第1226話、吸血鬼長官と十二騎士
地下は暗黒世界だ。しかし魔水晶や人工の光源によってある程度の明かりは確保されている。
スティグメ帝国帝都グランドパレス。古き城塞と機械と生物が融合したような奇妙な城、プロフォンドゥム城。
皇帝の間に、一部を除いた帝国十二騎士が集まっていた。
騎士たちは一様に片膝をつき、頭を下げていた。なお、十二騎士らが忠誠を
しかし、その傍らにひとり立っている少女は、
「第一将、レイヒェ!」
「はっ、ここにおります!」
小柄の悪魔美女は頭を下げたまま返事をした。
玉座のそばの女は、淡々と十二騎士を見下ろした。
プラチナブロンドのショートカットに灰色肌。十代半ばの少女にも見える幼さだが、そのまとう黒の軍服は
「第二将、タルヴ!」
「――第二将は戦地におり、不在にございます。ハル長官」
レイヒェが答えた。ハル長官と呼ばれた少女は鼻をならした。
「第三将、ジェモー! ゲモニー!」
「……」
十二騎士たちは誰も口を開かない。第三将軍の双子は、すでにこの世にいない。
「第四将、カンセル!」
沈黙。彼も戦死である。
「第五将、ウィクトル!」
「はっ!」
沈着冷静なる将軍は頷いた。
「第六将、デェーヴァ!
「ここに!」
妖艶なる吸血鬼美女は頭を下げた。
「第七将、ヴィスィー!」
――
「第八将、ルピオ!」
――
「第九将、シュッツェ! 第十将、ガウル!」
連続して四人の名前だけが虚しく響いた。
「第十一将、ヒュドロ!」
「ハッ!」
老練な紳士風吸血鬼が応えた
「第十二将、ルィー!」
「はっ!」
メガネをかけたヒレ型の耳を持つ悪魔女性が機械的な声を出した。
ふむ、とハル長官は、一同を改めて見回した。
「天下の十二騎士も、半分しか残っていないとは、だらしがないのだわ」
十二騎士たちは無言である。この見た目、最年少に見えるハル長官だが、この中で誰よりも年上であることを一同は知っている。
それこそ、現存する吸血鬼一族の中で、皇帝のありし日を知る最古参なのだ。自称9902歳の吸血鬼――それがハル長官である。
「まったく不甲斐ない。皇帝陛下も嘆いておられるのだわ」
あからさまにため息をついたハルは、玉座の手すりに腰を下ろした。
十二騎士たちは目を剥いたが、当のハルは表情ひとつ変えず淡々と言った。
「私の知る最も古い十二騎士も、半分はちょっと腕が立つ程度の雑魚だったけれど、
さっと機械的に冷たい目で、騎士たちを見下す。
「ここに残っている半分は、そうした雑魚ではないことを祈らないといけないのかしら?」
「……」
「誰か、答えてくれないかしら? 我がスティグメ帝国は、地上人にすら勝てない雑魚に成り果てたの?」
「恐れながら――」
第十二将ルィーがメガネを光らせた。
「下等なる人間が我ら吸血鬼を凌駕しているとはとても思えません」
「では、何故負けたのかしら?」
「はっ、その者が家畜と侮った間抜けと、無能故かと」
なっ――レイヒェとデェーヴァが、ルィーを睨んだ。二人は自身の艦隊を率いたものの大損害を
何より戦死した同僚を無能呼ばわりは、周囲の反発を買うのは仕方がないことだった。
「間抜けと無能か」
コロコロとハル長官は笑った。あまり表情が変わらない彼女にしては珍しいことだった。
「皇帝陛下は十二騎士の不甲斐なさに頭を抱えていらっしゃるのだわ。ルィー、無能な同僚のせいでお前も苦労するわね」
「恐れ入ります」
「ウィクトル」
「はっ、長官」
第五将、ウィクトルが頭を上げた。
「諜報部の無能は
「はい」
「それは結構なのだわ。……皇帝陛下が新たな攻勢をお命じになられたわ。保存遺産をいよいよ解禁するけれど、人間は集まったのかしら?」
「恐れながら、前線拠点確保の失敗から、確保できた量は半分ほどとの報告を受けております」
「そう。まあ、その半分でも相当な戦力にはなるわ。地上の戦力は
「ははっ!」
さて――ハル長官は、玉座の手すりから腰を浮かせた。
「地上侵攻のための戦力は保存遺産で穴埋めはできるでしょう。あなたたち十二騎士が無能集団ではないところを見せてもらうとするわ。第二弾作戦、その制圧目標は必ず手に入れるのよ?」
ハル長官は騎士たちに背を向けた。
「わたしたち吸血鬼にとって魔力は命。故に失敗は許されないのだわ」
「はっ、必ずや!」
十二騎士たちは頭を下げた。
地上制圧に失敗したスティグメ帝国。第二弾作戦と名付けられた次の計画は、生命線である魔力源の確保。
すなわち、魔力を無限に生み出す世界樹を手中に収める。
そのために、数千年の間に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます