第1212話、クーカペンテ解放の火
走るのを止められなかった。何故なら自分の国の王都が攻撃されているのだから。
ユーゴは目を血走らせる。
出身はラーゼンリート領で王都ではない。だが以前、敬愛するヴィック・ラーゼンリートの率いる大隊とともに王都を解放した。そして生き残り、王都の人たちの感謝の言葉を受け、共に勝利を喜んだ。
大人も子供も、男も女も全部。そこにいた人たちの顔がよぎり、そして破壊されていく王都を目の当たりにして血が
「お前ら、それでも人間かぁーっ!!」
叫んでいた。
不慣れな魔人機を操り、王都へと走る。何でもできる気がした。冷静さを欠いていた。だが心は戦えと叫んだ。
圧倒的な敵大艦隊。それに挑む一匹のアリに等しい。それでも怖くなかった。
そしてそれはユーゴだけではなかった。
クーカペンテの戦士たちは、これ以上同胞を見殺しにできなかったのだ。
潜伏していた時、敵から逃れる時、生き長らえるのと引き換えに、時に同胞を見殺しにしなくてはならなかった。
明日のために、国のために。涙を呑んで耐えてきた。
だが、我慢の限界は超えた。もはや、止めるものなし!
大帝国から
レシプロ機関の旧式航空艦である。辺境の偵察や哨戒任務につく程度の雑用艦は、しかし旧式の12センチ砲を振りかざし、突撃を
これに対して、スティグメ帝国のフート級フリゲートが一列に並んで高速機動。綺麗に前を行く艦の後をトレースする後続艦の列。その練度は高く、旧式コルベットの左舷側へと移動しながら、魔法砲による連続射撃を浴びせた。
たちまちコルベットは船体に無数の攻撃が突き刺さり、爆発した。砲が吹き飛び、艦橋が
神風は吹かなかったのだ。
精神的な
そしてそれは、クーカペンテの戦士の燃え上がるような戦意を挫いた。現実という名の冷や水が彼らに冷静さを取り戻させたのだ。
さらに大帝国戦艦群から放たれた主砲の一斉射が、クーカペンテの戦士たちの一団を襲った。
土砂が吹き飛び、魔人機が揺れた。その衝撃にユーゴは
機体がひっくり返り、静けさが戻った時、戦士たちの多くが艦砲射撃によって消し飛んでいた。かろうじて生き残った者や半壊した魔人機が動いているが、ただの一撃で戦闘力の大半が奪われてしまった。
「くそっ……」
もはやこれまでか。
ディグラートル大帝国とスティグメ帝国の両艦隊は、クーカペンテを無慈悲に
「抵抗も、解放も、すべて無意味――」
『――いいや、クーカペンテの兄弟。戦い続ける限り、味方は現れる』
通信機が音を立てた。それは懐かしさを覚える声。
『俺たちは、お前たちのすぐ後ろにいる』
後ろ――ユーゴは振り返る。カリッグのモニターが、その姿を捉えた。
圧倒的な数の航空艦隊。黒、赤の艦体色の艦が数十、いや百を超えて、さらに増えている。
青い艦隊、灰色の艦隊。大小様々な形の艦が次々に合流し、それは二百を超えて、もっと増えていく。
・ ・ ・
俺はアドヴェンチャー号を操縦し、艦隊の先頭に躍り出た。
ファルケ、ドラケン、トロヴァオン、ストームダガーといった各種戦闘機、タロン、イールら攻撃機が空母から発艦して、アドヴェンチャー号に続く。
「さすがに敵さんもこの数にビビるだろう!」
シェード将軍の解放軍艦隊。プロヴィアに向かわせる予定だったファントム・アンガー艦隊も、スティグメ帝国の動きに合わせてこちらへと寄越した。
さらにシーパング艦隊こと第七艦隊に、アーリィー率いるヴァリラルド王国第三艦隊、ベルさんのレーヴァテイン艦隊、俺直属のバルムンク艦隊。
他の任務を遂行している艦隊を除く主な艦隊が、ここに集結した!
「凄い数だ」
俺の後ろで、同行したヴィックが声を弾ませた。
「これが全部、大帝国に立ち向かう味方か!」
「勝てますね、ヴィック!」
ティシアが歓喜の表情を浮かべた。俺は通信機のスイッチを入れる。
「こちらソーサラー。全艦隊へ。攻撃を開始。クーカペンテ解放作戦を実行する!」
俺の解放作戦という単語に、ヴィックたちは力強く頷いた。さあ、やっつけようぜ。
「マルカス、エスコートはよろしく」
『了解、ソーサラー。トロヴァオン中隊、続け!』
アドヴェンチャー号にマルカス率いるトロヴァオン戦闘機中隊が
スティグメ帝国艦隊から艦載機が次々に発進する。あちらさんもやる気だ。
大会戦の火蓋が切って落とされた。
・ ・ ・
スティグメ帝国第8艦隊、旗艦『ルベルカウダ』。その艦橋で吸血鬼艦長は声を張り上げた。
「艦載機を全部出せ! 艦隊は地上人どもの攻撃に備えよ!」
「何なんだよ、あの数はァよぉ!」
十二騎士第八将、ルピオ・カルプは目を見開く。
「聞いてねぇぞ。こんな大艦隊はよぉぉっ!」
旧アポリト帝国艦も若干混じっているが、大半の艦艇はルピオも初めてみるものばかりだった。
つまり大帝国の艦隊ではない。帝国本国からの情報に上がっている友軍艦隊を各地で破ってきた勢力のものだと理解した。
「ハハハッ! 下等な地上人が
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