第1217話、統治するは地元の人間でなければいけない


 クーカペンテ国の統治機関を暫定ざんてい的に立て、それをヴィックに押しつけた。祖国解放と復興については他国からの支援はするけど、現地の人間が中心でやるのが一番だからね。

 これについて、ヴィックは少々思うことがあるようで。


「オレもファントムアンガーに加わって大帝国との戦いに参加したかったんだが……」


 大帝国などへの復讐心はあるが、ファントムアンガーに、と言う所から、連合国へも相当不満を抱いているのが見てとれる。

 ま、彼らクーカペンテ人も俺同様、連合国上層部の犠牲者だもんな。


「祖国復興も大事な仕事だろう? 早々に国を解放したら、希望通りファントムアンガーに参加してもいいからさ」


 そう言って俺は、彼をなだめる。


「じゃ、俺は次の戦地へ行くよ。こっちも中々よろしくないようなんでね」

「どこに行くんだ?」

「プロヴィアだ」


 クーカペンテ国の東にあるお隣の国である。ディグラートル大帝国との戦いでは、クーカペンテについで西側にある国として、戦争の最前線とされ、また占領された国だ。

 今はスティグメ帝国の出現ポイントが近かったこともあり、吸血鬼どもが大帝国駐留軍を駆逐し勢力を広げている。


 今回、クーカペンテに移動してきたスティグメ帝国艦隊も、プロヴィア近辺で大帝国を叩きまくった連中だった。


「戦力が手薄になる……と思ったんだが、どうやら地下から増援があったらしい」


 だから、連中はそれまでいた艦隊をクーカペンテへ移動させられたわけだ。

 プロヴィア王国は、英雄魔術師時代のクーカペンテ解放のための通り道だった。その際にちょっとした因縁があって解放候補として優先順位は高かった。


「ジン」

「ん?」


 呼び止められたから振り向けば、ヴィックが頭を下げた。


「ありがとう」

「……ああ」

「幸運を祈る」

「あんたもな」


 俺はアドヴェンチャー号に戻り、そこから艦隊へと戻る。キャプテンシートに座る俺に、ディーシーが声をかけた。


「王都の敵はほぼ排除した。駐留艦隊が壊滅かいめつした今、この国の大帝国はもはや大規模な攻勢は不可能だろう」

「本国次第だが、増援どころじゃないみたいだからな」


 クーカペンテ国に残っている大帝国軍は現地に留まるか、本国へ逃げるかの二択しかないだろう。


「クーカペンテの政権が正式に発足するまで時間がかかる。おそらく各地の抵抗勢力のリーダーや元有力貴族などが出てくるだろうな。そのドサクサに紛れて大帝国の残党が悪さをしないように部隊を送ろう」


 ファントムアンガーか、シェード艦隊あたりで充分だが、ひと合戦の後だからな。補給に修理、再編などが必要だろう。


「――今回の戦闘……レガソ解放戦における損害記録が出来ている」


 ディーシーが、俺の席にそのデータを送った。


 ふむふむ……。沈没は戦艦2、巡洋艦8、護衛艦7、フリゲート15か。

 修理が必要な損傷艦は戦艦5、巡洋戦艦2、高速巡洋艦2、巡洋艦9、護衛艦8、フリゲート16。


 戦艦被害は、第七艦隊ことシーパング艦隊に集中したな。ベルさんとこの『レーヴァテイン』、俺の『バルムンク』が敵戦艦を引きつけるように前に出したが、敵の戦艦が大帝国、スティグメ帝国合わせて22隻だったから、他の艦隊の戦艦とも砲撃戦になったのだ。


 巡洋艦以下の損害も、敵連合艦隊を全滅させたことを思えばダメージは全体の半分、沈没艦はさらにその半分と善戦したといえる。

 空母や強襲揚陸艦は無傷で、アーリィーの第三艦隊は航空隊の被害はあれど、艦艇は損傷も沈没も0だった。まあ、各艦隊の空母群は後方にいて、砲撃戦の範囲外だしな。


 損傷艦は速やかにアリエス浮遊島軍港に戻すとして、残っている艦艇は……特に編成替えは必要ないかな。

 ガチでスティグメ帝国艦隊と殴り合うなら再編、統合もありだが、クーカペンテ解放での残敵掃討なら必要ないだろう。健在な空母群を主軸に各艦隊を動かしたほうが手早くやれそうだ。


 よしよし。俺は通信機で、各艦隊旗艦へ指示を出した。


「第七艦隊は、各艦隊の損傷艦をまとめてアリエス軍港へ帰還せよ。ファントムアンガー艦隊とシェード艦隊は、クーカペンテの敵残党の動きを注視し、攻勢ないし撤退とあればこれを叩け」


 一番損傷艦が多い第七艦隊に、護衛も兼ねて帰還。当初の予定どおり、クーカペンテ解放にはファントムアンガーとシェード艦隊を当てる。


『ジン、オレの艦隊は?』

「ベルさんは俺と共にプロヴィア王国だ」


 なお、プロヴィアには、俺とベルさんの艦隊の他に、今回のクーカペンテ王都レガソ解放戦に参加していない戦力を当てる。

 俺はシェイプシフター諜報部が収集した最新の情報に目を通す。


 大帝国本国は、相変わらず各勢力がにらみ合いを続けている。ケアルト元帥の軍部が、いよいよ他の勢力を武力鎮圧する準備を進めているようだ。軍部が本気を出したら貴族派と議会派は、若干抵抗できても結局は制圧されるだろう。


 海軍が不干渉を貫いているとはいえ、ケアルト元帥は陸軍を押さえているから、総戦力では圧倒している。

 いや、そう簡単にはいかないか。俺は思い直す。


 確かに数の上では軍部が多数だ。議会派は、まあこのままでは軽くひねられるだろうが、貴族派はそうはいかない。

 何せ貴族派は、ディグラートル大帝国の強力な武器開発軍ともいえる魔法軍がついているからだ。


 魔器まきを始め、現代兵器にも通じる有力な兵器やモンスター研究などは、人類至上主義者の多い貴族の手厚い支援があってのもの。魔法軍はその筆頭たる皇帝を失った後、スポンサーになってくれる貴族派に与している。


 ケアルト元帥は、兵器については認めているが平然と非人道に走る魔法軍をよく思っていなかった。それがここにきて、魔法軍と敵対することになったのだろうな。

 結果として、それがこの内部対立を長引かせる要因となっている。軍部が数で出れば、貴族派は魔法軍の超兵器を使用し、劣勢をくつがえそうとするだろう。


 被害を少なくまとめたいという意思は各勢力の共通認識ではあるが、自分のものにならなければいっそ、と暴走するのもまた人間というもの。迂闊な行動は取れないわけだ。

 まあ、しばらく小競り合いをしていればいい、と俺は思う。その間に、旧連合領の解放とスティグメ帝国を叩かせてもらうから。


 プロヴィアの敵は――俺は新たな資料に目を通し、苦いものがこみ上げた。

 敵の増援艦隊の規模もそうだが……。こっちの内容は――マジで? 女王陛下、生きていたの?

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