第1251話、ふたつめ


 プロヴィア北方。スティグメ帝国の超巨大浮遊兵器の登場、そして多数の敵艦の出現で、戦場は混沌こんとんと化していた。


 俺の乗る超戦艦『バルムンク』は、僚艦りょうかん『ヴァンジャンスⅡ』と戦場内を高速で飛び回っていた。

 プラズマカノンが瞬くたびに、敵艦を撃ち抜き沈めていく。周りを飛び回る敵戦闘機も対空砲が寄せ付けない。


 ベルさんのレーヴァテイン艦隊も、シェードの第7、第8艦隊も敵艦隊と乱戦を展開することで巨大浮遊兵器の必殺砲を封じている。

 しかし多数の艦艇入り乱れての近・中距離での砲撃戦は、双方の艦に激しく突き刺さり、被害を増大させていく。


 敵新型艦の主砲は、どれも三角の砲から放たれる光線兵器だった。紫の光は、これまでの魔法砲よりも強力だ。サウスダコタ級、マールカル級といったウィリディス戦艦と互角以上に敵新型戦艦は渡り合う。


 敵クルーザーが爆散するそばで、こちらもアンバルⅡ級クルーザーが大破し墜落ついらくしていく。青と紫に光が交差し、射線に入ってしまったコルベットが吹き飛ぶ。


「こっちも大変だというのに……」


 俺は苛立った。ここも忙しいが、アーリィーの第三艦隊も敵の鬼神機部隊の襲撃を受けて劣勢だと言う。観測ポッドの戦況レポートによれば、第三艦隊の艦艇は時間と共に減っていっている。

 艦長席の直接通信が鳴った。


『ジン、ここはオレが引き受けた! お前は嬢ちゃんの救援に行け』

「ベルさん?」

『自分も賛成します、閣下』


 シェードの声が割り込んだ。


『第三艦隊は、遥か後方。もし艦隊がやられれば我々は背後から挟み撃ちにされます。退路を確保する意味でも、第三艦隊の救援は必要と考えます!』

「しかしな……」


 あの浮遊兵器はどうする? 結界に守られた超攻撃兵器。あれを早々に仕留めないと、それこそ艦隊は全滅するかもしれない。


『あのデカブツは、オレの「レーヴァテイン」が相手をする』

「秘策はあるのかい、ベルさん?」

『ああ、任せておけ』

「了解した。『バルムンク』は戦線離脱、第三艦隊の救援に向かう」


 実際問題、今から救援に間に合うのは、ポータルを使わず単独転移ができる『バルムンク』とその僚艦であるヴァンジャンスⅡ級ヘビークルーザーしかないんだよな。


「ここも苦しいが、やられるんじゃないぞ」

『任せろ。――シェード! デカブツを相手どる間、周辺の雑魚どもを任せる』

『了解、ベル将軍』


 ベルさんの『レーヴァテイン』が回頭、その鋭角的な艦首を超巨大浮遊兵器へと向ける。

 何をするか大体わかってきた。そう、結界水晶は無敵じゃない。


 俺は観測ポッドの位置情報から、第三艦隊の位置を確認。転移位置を割り出し、魔法でポン! 『バルムンク』は単独転移により、戦線を離脱した。



  ・  ・  ・



『バルムンク』が離脱した。


 その直後、第8艦隊旗艦『オニクス』の艦橋が騒がしくなる。


『敵浮遊物体より、高エネルギー反応!』

「まさか! 第二射か!?」


 ルンガー艦長が驚く。


「馬鹿な! 連中、敵味方が入り乱れる中、撃つつもりなのか!?」

「艦隊各艦、敵艦を盾にしつつ、敵浮遊物体の主砲射線上から退避!」

「将軍、連中は味方もろとも……」

「その可能性はあるな。考えたくないが」


 敵が平然と味方ごと攻撃しようとする愚か者でないと思いたいが――シェードの期待は、しかし叶わなかった。

 超巨大浮遊兵器は、三連メガブラスター砲を発射したのだ。その光は展開するスティグメ帝国の戦艦、クルーザーをも巻き込み、第7、第8艦隊を襲った。


『戦艦「ヴェガ」「ミシシッピ」轟沈!』

『空母「ヨークタウン」「ホーネット」被弾! 「モントレイ」轟沈!』

『「ハーミズ」、応答なし!』

「やりやがった!」


 敵浮遊兵器は、友軍もろとも主砲をぶっ放した。歯を食いしばるシェード。その瞬間、『オニクス』に振動が走った。


『右舷に敵戦艦!』

「近いぞ! 集中射撃!」


 ルンガー艦長が唾を飛ばす。敵戦艦の三角主砲の砲撃が、『オニクス』の防御シールドを貫いて、右舷装甲に直撃する。


「味方が巻き込まれたというのに、動揺ひとつしないとは……!」


 化け物……いや、さすがは吸血鬼と言ったところか――シェードが舌をまくのを余所に、『オニクス』の40.6センチプラズマカノンが、敵戦艦に集中し、その艦体を真っ二つにへし折った。


『「レーヴァテイン」、敵浮遊物体に突撃!』


 観測員の報告。漆黒の超戦艦が、真っ直ぐ巨大浮遊兵器にミサイルよろしく突っ込んでいく。ルンガー艦長が目を見開く。


「体当たり!? 結界にやられるぞ……!」

「いや、『レーヴァテイン』なら大丈夫だ」


 シェードの確信の言葉通り、超戦艦は結界にぶち当たり、通過すると浮遊兵器の首に当たる部位に体当たりを当てた。


「アポリト文明艦艇には結界水晶を通過できる加工がされている」


 つまり、その仕様となっている『バルムンク』や『レーヴァテイン』は、結界水晶を通過し、その内側へ侵入することができるのだ。


「中に入ってしまえば、ベル将軍の勝ちは揺るがない」



  ・  ・  ・



 ところ変わって、ヴェリラルド王国。真夜中を過ぎ、明け方が迫る中、太陽と見まがう光の束がよぎった。

 それは壁のように浮遊する超巨大浮遊物体の手前で四方に弾かれてしまう。


 ウィリディス第2艦隊旗艦『大和ヤマト』の司令艦橋で、ダスカは思わず司令官席から立ち上がった。


「バニシング・レイが通用しない、とは……!?」


 アンノウン・リージョンから浮上してきた、二等辺三角形型の盾のような巨大浮遊兵器――スティグメ帝国名『ケントロン』に、第2艦隊は、魔導放射砲の集中射を浴びせた。


『大和』『武蔵』の二大戦艦は、魔導放射砲を1隻につき6門も搭載しており、その攻撃力は1隻で敵艦隊ひとつを消滅させるほどだ。

 だが結果は、エスカトンを狙い阻まれたシェード艦隊と同様の無傷に終わった。


『敵浮遊物体に、エネルギー反応あり! 巨大砲による攻撃の兆候ちょうこうと思われます!』

「回避運動、急げ! 取り舵!」


 シップコアのふじが指示を出した。


『敵巨大砲、発砲!』


 光が第2艦隊の中央を通過した。

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