、撤退出すの、早くね?」
「何かあったの、ハル?」
エル・C、ペトラ・Cの順で聞いてきた。ハルは肩をすくめる。
「面白くない報告。『エスカトン』が落ちたわ」
「まさか」
「えっと、どっちだっけ姉貴」
「エスカトンはエスカトンよ」
ハルは、エル・Cを軽く睨んだ。
「ともかく、地上の連中は地下世界へ乗り込んでくるみたいよ」
「それはそれは緊急事態だ」
苦笑するペトラ・C。エル・Cは口を尖らせる。
「けっ、だらしねえっての。連中が仕事やってりゃ、あたしとペトラで、あの艦隊全滅させられたってのに……。それとあたしと同じセア・エーアール」
エル・Cは自機に向かってくる風の魔神機の姿を確認している。
「さあ、どうかしらね」
ハルは、観測機からの報告を受けた映像端末へと視線を滑らせる。
「リダラ・リュコスが3機、たった1機に撃墜された」
「あれは痛恨だったわ」
ペトラ・Cは自身の髪をかいた。
「何なの、あれ?」
「さあね。地上軍の戦力……いえ」
そこでハル長官は、顔を上げた。
「あの機体の頭、覚えがあるのよね……」
タイラントタイプの人型兵器。それを操縦していたのは――
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