第1219話、ジン・アミウールの帰還


 古い神殿遺跡だ。

 俺とベルさんは、吸血鬼兵が整列している正面入り口をすり抜けた。透明化の魔法を使って内部へ。

 山をくり抜いて作られた地下遺跡は、だいぶ朽ちていて一部洞窟と見分けがつかない場所もあった。


 道中、殺されたプロヴィア人の戦士たちを喰らう雑兵吸血鬼と出くわすと、そいつを始末し、初めて足を踏み入れるアミール教の遺跡内を進んだ。

 そして奥にたどり着いた。


 美しき女王陛下――エレクシア・プロヴィアを跪かせ、軽薄けいはくな表情を浮かべている吸血鬼。……うん、これは死刑だ。

 周りの吸血鬼兵どもの体から魔力を根こそぎ抜き取り、その生命活動を絶つ。


 ――久しいな。吸血鬼ども。


「お前たち吸血鬼を根絶するため、真なるアポリトの支配者の名代として参上した」


 俺が見つめれば、吸血鬼たちは動揺を露わにした。

 そうだぞ。ジン・アミウールの登場だ。恐れおののけ吸血鬼!


「フ、フン! 我らが始祖の代よりの宿敵ジン・アミウールが、この時代に生きているはずがない!」


 指揮官らしい吸血鬼が吠えた。


「どこで奴の名を知ったか知らぬが、我らの前でその名を出して生きていられると思うな! 八つ裂きにしてくれるっ!」

「ほう、ではお前はどのように刻んでくれようか」


 俺が一歩を踏み出せば、吸血鬼は指さした。


「ほざくなよ、下等種! 貴様ひとりで何ができる!」

『ハッ、ひとりだってよ』


 ベルさんの声がどこからともなく木霊した。そして遠くから爆発音がして、地震のような揺れがやってきた。


「なんだ……?」


 動揺する吸血鬼たち。俺は、またひとり敵吸血鬼兵の生命を絶った。


「残念だが吸血鬼。お前たちは俺が多勢に無勢の中に飛び込んできたと思い込んでいるようだが、どうして一人だけだと錯覚した?」



  ・  ・  ・



 空に開いた複数の青い輪。そこから飛び出すのは第三艦隊の航空隊。タロン艦上爆撃機が猛禽もうきんの如く、遺跡上空のスティグメ帝国艦隊に飛び込めば、イール艦上攻撃機が必殺の大型対艦ミサイルを発射した。

 完全な不意打ちだった。


 大帝国と違い、航空兵力をもたない蛮族とプロヴィア人を見下していた帝国艦隊は、空からの襲撃に対応が遅れた。

 オルキ級クルーザーやフート級フリゲートは迎撃する前にミサイルを次々に叩きつけられて爆発、沈められていった。


 ようやく対空用魔法砲座が起動した頃には、荷物を投下し終わり第三艦隊航空隊は、空に開いたリング、ポータルへと離脱しつつあった。

 完全なヒット&アウェイ。クーカペンテ王都解放戦からの連戦だけあって、アーリィーの第三艦隊航空隊は全力出撃ではない。


 あくまで先制のジャブだ。本命はここからである。

 スティグメ帝国艦隊の目が上に向いた間に、大型ポータルを使って艦艇が転移してきた。

 青い艦体色――しかしそれはシーパング艦隊ではない。第六艦隊こと元祖『青の艦隊』だ。


 エルフの里での戦いで損害を受けた青の艦隊は、シャドウ・フリートと共に新たに生まれ変わった。

 新鋭のカラドボルグ級超重巡洋艦『カラドボルグ』『アンサラー』に率いられた6隻のデファンス改級巡洋艦が高速でスティグメ帝国艦隊に肉薄すると、その主砲を次々に発射した。


 その野太い紅蓮のビームは、プラズマカノンではない。スーパーロボットT-Aの搭載するマギアブラスターを改造したそれを主砲として搭載している。

 紅蓮の一撃は、ようやく張った防御障壁を貫き、スティグメ帝国クルーザーの装甲を溶断し、爆散ばくさんさせた。


 まさに一撃必殺。恐るべき破壊力は、わずか8隻の青の艦隊が通過する頃には、その2倍近いスティグメ帝国艦艇を葬っていた。

 撃沈された中には北部制圧艦隊の旗艦も含まれていた。強靱なシールドと装甲を持つ戦艦をただの一斉射で撃沈され、残存艦の艦長らは動揺した。


 圧倒的火力の差を目の当たりにした。艦隊があっという間に半分以上を沈められ、指揮官もいない。

 逃げるのか。残存艦で集まり反撃するのか――そのわずかな対応の空白を、ウィリディス軍は見逃さない。


 突如、何もない空からミサイルが飛び出し、スティグメ帝国残存艦に襲いかかる。突然の衝撃にクルーたちが投げ出され、また誘爆に巻き込まれて吹き飛ぶ。


『何がいったい――!』


 吸血鬼艦長がどこから攻撃されたのか艦橋の窓に張り付くが、見えたのはミサイルが転移してきたように突然現れたところくらいだった。

 またも友軍艦が爆発、四散する中、ようやくにしてミサイル以外のものが現れた。



  ・  ・  ・



「ステルス解除。『キアルヴァル』浮上!」


 シップコア、エスメラルダの号令に従い、新生シャドウ・フリートの前衛攻撃艦隊がその姿を現した。

 歴代シャドウ・フリートの旗艦を務めてきた高速巡洋艦『キアルヴァル』も前回の戦闘での修理の際に改装が加えられた。


 15.5センチ三連装プラズマカノン四基はヘビープラズマカノン仕様に強化。さらに左右のエンジンブロックは、デファンス級クルーザー同様に大型化、改良され、30.5センチプラズマビーム砲を四基追加、攻撃力が大幅強化されていた。


 改三仕様のキアルヴァルの他に、カラドボルグ級超重巡をそのまま大型化したようなブリューナク級ステルス戦艦が三隻、その漆黒しっこくの艦体をさらした。

 こちらもマギアブラスターを主砲にし、その強力な火力でスティグメ帝国残存艦を蒸発させていく。


『敵艦、逃走しつつあり』

殲滅せんめつせよ!」


 エスメラルダの指示は、まだステルスの海にいるオーシャン級潜空艦隊に届く。姿を消したままミサイルを連続発射、逃げる敵艦艇のエンジンを吹き飛ばした。推力を奪い、エンジンの誘爆でスティグメ帝国艦を撃沈する。


『敵艦隊、全滅』

『航空隊より報告。敵地上部隊を攻撃しつつあり』


 シャドウ・フリートの誇るステルス空母群から発艦したゴースト航空隊が地上のスティグメ帝国の吸血鬼部隊に爆撃を加えていた。

 随伴ずいはんするヴァルキュリア級強襲巡洋艦からは、シェイプシフター歩兵やパワードスーツを積んだ上陸艇が発進。残存する吸血鬼兵の掃討そうとうにかかった。


『こちらフレスベルグ1』


 ポータル運用型ステルス戦闘偵察機――TRF-01レイヴンを操縦するリムネ・ベティオンの声が通信機から響いた。


『艦隊ならび航空隊のポータル誘導終了。帰投します』


 第三艦隊航空隊、青の艦隊を戦場に導いたワタリガラスの名を冠する特殊偵察機は、ポータルポッドを収容し、母艦である『バルムンク』へ帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る