第1223話、対吸血鬼兵器


 ポータルを利用してアリエス浮遊島軍港へと向かう。

 修理されているウィリディス軍艦艇を余所に、兵器開発部門の施設を訪れる。シェイプシフター整備員の他、ドワーフ作業員の姿が多く見られる。

 大帝国からの離脱組の中で、大帝国へ一発お返ししたいと考えている者たちの就職先のひとつになっている影響だ。


「ほう……」


 俺は、新顔である人型兵器を見かけて思わず声が出た。

 1機は、以前ドワーフの職人ノークが図面を見せてくれたスーパーロボット。重装甲、屈強な戦士を思わすスタイルの機体だ。


 最初期スーパーロボットのT-Aより幾分か精悍せいかんさが増しているが、メイン武装は巨大ハンマーであるギガントハンマーに、ドリルブーストパンチ、マギアブラスターと重武装である。


「完成していたんだな」

「ああ、ストレングスだな」


 ディーシーが、ドワーフ設計のスーパーロボットをそう呼んだ。


「名前をつけたのか?」

「仮の名前だがな。名前がないと呼びづらいだろう? 記号と数字だけではわからん奴もいるしな」

「なるほどね」

「開発部門が便宜べんぎ的につけた名前だ。主たちで名前をつけていいぞ」

「いいや。そのままでいいと思う。名前を考えるのも面倒だし」


 いいじゃない、ストレングス。名前の通り、強そうだ。

 ベルさんが視線をズラした。


「んで、隣の新顔は何だ?」

「俺も気になってた」


 こちらもストレングスと同様、魔人機に比べると頭ひとつ大きい機体だ。ただ無骨なドワーフ機に対して、こちらはより細身で、背中には風系魔人機を思わせるスラスターユニットが搭載されていた。


「こちらはガエアが設計したスーパーロボットだよ、主」


 エルフ考案のスーパーロボットだった。ノークとコンビを組んでいたエルフ職人のガエア作らしい。


「飛行型か」

「射撃型というべきかな」


 ディーシーは解説した。


「高速で飛行し、敵の射程外から強力な一撃を叩き込む。エルフらしい長距離射撃機だ」


 エルフは弓の扱いに秀でている。その腕前は他の種族と比べても抜きん出ていると言われる。


「メインウェポンは、マギアブラストランチャー。マギアランチャーよりさらに強力な携帯武器で、威力はT-Aのマギアブラスターと同等だ」

「そいつはすげぇ」


 新生青の艦隊の艦艇は主砲にマギアブラスター砲を搭載しているが、それと同等火力をこのスーパーロボットは装備しているという。 

 魔人機よりチョイ大きい程度って、艦艇からしたら小さ過ぎる。それが高速で飛び回り、戦艦をも仕留める攻撃を仕掛けてくるなんて、艦からしたら天敵じゃないか?


 対空砲の範囲外から狙撃にてっして、狙われたり迎撃機に近づかれたら高速で離脱……。何という最強スナイパー。


「ストレングス同様、ブァイナ鋼装甲に結界水晶で防御も万全だ。取り囲まれた時用のクリエイトミサイル、近接用の超甲ブレードも標準装備だ」

「単機で大暴れできそうだな」


 まさしくスーパーロボット。しかし気になるところがある。


「だが、こいつはシードリアクターは積んでいないんだろ?」


 俺がそのようにオーダーしたからな。シードリアクターは数が制限されているから、それなしでスーパーロボットが作れないか、というプランのもとに作らせたのだから。


「マギアブラスターランチャーは、魔力を封入したカートリッジを装填するやり方で使う。予備のカートリッジを携帯するが、無尽蔵には撃ちまくれないな」


 まあ、そうなるわな。だが敵のアウトレンジからの狙撃に徹するなら、予備をいっぱい持っていけばカバーはできるか。


「こうなると……スーパーロボットにも欲しいな。魔力照射式充電システム」


 魔力照射式充電システム――シードリアクターの無尽蔵な魔力を自分以外の味方に送って供給しようと考えだされたシステムだ。

 繰り返すが、シードリアクターの数には限りがある。それ故に考案された魔力補充システムである。


「魔力照射システムって、確かシャドウフリートと青の艦隊にあるやつだっけか?」


 ベルさんが言えば、ディーシーが頷いた。


「ああ、カラドボルグ級超重巡と、ブリューナク級ステルス戦艦に搭載されている」


 新生青の艦隊は、主砲にマギアブラスターを使用している。しかし威力と引き換えにエネルギーの消耗が激しいために、通常の魔力動力ではすぐに撃てなくなってしまう。その解消に作られたのが、シードリアクター搭載艦からの照射式充電システムだった。


「そうやって聞くと、色々苦労してんのね」


 ベルさんが苦笑した。工夫と言って欲しいね。俺はディーシーを見た。


「この機体の名前は?」

「ティフォーネだ」


 台風か。強そう。空中戦対応の高速機動型スーパーロボットか。中々使い方が面白そうな機体である。


「それで、これが研究成果ってやつか?」


 ベルさんが聞いた。


「魔力消失に関係する単語は何一つ出ていないが」

「違う違う。それはこっちだ」


 ディーシーが足を早める。どうやら俺たちが見慣れない機体に気をとられたせいで、本命にたどり着いてさえいなかったようだ。

 奥には、これまた見慣れない新型と、もう1機……。


「こいつはアドウェルサ。敵地に突入して、魔導放射砲を発射するために設計された」

「なに!?」


 ディーシーの解説に、俺もベルさんも驚いた。魔導放射砲って言ったらウィリディス戦艦などに装備された使い捨て決戦兵器である。俺の極大魔法、バニシング・レイを使うっていうアレだ。

 マギアブラスターでも相当だったのに、ディーシーさんは、スーパーロボットにもバニシング・レイを実装しやがった!


「なに、魔導放射砲はあくまで一例だ。こいつには対吸血鬼用に魔力消失空間を発生させる特殊弾頭をぶっ放してもらう予定だ」


 ティフォーネ同様、飛行ユニットを持つが、その外観は装甲のせいでかなりマッシブだ。……気のせいかな。某ロボットアニメで核弾頭を装備したアレのように見えてきた。


「そして、こっちが本命だ、主」


 ディーシーがアドウェルサの後ろに立っている機体を指さした。これは……。


「魔神機じゃねえか?」


 ベルさんが突っ込んだ。俺たちの前にあったのは、水の魔神機セア・ヒュドールだった。かつてのリムネ・ベティオンの機体であり、この時代では大帝国が使用し、俺たちで鹵獲ろかくした。


「これが切り札?」

「ちょっとばかり改造したんだ」


 ディーシーは自信たっぷりに言った。


「広範囲冷凍フィールド……アイス・コフィンだったか? アレを応用して範囲内の魔力を強制消失させるようにしたのだ」


 吸血鬼絶対コロスフィールド発生機持ちの機体、ということである。なるほどねぇ……。それは強い!

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