第1210話、パッコロー駐屯地攻撃


 クーカペンテ国の隣、旧プロヴィア王国はスティグメ帝国の攻撃を受けている。現地の大帝国駐屯軍ちゅうとんぐんは、その戦力の大半を喪失。周辺の友軍の増援を受けてきたが、それも限界という段階にきていた。

 その隙に乗じて、今回、クーカペンテと同時にプロヴィア王国への進撃を計画したのだが……。


「吸血鬼どもは攻撃目標をクーカペンテの大帝国軍に向けた」


 その支配地域を拡大させるために。


「面倒なことになってきたな」


 俺とベルさんは、ヴィックとティシアを連れてボロ家を出た。


「ファントム・アンガー艦隊がプロヴィアに進攻するタイミングで、まさかの移動」

「だが敵が出払ってくれるなら、ファントム・アンガーの進撃も楽になるんじゃねえか?」


 ベルさんが指摘した。俺は素直に頷けなかった。


「地下世界の入り口が近くにあるからな。増援があっての移動かも」


 つまり全然、手薄ではないかもしれない。

 ボロ民家の間の道を通れば、路地などからシェイプシフター兵が出てきた。


「味方だ」


 俺は一言、ヴィックとティシアに告げた。そのまま足を止めず進めば、シェイプシフター兵たちが俺たちの後ろについて、たちまち十数人の一団となった。


 大帝国のパッコロー駐屯所への道中、小さな広場には別の一団がいた。

 騎士と兵士――その甲冑の色、そして竜を模した紋章に、ヴィックとティシアは目を見開いた。

 騎士のひとりが、俺たちの行進に気づいた。


「気をつけ!」


 号令がかかり、その騎士や兵士はピンと姿勢を正した。ヴィックは思わず口走る。


「ガストン」

「お帰りなさい、団長」


 クーカペンテ戦士団所属の騎士、ガストンは小さく笑みを浮かべた。


戦竜せんりゅう騎士団、第三小隊生存者13名。団長がお帰りになると聞き、馳せ参じました」


 シェイプシフター諜報部を通じて現地の抵抗勢力に話を通しておいた。俺がヴィックに声をかけると聞いたら、ガストンは隠れていた仲間たちを呼集したのだ。


「よく生きていてくれた……」


 ヴィックがガストンに歩み寄り、その肩を叩く。ガストンは目元にうっすらと涙が溜まるが、ほがらかに返した。


「本当に手足が生えてきたんですね。またこうしてお会いできて光栄です」


 後ろの兵士たちも感極かんきわまったのか、涙を流したり、顔を押さえたりしていた。

 ヴィックが重傷を負った戦い以降、敗走し散り散りとなった仲間たち。彼らは潜伏し、大帝国の残党狩りを逃れたが、いまこうして隠していた装備を身につけ、戦いのために集まったのだ。


「そしてジン殿、ベル殿。お久しぶりです」


 ガストンは俺たちにも向き直った。連合国にいた頃の、邪神塔ダンジョン以来の古参兵である。


「元気そうで何よりだ」

「無事と聞き、安心しました。お二人とも大帝国の反撃で死亡が伝えられていたので」

「その話は、後でするよ。とりあえず、今から駐屯地に殴り込む」

「願ってもないことです」


 ガストンとクーカペンテ戦士団の残党と合流した俺たち。そこでヴィックとティシアは、戦士団が持っていた装備を身につけた。ティシアは護身用に剣を持っていたが、ヴィックは丸腰だったのだ。


「これは?」

「ライトニングバレット。魔石銃です。協力者たちからいただきました」


 ガストンがチラと俺を見た。その協力者というのが、うちのシェイプシフター諜報部だ。


「どことなく、エアバレットに似ているな」

「それの改良型」


 風の魔法を撃ち出すクロスボウ型の魔石銃。一度目のクーカペンテ解放の際に俺たちが使っていたのを、ヴィックは見ている。

 そしてそれはクーカペンテ戦士団の生き残りたちも同じで、ガストンは剣の他にライトニングバレットを携帯していた。


「お二人の専用防具がなくて申し訳ないですが……」


 詫びるガストンだが、ヴィックは首を横に振った。


「なに、防具があるだけマシだ。贅沢は言わない」


 一般的なクーカペンテ騎士の鎧である。指揮官らしさがないので、他の騎士たちと一緒にいると紛れてしまう。


「準備が整ったら行くぞ」


 暗黒騎士姿のベルさんが声をかけた。ティシアは苦笑した。


「ずいぶんと禍々しいですね」

「地獄の騎士っぽいだろう?」


 冗談めかすベルさん。クーカペンテ戦士団と一緒にいた頃は、二刀流の戦士スタイルだったからなぁ。

 かくて、俺たちは大帝国駐屯地への道を進む。特に隠れることなく、堂々と正面から。


「これだけ目立っているはずなのに、駐屯地の連中は何をやっているんだ?」


 一向に迎撃が来ないことに首をひねるヴィック。現れるのはシェイプシフター兵ばかりである。


「うちの兵隊が始末しているからだよ」


 町中の敵兵は、俺が駐屯地への攻撃を決め、指示を出した途端に、潜んでいたシェイプシフター兵たちに片付けられたのだ。

 パッコロー領主屋敷――かつての領主の家は大帝国駐屯軍によって砦に増築された。


 さすがにここの大帝国兵は健在なので、見張り台から俺たちを発見すると角笛を鳴らした。


「うるさいな」

『了解』


 シェイプシフター兵のひとりがDMR-M2マークスマンライフル――リアナが使っていたライフルと同型を構えて撃った。

 角笛を吹く見張り兵が狙撃され、台から転落した。


「ナイスショット。だがまあ、もう敵が出てきているんだがね」


 ゾロゾロと大帝国兵が門をくぐって、広場に隊列を組みつつあった。こっちは四十人くらいいるから、てっきり門を閉めて立てこもると思ったんだけど……。


「まあ、いいや。エアブラスト!」

暗閃あんせん、斬!」


 俺の風魔法とベルさんのデスブリンガーの一振りが、敵兵の集団の盾を破壊し、吹き飛ばした。


「突撃!」


 ヴィックが命じると、ライトニングバレットを撃ちながらガストンや兵たちが駆け出した。隊列が乱れている間に兵たちは距離を詰め、生き残りにトドメをさしながら、駐屯地の内部へと突撃した。

 ヴィックやティシアも、シェイプシフター兵らと突入し、敵兵を掃討していく。


 俺は見張り台の弓兵や魔術師を見つけると、サンダーボルトを打ち込んで塔ごと破壊した。

 パッコロー駐屯地は、現地抵抗勢力によって制圧された。駐屯地の維持と警戒は、地元部隊に任せる。


「じゃあ、さっそくクーカペンテの同志たちを集めよう」


 俺はここまで来た足である小型艇――アドヴェンチャー号を呼び寄せる。駐屯地に降りる飛行する小型艇にヴィックたちは目を丸くした。

 俺は昇降しょうこうハッチに手を当てた。


「さあ、乗ってくれ。王都へ行くぞ」

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