第1225話、一族のルーツ?
ヴィルの家に伝わる指輪と同じものを、プリムが持っていた。そのことはヴィルを驚かせた。
「何で、それを……? え、同じ?」
「……ふーん、兄妹の誰かのを拾ったとかじゃないみたいね。よく見たらすっごく古そうだし」
ほら、とプリムは、ヴィルに指輪を投げ返した。
「あんた、その指輪がどういうものか、知ってる?」
「一族に伝わるお守りだってことくらい。ねえ、何で、君が同じ指輪を持っているのさ?」
「軍曹。あたしは、あんたより階級上なんだけどぉ、ヴィル伍長?」
「……むっ。失礼しました、軍曹殿」
ヴィルが形ばかりの敬礼をしたところで、プリムの機嫌は直らなかった。
「それで、どうして――」
「ちょっと黙ってて」
プリムは腕を組んで考え込む。値踏みをするように、ヴィルをジロジロと観察する。
「……兄妹たちの子孫? でも誰とも似てないのよねぇ」
何の話だろう、とヴィルは思った。しかし問えば、この気分屋な少女が噛みついてきそうなので黙っておく。
やがて、プリムはため息をついた。
「埒が明かないわ。とりあえず、ちょっとついてきなさい」
「え? この後、リオと約束が――」
「おー、勤務時間終わったら、女とデートか。これだから盛りがついたお子ちゃまは」
「むっ、何だよ、その言い方は? いえ、その言い方――」
幼馴染みと夕食の約束をしているだけで、デートとかそういうのではない。それを年下の少女から『お子ちゃま』などと言われてムッとくるのは仕方がないところである。
「いいから来なさい。上官の命令は絶対ってやつよ!」
理不尽だ。それが軍隊というところでもある。不服な態度を見せれば、懲罰モノではあるのはすでに新兵訓練で学習はしているが、どうにも感情がコントロールできないのは子供ゆえか。
「なに、不満なの? どうしてもリオとの約束を優先したいのなら、あんたのお守りを置いていきなさい。それで許してあげる」
「え……」
形見の指輪を置いていけとは、ヴィルは面食らう。不機嫌そうな顔でプリムは言った。
「別に盗ろうってわけじゃないわ。ちょっと分析してもらうだけよ。借りるだけ」
「……」
返してもらえるようだが、分析とは何をするつもりだろう。ヴィルは少し考えて、渋々頷いた。
「わかりました。ついていきます。どこに行けばいいですか?」
「ラボよ。ディーツーママんとこ」
ここはノイ・アーベントの地下、第七研究所。その一角にある研究室に行くとプリムは言った。ヴィルもその後に続くが、唐突にプリムは魔力通信機を耳に当てて、歩きながら通話を始めた。
「あ、リオ? ごめーん、今大丈夫? ――何かこの後、ヴィルとデートらしいじゃーん。……ごめんねー、ヴィルはあたしとデートになったから――アハハ、冗談だって冗談! あたしがあんたのダンナ取るわけないじゃない。本気にしないでよ」
通話の相手はリオのようだった。仲がよさそう、というか良いのだが、ヴィルの目の前でかなり好き勝手言っている。
「ごめんってー。で、本題なんだけど、ちょーとヴィルがそっちに行く時間遅くなるからさ。――うん、野暮用。――うん、何だったら、こっち迎えにきてもいいわ。あたしが門番に話を通しておくからさ。あんたも話を聞いてもいいからさ――ん、じゃあねー」
プリムは通話を切ると、ジロリと後ろのヴィルを睨んだ。
「ちゃんと遅れるって嫁さんに連絡しておけって教わらなかったの?」
「いや……」
嫁さんって――ヴィルは困惑する。そもそもオブリーオ村にいたころは魔力通信機などなかったもので、予定変更を連絡する習慣はまったくなかったのだ。
・ ・ ・
ディーツーママこと、ディーシーのコピーであるディーツーは、魔法文明亡き後の人類を見守り、現代の戦争に向けての軍備を整えていた。
エルフの里の地下の旧アポリトの軍事施設を利用し、艦艇やスーパーロボットT-Aなどを建造した。
プリムから、ヴィルがジンの作った転移の指輪を持っていた件を聞いたディーツーは、子供たちにコーヒーを振る舞った。
「まあ、プリムの兄妹の誰かの子孫か、たまたま指輪を手に入れた赤の他人が先祖にいた、というところだろうな」
「ありがと。……誰の子孫かわかんないかな?」
プリムは自然にコーヒーを口にした。12歳の少女が砂糖もミルクも使わずに平然と飲んでいたが、ヴィルは苦いコーヒーはあまり好きではなかった。
「誰か、というならリノンか、クロウのどちらかだろう。イオンは子供が作れない体だったし、パルナは結局独り身だっからな」
「……」
ずずっ、とプリムはコーヒーをすすった。魔法人形として改造された子供たち。現代に転移した者たちの中にも、兵器に不要な器官として取り上げられた者もいる。
一応、ウィリディスの技術で失われた臓器の再生処置が可能なので、こちらに転移した者たちは処置さえ受ければ子供を作ることができる。
「あるいは戦死認定された兄妹の誰かかもしれないな。あれから9900年。何だかんだで初期は生き残りの人類にも苦難の連続だった。子孫たちの足跡を把握できていたわけでもない」
ディーツーは、ヴィルの持っていた転移の指輪を眺める。
「しかし、ヴィルにもその素養が引き継がれているかもしれないな」
「え?」
「君の魔力適性は非常に高い。上に報告しているが、魔神機を操れるレベルだ」
「魔神機って、あの――」
魔人機の上位で、最優秀な能力者ではなければ動かすこともできないという最強機体――とウィリディス軍内では言われている。
「えー、こいつが!?」
プリムは嫌そうな顔になる。ディーツーは淡々と言った。
「能力者と言っても、大体のところは保有する魔力量の問題だからな。まあヴィルは魔術師としても大成する才能があるということだ。今からでも転職するかね?」
「……」
「いや待てよ……。そう言えば君はオブリーオ村の出身だったな。あの辺りなら、クロウかもしれんな。T-Aの二号機を
「でも、僕の父はオブリーオ村の外から移ってきたって聞きましたが」
ヴィルは言ったが、ディーツーは首を横に振る。
「9000年以上も前の話だ。彼の一族も広く散らばっただろう。君の父がオブリーオ村に来たのも、一族に伝わるおとぎ話のせいかもしれんぞ」
鉄巨人T-A。大竜を退治したスーパーロボット。
「まあ、単なる
ディーツーは笑った。
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