第1222話、プロヴィア全土解放に向けて
「ふはは、相変わらずぶっ飛んでるな、お姫様はよ!」
「ベルさん、笑い事じゃないって」
俺は超戦艦『バルムンク』の艦橋にいて、黒猫姿の相棒に、エレクシア・プロヴィアとのやりとりを明かした。
「で、寝たのか?」
「ノーコメント」
「いまさら隠すなよ。前にプロヴィアを解放した頃なんざ、しょっちゅうシテただろうがよ」
彼女の望むままに。
大帝国の兵隊の死体の山を築くことを彼女は願い、俺と肌を重ねた。お姫様にそれだけの覚悟をさせたのは、大帝国によって家族を
それしか与えられるものがなかったから。
「あの娘はオレ様の目から見ても美人だと思うよ」
魔王様の目に留まるとは、エレクシアの『絶世の美女』評価の揺るがないことよ。そういや、昨年のプロヴィア解放の戦いの頃にいたヴィックのところの亜人も、彼女に見惚れていたからな。吸血鬼どもさえ魅了してしまえるのではないか……。
とか考えたら、半サキュバスのエリサを思い出した。まあ、エレクシアは正真正銘の人間だけど。
「それで、お前さんはプロヴィアをどうするつもりだ?」
「……」
「エレクシアは、お前が望むなら王位を
「俺にプロヴィアの王になれってか?」
「この国の民は、お前を英雄として崇めているからな」
「ヴェリラルド王国では南方公爵。リヴィエルでは後継者を求められ、プロヴィアでは王か」
自虐的にもなる。
「プロヴィアは、エレクシアにまとめてもらう。この国には象徴として、プロヴィア王家が必要だ」
「象徴として、ねぇ……」
「彼女は、シーパング同盟に参加を表明した。協力国だから当然ながら支援をする」
「お前さんが言えば、女王さんとプロヴィアは何でも賛成してくれるだろうぜ」
ベルさんが皮肉げに笑った。
「知ってるか、ジン。そういうの、
「人聞きの悪い。プロヴィアにはちゃんと民のための政治をしてもらうさ」
たとえエレクシアが盲目的に俺に忠誠を誓ったとしても、民が全面的に支持するかは別問題だ。
英雄を望み、政治を託したら暴君と化して国を
「まずは、スティグメ帝国をプロヴィアから叩き出す。王都方面の
それが今やらなくてはいけないことだ。
「艦隊を
ゴーラト王国をはじめ、局地戦の経験はある。ウィリディス軍には優秀な海兵や陸上戦闘団もある。
しかし今こっちはクーカペンテ解放にも陸上戦力を割いていて、電撃的にプロヴィアを解放するには、少々戦力が足りない。
こちらのアンノウンリージョンは、増援がいつ来てもおかしくない状況だから、プロヴィアの敵は手早く片付けたいところではある。
「ファントムアンガーに、クーカペンテは任せるとして、シェード将軍の解放軍をこちらへ移動させている」
シャドウフリートは奇襲艦隊で、ステルス空母群と強襲海兵団を有している。電撃戦的作戦での活躍は期待できるが、複数方面を同時進攻するには数が足りない。
青の艦隊や俺のバルムンク艦隊は、魔人機はあっても規模としては連隊や師団には遠く及ばない。
「だが、やっぱり不足だよ」
「そうなると、オレ様の艦隊の出番かな?」
ベルさんが不敵な笑みを浮かべた。
レーヴァテイン艦隊には、突撃型強襲揚陸艦がある。これは敵地に突入し、
ディグラートル大帝国が使っていたMMBシリーズ――モンスターメイカーのようなものと言っていい。
……そう考えると、あれも疑似ダンジョンコアって考え方もできるか、と今更ながら思った。
「まあ、そうなんだけどね。ただ、できれば、そろそろスティグメ地下帝国攻略のための兵器群をテストしておきたい」
「魔力消失装置か」
「吸血鬼殲滅の切り札。だが切り札がきちんと使えるかどうかは、やはり実戦で試しておきたい」
吸血鬼だけを殺す機械である。それが使えるなら、プロヴィアの王都など人口の多い都市でも被害を抑えつつ奪回できるのでないか。
「しかし、あれはこっちの兵器もダメにするぞ。魔人機やマギア兵器。オレ様の突撃揚陸艦の疑似ダンジョンコアも使えなくなるんじゃねえか?」
「ベルさんの指摘はごもっとも」
魔力消失空間の影響で、魔力動力の乗り物や兵器が使えなくなるというのは折れた世界樹遺跡で経験済みだ。
「ただあれは、魔力タンクなどで活動可能時間の延長は可能だ。それに数は少ないがシードリアクター搭載兵器は、魔力消失空間内でも無期限稼働ができる」
無限の魔力を生み出す世界樹の種子を使ったシードリアクター搭載艦艇やスーパーロボットは動ける。それ以外はプロペラントタンク装備である程度は使える。
ベルさんは鼻をならした。
「じゃあ、プロヴィア解放は、それら魔力消失兵器の試験場にするってことか」
「どの道テストは必要だ」
「――ほほう、すると我らの研究成果を見せる時がきたようだな」
「ディーシー」
ダンジョンコアロッドこと、ディーシーが艦橋に現れた。このダンジョンコアの擬人化少女は何故か白衣を着ていた。
「ディーツーと、色々やっていたのだがな。主がそう言うのであれば使ってもらおうじゃないか」
やたらと自信たっぷりのディーシーである。
ここ最近、新兵器の開発に精力的に取り組んでいる彼女である。ダンジョンを作ったりしていない分、研究開発に没頭しているのだ。
魔法文明時代に三年ほどいて、その傾向が特に強くなっている。
「どれ、研究成果ってやつを見せてもらおうじゃねえか」
ベルさんが言えば、ディーシーは頷いた。
「ああ、ぜひ見てくれ。吸血鬼どものことは我がよく知っているからな」
……そういえば、その魔法文明の三年間は、吸血鬼帝国との戦いだったな。俺が思っている以上に、ディーシーにとっては因縁が深かった。
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