第1224話、意外な人選
地下吸血鬼帝国進攻のための戦力が整いつつある。
水の魔神機セア・ヒュドールは、まさかの魔力消失空間を発生させる機能を新たに持たされた。
ディーシー先生曰く――
「広範囲冷凍フィールドは、結局のところ大気に含まれる魔力に働きかけ
RPG的な言い方をすれば、MP0なら魔法は使えないだろ、ということだ。吸血鬼はMP0で死ぬタイプなので、例えば人間が人質にとられていたとしても、吸血鬼だけを始末することができる。
いいね。俺は思わずニヤリとした。
「このまま倉庫に眠らせておくだけかと思ったが、ちゃんと出番があってよかった」
「……どうかな?」
ベルさんが首を捻った。
「こいつの場合、使い道自体はあったが、パイロットがいなかったってだけじゃね?」
元パイロットのリムネ・ベティオンは寿命と引き換えに、魔神機を操縦するほどの魔力を失った。
そもそも魔神機を動かすのは、操縦者に高い魔力適性が必要になる。
「ディーシー、候補はいるのか?」
「魔法人形の子たちの中でなら、イリスとアレティ。アリシャも魔神機を扱えるが、彼女はシェードのところで、セア・ゲーに乗っているしな」
アリシャ――セラスのことである。ディーシーにとっては、過去に飛んだ時にアリシャとの交流があったから、セラスという名前は受け付けないようだった。
気持ちはわかる。俺も短いながらセラスのアリシャ時代を知っているからな。
「イリスとアレティか……」
イリスは最年少。こっちに転移した時の年齢が11歳。彼女はサキリスの部隊で、セア・ラヴァカスタムを操縦して、バルムンク艦隊にいる。
一方のアレティは――
「リハビリは済んだのか?」
彼女は魔法文明時代から現代までの9900年の月日を、魔力消失装置のバッテリーとして過ごした。装置による延命機能により現代まで若さを保っていたものの、日常生活は問題ないが、身体能力がかなり落ちていた。だからある程度のリハビリが必要だったのだが……。
「運動能力は問題ない。うちで魔人機系パイロットが足りないと言ったら、そっちに志願してな。まあ、兄妹たちと一緒に戦いたいと思ったのだろう」
資料によれば、元々魔神機を扱えるよう調整されていたから、能力は不足ない。魔力消失空間を発生させる装置のバッテリー経験から、相性も悪くない。
とはいえ、この子も戦場を希望するんだな。それを思うと複雑な心境になる。
大帝国から救い出したエツィオーグの子供たちは、軍に残る者と民間へ行く子で分かれたものだが、魔法文明時代の魔法人形たちは、皆、軍に残った。
「それで、魔法人形以外で候補は?」
「魔神機クラスともなると、トップシークレット的な扱いになるから、こっちで適性をみて勝手にリストアップしたんだがな。魔神機クラスで、一人だけ見つかった」
「一人……」
シェイプシフターが大半のウィリディス軍である。人間の数はさほど多くないが、それでも一人、適性候補が出たというのは喜ぶべきか。
「誰だ? 名前は?」
聞いてわかるとも思えなかったが覚えておこう。するとディーシーが不敵な笑みを浮かべた。
「ヴィル伍長だ」
「誰だそりゃ」
ベルさんが言ったが、俺は首を横に振る。
「T-Aに乗っていたヴィル少年だろう。オブリーオ村の」
確か、木こりの家の生まれだっけか。T-Aと聞いて「ああ」とベルさんも思い出したようだった。
「村八分にされてた坊主か。何、あいつ、魔神機の適性があったのか? マジか?」
どこにでもいそうな地方の一少年。何かの才能に秀でるわけでもなく、何もなければ名もない木こりとして一生を終えたかもしれない。
「……いや、案外、そうじゃなかったのかもしれない」
「何だって?」
怪訝な顔をするベルさん。俺は
「偶然、守り神とされているT-Aに乗った……。これは偶然だったのか?」
スーパーロボットとして作られたT-Aの2号機。そういえば、何故、魔法文明時代のディーツーの置き土産があんな場所にあったのだろうか?
・ ・ ・
「何で、あんたがこの指輪を持っているのよ!?」
プリムは親指と人差し指で、それを掴んでいた。
ピンク色の髪をポニーテールにした少女は、歳は12歳だがこれでもウィリディス軍の軍曹である。それもそのはず、アポリト文明時代に施設で育てられた魔法人形にカテゴライズされている改造人間なのである。
そんな少女が肩を怒らせている相手は、同じく十代半ばの少年。オブリーオ村の木こりだったヴィルだった。
「返せよ! それは僕のだぞ!」
「あたしの質問が先でしょうが!」
ピシャリと言い放つプリム。ヴィルはこの階級では上になる少女が苦手だった。常に強気で、グイグイくるタイプだ。幼馴染みのリオも似たところがあるが、プリムはそれ以上である。
「何で、あんたが、これを持っているのよ?」
「持ってちゃいけないのかよ!」
「いけないわよ! これはお父さんからあたしたち兄妹がもらったもので、何で関係のないあんたが持っているのよ!」
「はあ!? それは僕の家のお守りで、父さんの形見なんだよ!」
返せ、とヴィルは手を伸ばす。プリムは取られまいと手を伸ばしたが、ヴィルのほうが背が高く届きそうになる。
だがそれで
「あっ……!」
二人して床に倒れ込んだ。ヴィルはプリムを押し倒す格好になり、下敷きになった彼女が「ぐぇっ!」と少女らしからぬ声を出した。
「つぅー、ごめん」
「イテテ……っていうか、どこ触ってんのよ! ヘンタイ!」
プリムの
「たくっ……。これがお父さんの形見ぃ?」
プリムは起き上がると、ヴィルの持っていた指輪を凝視した。
「じゃあ、聞き方変えるわ。なんであんたのお父さんは、うちのお父さんが作った転移の指輪を持っていたの?」
プリムはネックレスとして下げていた指輪を見せる。ヴィルが家のお守りと言った指輪とまったく同じものだった。
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