第1250話、空母、轟沈


 ヴェリラルド王国はその時、夜だった。

 アリエス浮遊島軍港のディアマンテが発令した警報は、ヴェリラルド王国東トキトモ領の第2艦隊にも届いていた。


 アンノウン・リージョンを監視する任務についていたウィリディス第2艦隊。その旗艦『大和ヤマト』の司令塔に、警報で呼び出されたダスカがやってきた。

 シップコアである『ふじ』は礼儀正しく一礼した。


「お休みのところ申し訳ありません、」

「なに、古代文明研究が楽しくて、寝付けなかったところですから構いませんよ」


 ヴェリラルド王国のマスタークラス魔術師であるダスカは司令官席に腰掛ける。ジンの戦友であり、五〇代半ばながら彼を師のように慕っている温厚な人物である。


「ちなみに、いま研究されているのは?」

「ナチャーロという魔法王国ですね。これが中々、あなどれない文明で、リーレさんとカシハラ嬢が……と、今はそれどころではありませんね」


 ダスカは軍帽を真っ直ぐに被る。


「フジさん、緊急警報ですが、アンノウン・リージョンに異変があったのですか?」

「司令部によれば、スティグメ帝国の大規模な攻勢があるようです。諜報部が敵の動きを捉えたと。王都の第1艦隊にも警報が飛びました」

「すると、一戦は避けられませんね」


 穏やかな中に、ピリッとした緊張感が漂う。本来、魔術師で古代文明研究に明け暮れているダスカだが、ディグラートル大帝国の空中艦隊と幾度も戦い、ヴェリラルド王国内でも航空艦の艦長や指揮経験が豊富なベテランだった。


「ジンさんたちが、旧連合国へ出掛けていますからね。留守は守らないといけません」

「すでに戦闘配置は発令されております」

「結構です。では待ちましょう」


 第2艦隊は、ヤマト級戦艦2隻、トサ級突撃戦艦2隻、イセ級航空戦艦2隻、イコマ級巡洋戦艦3隻の計9隻と、ミョウコウ級、モガミ級、アンバルⅡ級の巡洋艦が9隻。レントゥス級中型空母3隻にアグアマリナ級中型空母3隻の6隻の空母と、カミカゼ級駆逐艦20隻から編成されている。


『観測機より入電。アンノウン・リージョン内より航空機反応多数!』

「来ましたね。戦闘機隊、迎撃始め。全艦、対空戦闘用意!」


 ダスカは指示を飛ばすと、藤へと視線をやった。


「近隣のノイ・アーベント、リバティ集落への警報は発令されているのでしょうか?」

「ディアマンテが、すでに通達済みかと」

「念のため、防御結界も展開してもらいましょう。久しぶりの敵の活動です。最悪の想定はしておきましょう」

「はっ!」


 最初の攻勢以来、なりを潜めていたスティグメ帝国がここにきて攻撃を仕掛けてきた。前回以上の兵力であると想定して間違いはないだろう。



  ・  ・  ・



「いいねぇ、どれからやってもいいのかい?」


 炎の鬼神機セア・ピュールEのコクピットで、ペトラ・Cは不敵な笑みを浮かべた。

 ところかわってプロヴィア北方。雲は多いが晴れた空が広がっている。ほぼ点が見えるか見えないかの距離も、鬼神機の測定機器はそれを捕捉している。


「まずは大きい奴からやろうかねぇ!」


 セア・ピュールEは、巨大な得物プロクス・トゥリアを構えた。両手持ちの大型ライフル型兵器で、魔神機だったピュールが装備していたプロクスの強化発展型だ。


「我は炎の精霊。その極炎を以て、我が敵を焼き尽くさん……! ほとばしれ!」


 ペトラ・Cの詠唱により高められた炎の魔法がプロクス・トゥリアより放たれる。紅蓮の炎は一直線に地上軍の艦隊へと飛んでいき――標的とされたウィリディス軍第三艦隊の大型空母『ドーントレスⅡ』に直撃した。



  ・  ・  ・



 防御シールドを貫通した。


 イントレピッド級大型空母は、全長293メートルとウィリディス軍の空母としてトップクラスの大型空母であり、艦載機搭載数、そして展開能力でも優れていた。


『ドーントレスⅡ』はその3番艦として就役し、第三艦隊の主力の一角を担ってきた。


 しかし、遥か彼方より飛来した攻撃が、ただの一撃でシールドを貫き、巨大な艦体をで溶かし、そして爆発させた。格納庫は瞬時に蒸発し、機関区画さえ破壊したそれは、巨大な火球となって粉微塵こなみじんに吹き飛ばしたのだ。


 まさに轟沈である。


 装甲空母『アーガス』の甲板に出た魔神機リダラ・バーンのコクピットで、アーリィーはその光景を目撃した。


「たった、一発で……!?」


 超長距離からの狙撃。しかも大型艦を撃沈させる威力を持った凶悪な攻撃だ。


「問題は、これが単発なのか連射が可能なのか、だけど……」


 そう呟いた時、アダマースの声が魔力通信機から聞こえた。


『アーリィー様! 高熱原体、確認。敵、第二射です!』

「こっちへ!?」

『いえ、本艦ではありません!』


 光が走った。第三航空戦隊――撃沈された『ドーントレスⅡ』の前を飛行していた僚艦『エンタープライズ』に命中した。


 直撃だ。後部から前部へ、格納庫一帯が完全に吹き飛ばされた。


「制空隊は、速やかに敵機の排除!」


 アーリィーは叫んだ。


「ボクたちも出るよ! 近衛隊、続け!」



  ・  ・  ・



「ふはは、来るじゃん来るじゃん、羽虫どもが!」


 エル・Cは地上軍の敵機がわらわらと集まってくるのを見てニヤリとした。蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。


「さてさて、どのポジショニングが一番いいかなぁ」


 ペトラ・CのピュールEのプロクス・トゥリアを叩こうと躍起になっているのだろう。しかし、その間に3隻目が派手に吹き飛んだ。


 ――あれ、2隻目のやつ、まだ浮いてるじゃん。運のいい奴。


 戦況をながめつつ、しかしエル・Cは迎撃地点を見つけた。


「決めた!」


 セア・エーアールEが背中の六枚羽根を噴かして、疾風となった。


「ソニックウェーブ!」


 すれ違いざまに、数機の敵戦闘機を跳ね飛ばし、錐揉きりもみさせる。大気の壁は金属でできた航空機さえつぶし、破壊する。


「風の精霊よ、見えない剛力を加速させ、渦となれ! エアリアルバスター!」


 電撃をまとう竜巻の魔法がセア・エーアールEの両肩から放たれた。ストームダガー、トロヴァオンといった戦闘機が渦に巻き込まれて次々に爆発する。


「ペトラのピュールEには近づかせないってな!」


 風の鬼神機と随伴機ずいはんが戦闘機の迎撃を阻む。そして炎の鬼神機が長距離狙撃により艦艇を狙撃し、破壊する。第三艦隊は窮地きゅうちに陥るのだった。

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