第1214話、クーカペンテ駐留艦隊の終焉


『スティグメ帝国艦隊、針路変更! 本艦隊に突撃の模様もよう!』


 解放軍艦隊旗艦『オニクス』。シェード将軍は向かってくるスティグメ帝国の戦艦と護衛艦群を見やる。

 すでに友軍の巡洋艦隊が四方から砲火を浴びせていて、護衛のフリゲートやクルーザーは時間と共にその数を減らしている。


 しかし、戦艦はそうはいかない。


「単縦陣のまま、敵の正面を抜け、左舷へ回頭。敵後方へ回り込め!」


 その場に留まって壁になっては刺し違える艦も出てくる。この戦いは決戦ではない。余計な損害を出すわけにはいかない。

 しかしその間にもシェード艦隊の戦艦群は最大火力を指向したまま、敵戦艦を1隻ずつ刈り取っていく。敵の頭を押さえた丁字は維持しているのだ。


 ――どう出る?


 そのまま離脱にてっして、こちらに背中を向けるか? あるいはあくまで体当たり同然の機動をとって、しつこく食いついてくるか? 後者であるなら厄介この上ないが。


 ――いや、この機動は離脱だ!


 スティグメ帝国艦隊の動きで、シェードはそう判断した。そうなれば追撃に移行して戦果を拡大――


『敵戦艦より魔人機反応多数! 敵艦載機、展開中!』

「ここにきて、艦載機か!」


 しかも航空機ではなく、魔人機とは……。いや待て、確かスティグメ帝国の魔人機ヴァンピールは空中対応の機体だ。


「艦隊離脱のための決死隊か……!」

「対空戦闘用意!」


 ルンガー艦長が号令を発した。

 シェードの解放軍戦艦は逃げる敵艦への砲撃を続行しつつ、向かってくる敵魔人機に備えた。



  ・  ・  ・



「ふははっ、まさかオレ様が鬼神機を使うハメになるたぁよぉ!」


 スティグメ帝国第8艦隊の指揮官にして、十二騎士第八将のルピオはコクピットで笑った。


「まあ、そういうことだ。切り札があんのは、てめぇらだけじゃねえってこった!」


 鬼神機スコルピオスは鋭角的なフォルムと、サソリの尻尾を思わすフレキシブルアームがあるのが特徴だ。

 全高は7メートル。肩と腕にもスパイクがついている。


「くぅらいやがれぇぇぇ! マキシマムシュートッ!」


 尻尾の先と両腕を前に収束した魔力は光を帯び、強烈な熱線となって放たれた。

 それはシェード艦隊の戦艦の縦列、その最後尾の艦に命中した。装甲が焼かれ激しい爆発が起きると、被弾ひだんしたマールカル級戦艦は後部から黒煙を吐きながら高度を落としていった。


「ヒャッハー! まだまだ行くぜェ!」



  ・  ・  ・



 敵魔人機隊の出現は、俺が操縦するアドヴェンチャー号にも届いた。


「そりゃまあ、いるだろうな」


 これまでの敵の艦隊もそうだった。旧アポリト帝国の流れを取り入れたスティグメ帝国の艦艇なら、空母がなくても魔人機などの運用が可能なはずだ。


「戦艦が1隻やられたってことは、やはり鬼神機か」

「だろうな。どうする、主?」


 ディーシーの確認に俺は頷いた。


「今頃、『バルムンク』に乗っている俺が魔人機を展開しているだろうよ」


 サキリスのリダラ・ドゥブ、グレーニャ・エルのセア・エーアールなどが鬼神機対策で出撃しているはずだ。


「……おっと、ベルさんも反応したぞ」


 こちらについて暴れ回っていたベルさんの戦艦『レーヴァテイン』から翼を持った人型悪魔、もとい魔人機のバンジャーが次々に発艦した。

 こちらも空中対応の魔人機――魔人機と呼んでいいかは微妙だが、それらがスティグメ帝国の魔人機と交戦に入る。

 吸血鬼マシーンと悪魔の戦士の戦いだ。


 さて、上は任せるとして、下も制圧しないとな。

 燃え上がる王都。しかし王宮や軍関係施設は手つかず――つまり、大帝国の駐屯軍がいるということだ。


「鬼神機が出てきてごたついているが、空の戦いはもうじき終わる。残すは地上だ」


 俺が振り返れば、ヴィックが頷いた。


「今度もまた、大帝国の連中を追い出してやる!」

「ああ! ――ソーサラーより上陸部隊へ。進撃開始だ!」


 すると待ってました、とばかりに12隻の強襲揚陸艦から揚陸艇と魔人機が発進。揚陸艇にはパワードスーツや歩兵部隊が搭乗していて、王都解放に向けていよいよ降下する。


 その地上部隊にあって最前線に突出しているのは、やはりというべきかベルさんの艦隊の3隻の突撃揚陸艦である。この3隻は直接、王宮付近に突撃をかけて地上部隊を展開した。



  ・  ・  ・



「おお、おお……我々はどうすればいいのだ!?」


 ディグラートル大帝国、東方方面軍クーカペンテ駐留艦隊のスィール中将は、ただただ狼狽していた。

 反乱軍――大帝国に抵抗する連中の集まりが、大挙押し寄せてきた時は肝を冷やしたが、スティグメ帝国艦隊がいたおかげで何とか踏み留まれた。


 しかし、そのスティグメ帝国の艦隊も反乱軍の前に大苦戦し、スィール配下の艦隊も次々に沈められていった。

 気づけば、旗艦『シャナーフタ』の周りに友軍艦は見当たらなかった。反乱軍艦隊にやられてしまったのだ。


「参謀長! 参謀長!!」


 わめくスィールだが、コガル参謀長は口を閉ざしたままだった。

 もはや、どうしようもない。どうにもならないのだ。


「逃げよう! 艦長、全速力だ! この戦域から離脱するのだ!」


 スィールは叫んだ。

 もはや逃げ場などないだろうに――コガルは諦観ていかんしていた。


 囲みを抜けようとした戦艦『シャナーフタ』だが、ウィリディス航空機部隊がそれを許さず、タロン艦上爆撃機やイール艦上攻撃機のミサイルを撃ち込まれて大破、撃沈された。

 帝国連合艦隊の一角、ディグラートル大帝国のクーカペンテ駐留艦隊は全滅したのであった。

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