第1216話、レガソ解放


 クーカペンテ国旧王都レガソは、俺たちウィリディス軍――シーパング同盟が、大帝国から解放した。

 アセロ城は俺たちの手に落ちた。城内の大帝国兵は降伏したが、王都内では抵抗する残党兵がいて散発さんぱつ的な戦闘になっている。


 王都に向かっていたクーカペンテの残党軍の生き残りも王都に入り、アセロ城に到着した。

 その中に、かつてのヴィックの部下であったユーゴがいた。


「団長ぉぉー!」

「ユーゴ、生きていたか!」

「生きていたか、じゃねえですよ! あんたこそ――」


 そこからは言葉にならず男泣きするユーゴ。聞けば、戦竜騎士団の壊滅かいめつ以後――つまりヴィックが手足を失い、戦線離脱した後もユーゴは仲間たちと戦い続けていたという。


「――あれからも大勢が死にました。でも、またこうして王都が取り返せて、しかもほぼ死人だったはずの団長が生き返っている。いったい全体どうなっているんですか?」

「話せば長い。……いや、そう長くないかもしれない」


 そう冗談めかしたヴィックは、俺のほうを見た。


「ユーゴ、あちらにいるのがクーカペンテ解放に協力してくれたシーパング同盟軍のジン・トキトモ侯爵閣下――そして、オレたちのジン・アミウールだ」

「シーパング同盟……え? ジン、アミウールって……」


 ユーゴは目を丸くした。


「うわ、本当だ! ジン・アミウールだ! 死んだって、ええっ!」

「大げさだなあ」


 いちいちリアクションが大きい男だ。


「死んだって聞いてましたが?」

「連合国に裏切られてね」


 ぺろっ、と舌を出して見せれば、ユーゴの表情は固まった。


「え……どういうことですか? 大帝国との戦いで戦死したって」

「ああ、帝都に王手をかけた時に、連合のお偉いさんの一部が用済みってことで俺を暗殺しようとしたのさ。死んだことにして難を逃れたがね」

「そんな馬鹿な……」


 絶句するユーゴに、ヴィックが頷いた。


「その馬鹿なことのせいで、終わっていたかもしれない戦争は泥沼化し、オレたちのクーカペンテは再度占領された。希望を抱いて頑張っていた多くの同胞を失う羽目になった」

「……」


 傍らに控えていたティシアも沈痛な表情でうつむく。しばし言葉を失っていたユーゴは首を横に振った。


「それじゃなんですか。おれたちは、連合国に国を奪われたようなもんじゃないですか!? 今日まで戦った奴らは、何のために死んでいったんですか!」


 ちくしょう!――ユーゴはその場に膝をつき、床を力強く殴った。

 おそらくクーカペンテの人間すべてが、真相を知ればその矛先ほこさきは大帝国並に連合国上層部へと向くだろう。


 何せ終わっていたはずの戦争で、多数の同胞を犠牲にし、また心身とも傷を負ってきた。この憤り、憎悪は簡単に消えない。

 ……俺は、真相が広がることを止めない。裏切られた当事者だからね。それで連合国の支配層が民の信望を失い、内紛になろうともそれは連中の招いた結果なのだ。


 まあ、ぶっちゃけ、今は大帝国やスティグメ帝国といった侵略者をどうにかするほうが先だ。

 俺はユーゴの傍らに行くと、床を殴って折れた骨の治療に治癒魔法をかけながら言った。


「現状、王都レガソはクーカペンテ国の抵抗軍が解放した。この国に残っている大帝国残党は、おそらく西へ退避するだろう。あんたたちは同胞をまとめつつ、全土解放を進めていくと――それでいいな、ヴィック?」

「もちろんクーカペンテ全土の解放は必要だ。……しかし、戦力は――」

「ウィリディス軍から余剰の戦力を貸与する。まあ、正確にはシーパング国からってことになるが」


 余剰というのは世界樹遺跡から回収した兵器の再生、改修品だ。インスィー級戦艦――改イコマ級巡洋戦艦や、重巡、フリゲートの他、魔人機、航空機なども手配する。


「少なくとも、大帝国の機械兵器と互角以上に戦える武器をクーカペンテ人に提供できる」


 他の連合国にもシーパングから提供しているから、クーカペンテ国にも出さないとね。


「凄い大艦隊でしたからね。……すいません」


 ユーゴは俺の手当に礼を言った。ヴィックは腕を組んだ。


「航空機もかなりのものだった。オレもジンと戦場を飛んだが……頼もしいが貸与されても使いこなせないのでは――」

「うちの兵隊が指導するさ。足りない分は、義勇兵ってことで回してもいいし、ファントムアンガー側からの人員といえば、まあ悪いようにならないだろう」

「ファントムアンガー!」


 ユーゴが声を上げた。


「あの大帝国に抵抗していた傭兵軍ですね。聞いたことがあります。傭兵なのに略奪しないって評判の連中です。彼らも来ているのですか?」

「うちの連中はお行儀がいいだろう?」


 現地勢力を除けば、国家をまたいで大帝国に対抗している艦隊は、全部俺のところのなんだけどね。


「俺たちは大帝国とスティグメ帝国に対する攻撃を中心に動く。ヴィック、あんたはこの国をまとめてくれ」

「オレが……?」


 困惑するヴィックに俺は言った。


「あんたが、いまここにいるクーカペンテ人の中でたぶん一番身分が高いと思うよ。ラーゼンリート子爵殿」


 もちろん、ヴィックより上の立場の人間がいれば別だけど……。そこは現地の人たちで話して決めてくれ。


「この国はクーカペンテ人の国だ。統治はあんたたちでしろよ。足りない戦力は言ってくれれば出す。とにかくクーカペンテの人間の統治機関によるクーカペンテの軍が、国土奪回と再建を主導すべきだ」


 いくら解放に尽力したと言って、よその国の、特に縁もゆかりもない国の軍隊がやったら、新たな征服者と勘違いされてしまうからな。抵抗勢力には、あくまで大帝国などの侵略者への抵抗勢力であって欲しいから、こちらと敵対されるのも面倒なんだ。


 それには祖国解放の英雄としてかつて名を馳せたヴィック・ラーゼンリートが中心に進めたほうがスムーズに行くだろう。


「さっきから聞いていると、ジンさんが決めちゃってるみたいですけど、いいんですか? シーパング同盟軍とか、何か言ってきませんか?」


 解放したお礼をしろとか、領地を寄越よこせ、とかか? ないない。


「問題ないよ。なにせシーパング同盟軍で一番偉いの俺だもん」


 領地も目に見える資源はいりませんよー。……まあ、目に見えない魔力資源については、少しずつ徴収してましたけどね。自然環境を多少……モンスターが発生しにくいようにいじりましたが。

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