第1248話、超要塞エスカトン


 地下世界への入り口から現れた巨大浮遊物体の一撃は、ウィリディス連合艦隊を襲った。

 第8艦隊旗艦『オニクス』の艦橋にいたシェード将軍は、艦隊の被害報告を受けた。


『戦艦3、空母1、クルーザー2、エスコート4、消滅!』

「セプテム提督のふねがやられたか……」


 第7艦隊の旗艦『サウスダコタ』が轟沈。同戦艦『インディアナ』『ノースカロライナ』も撃沈され、さらに『テネシー』『オクラホマ』がエネルギー波の余波を受けて中・大破した。第7艦隊の9隻いた戦艦が、ただの一撃で半分を失ったのだ。


 この攻撃は、戦艦群の後方にいた空母群にも届き、大型空母『フランクリン』が轟沈し、『サラトガ』が大破。改装空母『プリンストン』が航行不能になっていた。

 他にも巡洋艦以下の護衛艦艇にも被害が出た。


 シェードの第8艦隊は影響がなかったが、それは今のところは、というだけだ。あの浮遊物体が第二射を放てば、次は第7艦隊にトドメか、あるいは第8艦隊に大きな被害が出るだろう。


「第7艦隊の指揮は『オニクス』が引き受ける!」


 シェードはすぐさま命令を発した。


「第7艦隊残存艦は、すぐさま魔導放射砲にて、敵浮遊物体を攻撃!」


 全高2キロに達する巨大飛行物体だ。的は大きいが、戦艦主砲といえど簡単に撃破はできない。今こそ、敵拠点殲滅せんめつ用の極大魔法砲の使いどころだ。


「魔導放射砲の大安売りですな」


 ルンガー艦長の皮肉げな表情に、シェードも苦笑する。


「自分でもこればっかりな気がしないでもない」


 第8艦隊の戦艦群は、すでにアンノウン・リージョン上空の敵艦隊掃討そうとうに使ってしまった。一発使い捨ての切り札ゆえ、シェード指揮下の連合艦隊では、第7艦隊艦艇に頼るしかない。


 第7艦隊の戦艦『マサチューセッツ』『カリフォルニア』『ネヴァダ』『ミシシッピ』と6隻のアンバルⅡ級クルーザーが艦首を敵浮遊物体に向けて、魔導放射砲を相次いで発射した。


 青白い光は、敵浮遊物体のビーム発射口――『サウスダコタ』ほかを撃沈した憎き凶砲付近に集中し、吹き飛ばすかに見えた。

 だが見えない壁がそれらの攻撃を弾き、本体への攻撃を防いだ。


『敵浮遊物体、無傷!』


 戦艦『オニクス』艦橋に走った報告に、シェードらは戦慄せんりつした。極大魔法の集中打を受けて傷ひとつ負わないとは。


「馬鹿な……!?」


 ルンガー艦長の驚愕はしかし、次の報告でかき消えた。


『敵浮遊物体の下方、アンノウン・リージョンより新たな敵艦艇が出現。その数、増大中! 多数です!』



  ・  ・  ・



 超戦艦『バルムンク』。第7艦隊残存戦艦が、魔導放射砲を浮遊物体に放ち、無効化されたのを俺も目撃した。

 驚きつつラスィアが解析を始めたが、何が起きたか俺にはすぐにわかった。


「結界水晶だ」


 エルフの里、アポリト浮遊島にもあった防御結界。ここ最近では『バルムンク』をはじめ、一部のウィリディス兵器にも採用された防御兵器。外部からの攻撃を、一部の例外を除いてほぼ無効化するそれは、俺のバニシング・レイの直撃にさえ耐えるだろう。


「あの浮遊物体は、結界水晶防御を採用しているんだ」


 その効果は絶大だ。こと砲撃戦では無敵である。……手がないわけではないが、攻撃手段がかなり限られてしまうな。


『浮遊物体下方より、多数の敵艦出現!』


 さらに敵は峡谷大穴より、増援艦隊を出してきたらしい。戦術モニターには、識別データなしの表記。つまり、またも新造艦を送り出してきたということだ。


「新型のバーゲンセールか?」


 まったく、やってくれるじゃないの。

 ドレッドノート級に匹敵ひってきする戦艦クラスが十数隻、さらにクルーザーや小型艦も上昇してくる。


「砲術! 敵戦艦級を砲撃せよ!」


『バルムンク』は旋回しつつ、その45.7センチプラズマカノン主砲を高度を上げつつある敵艦に向ける。

 一番から六番までの一斉砲撃。18本の光の弾は敵戦艦級の艦首を貫き、その艦体を爆発、四散しさんさせた。


「過剰火力だったかな? 各砲、個別射撃に変更」


 データがないから加減が分からないからね。とにかく、数に対抗しよう。


『閣下、「オニクス」と「レーヴァテイン」から指揮官通信です!』


 シェイプシフター通信士の報告に、俺は「こちらへ回せ」と告げる。キャプテンシートのコンソールに、ベルさんとシェードのホロが表示される。


『ジン、厄介やっかいなことになったな。ありゃ結界水晶だぜ』

『こちらの攻撃が通用しません。この間に敵がまたあの砲を撃ってくれば、艦隊は壊滅です』

「敵は浮遊物体だけじゃないぞ」


 俺は戦術モニターに表示される敵艦艇を示す光点を睨む。


「浮遊物体はあの巨砲のキャリアーだ。あれを使う時以外は防御に徹するつもりだろう。その間に、多数の艦でこちらを攻撃してくるって寸法だ」


 バルムンク艦隊、と言っても、ステルスしていない『バルムンク』と僚艦『ヴァンジャンスⅡ』2隻と、ベルさんのレーヴァテイン艦隊に敵は艦艇を差し向けたが、シェードの連合艦隊には、より多数の艦艇を送り出している。


 数の上ではもう同等以上になっている。いずれも新型艦で、個々の性能が不明なので、優劣の判断が難しい。


『敵艦隊は、どうやら我々の艦隊をあの大砲の射線に入れたいようです』


 シェードの言葉に、俺も同意する。戦術モニターには、浮遊物体正面を開けて、左右からシェード艦隊を挟撃するように敵艦隊が進んでいる。前進か、後退を強要しつつ、あの大砲でズドンという作戦だろう。


「それなら、敵艦隊に殴り込むしかないな」


 敵艦隊に敢えて突撃し、その中に入れば、浮遊物体もあの砲は撃ってこれないだろう。自分の味方艦をも吹き飛ばしてしまうからな。

 気がかりは、敵新型の性能と数だろう。突撃すれば当然、ノーガードの殴り合いに等しい。双方とも被害が跳ね上がる。


『正攻法が限りなく0なら、私は50:50を選びますよ』


 シェードは不敵に笑った。ベルさんが口を開く。


『あのデカ三角の始末を考えないといかんな』

「結界水晶は抜ける」


 これまでの経験から、結界水晶防御が、完全無欠ではないのは知っている。


「問題は、結界水晶を抜けた後の、デカブツをどう破壊するか、だ」


 いっそ『バルムンク』で突っ込むか。俺がそう思った矢先、通信士の声が割り込んだ。


『閣下、第3艦隊より緊急電! 「我、敵機ノ攻撃ヲ受ク。敵ハ魔神機」』


 アーリィーの第3艦隊が、敵の攻撃を受けているだと!? 彼女の空母機動艦隊は、シェード艦隊の遥か後方で、浮遊物体の先ほどの攻撃の射程外に位置している。

 にも関わらず、敵の攻撃を受けるってどういうことだ?


 しかも、魔神機、とは……?

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