第1247話、戦慄! 浮遊物体


 地下世界への入り口たる大峡谷から、多数の三角形が飛び出した。スティグメ帝国の新型戦闘機だ。

 バルムンク艦隊を発艦した制空隊は、その機首を敵の大編隊へと向けた。


「敵機!」


 ドラグーン可変戦闘機を操縦するベールは僚機と共に、迎撃に移る。


「ロックオン! ファイア!」


 まずは空対空ミサイルによる先制。僚機もそれに続き、戦闘機より速く飛翔するミサイルが糸を引いて幾つもの火球を発生させた。

 しかし、雲霞うんかの如き大群の前ではあまりに少ない。


『気をつけろ! 新型だ』

『ヘッドオン、注意!』


 回避機動を取りつつ、前方掃射を兼ねてのプラズマカノン連射。青い光弾は、射線をよぎった敵機の表面に青い火花を煌めかせたように見えたが、次の瞬間、爆発した。


 ――今、シールドがあったか?


 ベールは、瞬きの間に起きた現象を刹那、思考した。ドラグーンのプラズマカノンの直撃には耐えられなかったようだが、一応、敵戦闘機には防御シールドの類いがあるようだ。


「しゃらくせぇ!」


 元来の気の強さが出る。元エツィオーグを舐めんな!――敵機の数はあまりに多い。絶えずすれ違う敵機の姿に思わず口元を歪める。


「けっ、前も横も三角かよ! どこまで三角好きなんだ」

『上から見ると四角だぜ』

「うるせぇ!」


 僚機りょうきの軽口にそう返し、ベールは射線に入った敵機を撃つ。


 敵も反撃する。機首の先端にある紫のクリスタルじみた三角形から、同じく紫の光線を発射したのだ。

 密集しての一斉連射に、その正面にいた味方機数機が巻き込まれて爆散した。


「けっ、それなりに威力はあるようだな!」


 ドラグーン部隊の他、他の艦隊――おそらく第三艦隊からポータルで来たTF-3トロヴァオンやTF-5ストームダガー戦闘機が戦闘に加わる。その中で先陣を切るのは、マルカス隊長率いる歴戦のトロヴァオン中隊。

 しかし、それでも敵機の数のほうが多い。


「畜生、艦隊をやろうってか!?」


 敵編隊の先頭は、バルムンク艦隊に襲いかかった。



  ・  ・  ・



「対空戦闘! 射撃開始!」


 超戦艦『バルムンク』後部、第三主砲が火を吹いた。青いプラズマカノン光弾は、蛇の体のように細長い敵編隊、十数機を一撃で蒸発させた。

 さらに対艦・対空兼用の20.3センチヘビープラズマカノンが小刻みな射撃を開始する。僚艦りょうかんとしてつく重巡洋艦『ヴァンジャンスⅡ』も、同じく20.3センチヘビープラズマカノンを矢継ぎ早に放ち、敵機を撃墜していく。


「数が多い」


 俺は思わず眉をひそめた。こちらの空母はステルス航行にして逃がしたから大丈夫だが、対空火力よりも敵機の多さが問題だ。

 垂直発射管より対空ミサイルが連続発射される。シードリアクターの生み出す魔力が、次のミサイルをクリエイトし、迎撃に動員される。周りは爆発の光と音が滝のように押し寄せている。


 その迎撃を、味方の損失も構わず突っ込み、突破しようとするスティグメ帝国機。さらに踏み込んできたそれらに、対空砲が横殴りの雨のような弾幕を展開して阻止。

 狙った場所へほぼ直進する光弾はスクリーンを形成して、敵機をハチの巣へと変えた。

 モニターしていたラスィアが口を開いた。


「敵の新型は、機首に光線系の武器を一門のみ装備しているようです」


 爆弾やミサイルなどは装備していないようだ。

 索敵さくてき機器が捉えた敵機は、これでもかと三角形を意識したデザインだった。アポリト文明も三角が多かったが、それをとことん突き詰めたようだった。


「奴らは、何故そこまで三角形にこだわるんだ……?」

「何か?」

「独り言だ」


 俺は戦術モニターを睨む。

 防御シールド付き、武器はひとつのみ。大きさもスティグメ帝国のスカルヘッドと同程度と、小型軽量。パイロットがいるとしてもせいぜい一人乗りだろう。やたら作りやすそうではあるが。


「ベルさんのほうは大丈夫かな」

『レーヴァテイン艦隊も敵機と交戦中』


 シェイプシフター索敵士が報告を寄越した。ベルさんの艦隊、うちより対空砲の装備少なかったと思うけど……装甲の厚さで凌げるかな。


『閣下、峡谷より、巨大な物体が上がってきます!』

「巨大な物体?」


 なんだ、その不明瞭な物言いは? 艦艇じゃないのか。俺は戦術モニターを凝視ぎょうしする。

 それは超巨大な柱のようにも見えた。グググッと峡谷の穴から飛び出し、グングンと天へと伸びていく。


「大きい……!」


 ラスィアが絶句する。柱――いや、巨大な二等辺三角形の物体が大穴より浮かび上がった。


「浮遊物体……」


 巨大なダガーの刃のような浮遊物体だ。刃の部分は下を向き、柄にあたる部分に三角の頭のような構造物を覗かせた。


『全高およそ2キロ。直径およそ0.9キロ』


 索敵士が観測結果を報告する。


「スティグメ帝国め。こんな隠し球を持っていたとは」


 さすがの俺も、これには驚いた。

 吸血鬼どもは大型戦艦や空母ですら、小粒に見せるほどの超巨大な飛行要塞を保有したのだ。


『浮遊物体、第7、第8艦隊へ指向!』


 戦闘機が食らいついているせいか、はたまた数が少ないから俺やベルさんの艦隊は無視されたか。数の多いシェード将軍の大帝国解放軍とシーパングの連合艦隊のほうへ、敵浮遊物体は方向を変えた。


『浮遊物体より、高エネルギー反応!』


 飛行する物体の、剣でいうところの柄の部分に三角の窪みがあり、そこに三つの穴が開いていた。そのひとつひとつが、クルーザークラスをすっぽり入れられそうな大穴だ。


 その三つの穴が紫に輝き、光を放った。

 光は連合艦隊に伸び、それに飲み込んだ航空艦艇を吹き飛ばした。


「そんな……!」


 ラスィアが息を呑む。俺のバニシング・レイか、それ以上の強力な攻撃だ。


『第7艦隊に直撃!』


 シェイプシフター索敵士が叫んだ。


『旗艦「サウスダコタ」ほか戦艦2隻、消滅! 後方の空母戦隊にも被害。「フランクリン」信号途絶!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る