第1200話、休日の再開とゲスト


 タリスマン軍港に南海艦隊の主力が寄港した頃、南海艦隊所属の第二潜水戦隊は、ダヴィス湾の中ほどにあるプシオン群島へと接近しつつあった。

 第二潜水戦隊は、万能潜水艦『白鯨はくげい』、僚艦『大鯨たいげい』と、揚陸潜水母艦『レヴィアタン』の3隻で編成されている。


 これら3隻の潜水艦は、海に潜りながらウモ海賊団のアジトを目指していた。潜水戦隊旗艦『白鯨』では、白鯨シェイプシフター艦長が報告を受けていた。


『まもなく、目標の「海賊の入り江」に到着』

「海面の様子はどうか?」

『魔力センサーに反応なし」

「ソナー」

『周辺海域に敵影ありません」


 聴音士の報告を受けて、白鯨シェイプシフター艦長は頷いた。


「『レヴィアタン』に打電。工作員を上陸させよ」

『了解』


 命令を受けた揚陸潜水母艦『レヴィアタン』は潜水したままプシオン群島内のひとつ、スクーレ島へと接近する。

 今回、第二潜水戦隊に与えられた命令は単純だ。


 ウモ海賊団の拠点を調査し、その正確な情報を得ること。

 観測ポッドリレーや、高高度偵察機による活動で島の詳細の地図は把握はあくしている。海賊船団の出撃地点も判明しているので、その近辺にシェイプシフター工作部隊が乗り込み、詳細な情報を探るのだ。


 いずれは叩く拠点ではあるが、この島の海賊たちはどれほどいるのか? 人質の有無など攻撃前に調べておきたいことは多かった。


「『白鯨』と『大鯨』は待機」


 島から出る船、入る船は海賊船と思われる。そららに対する警戒や見張も必要である。

 一方、揚陸潜水母艦『レヴィアタン』は、スクーレ島に近づくと工作部隊を送り込んだ。


 ウィリディス軍の潜水艦の中でも最大の大きさを誇る『レヴィアタン』は、全長190メートル。宇宙船のようにも、足のない巨大イカにも見えるようなシルエットを持つ。

 揚陸の名の通り、陸戦部隊を収容し、敵地に上陸させる能力を持たされている。


 その主力はパワードスーツ、その無人機仕様であるゴーレムである。一応、全高5、6メートルの魔人機も載せられるが、敵地上陸の海兵隊はより汎用性に勝るパワードスーツを主力兵器と定めていた。

 上陸戦闘の先陣を行くのが海兵隊である。ウィリディス海兵隊の主力として『レヴィアタン』に搭乗するは第一装甲海兵大隊の海兵たちだ。


 スクーレ島の詳細がわかれば、海賊拠点の制圧のために突撃するのは海兵隊である。新型パワードスーツを受領じゅりょうした部隊である海兵たちの士気は非常に高かった。

 しかし、まずは情報収集が先である。


 のべつ幕なしに暴れ回った結果、海賊に捕まった人質まで吹き飛ばしたでは洒落にならないのだから。



  ・  ・  ・



 南海艦隊はタリスマン軍港へと帰還した。

 海賊退治の後、エマン王は仕事を処理するということで、ポータルを使って王都へ戻った。俺たちは休暇の続きということで、別荘へ戻りサーレ様と合流。夜のバーベキューを開いた。


 さらにゲストがあった。

 隣国リヴィエルの王族であるパッセ王、その妃であるヴァンドルディ様、娘のアヴリル姫がやってきたのだ。


 本当は、ウィリディス白亜屋敷のほうを訪れたのだが、俺たちがこちらにいるということで、急遽きゅうきょ一緒に食事会をすることになったのだ。

 ウィリディス食堂の常連になっているパッセ王たちだから、浜辺でのバーベキューは珍しくも興味深い体験になった。


「よもや、このような形で、しかも野外で食事とは……」

「お気に召しませんか、陛下?」


 俺が言えば、パッセ王は微笑した。


「いや、これもひとつの経験だ」


 その視線は若い娘たちへと向く。

 アヴリル姫は親睦しんぼくを深めているフィレイユ姫と談笑中。お互いに立ったまま、手に串焼き肉を持って、あれこれ食べ方を試している。


 ふだんの王族マナーからしたら、はしたないとか注意が飛ぶかもしれないことが、ここでは指摘もされず、若い姫たちはとても楽しそうに過ごしている。

 ヴァンドルディ様は、サーレ様と席に座りながらお食事をしている。サキリスなどが二人の給仕をしているが、こちらの美人さんたちも静かにご歓談なされている。


「口うるさい臣下どもがいないと、こういう顔も見られるのだな」


 パッセ王が妻や娘の新たな一面を見つけたような顔をされた。非常によい雰囲気だ。大いに結構。


「トキトモ候、戦況はどうか。例の吸血鬼とやらの軍勢は?」


 俺と直接顔を合わせる機会が少ないパッセ王が聞いてきた。エマン王とはしょっちゅう顔を合わせているから多少は知っているようだが、やはり直に聞いてみたいのだろう。


「地下帝国の入り口のいくつかを封鎖して、その進行ルートを制限しました。大帝国の所領にある入り口については、手つかずではありますが」

「大帝国と吸血鬼を共倒れさせる策であろう」


 パッセ王はしたり顔で言った。


「連中が潰し合っている間に、こちらも空中戦艦を手にしたい」

「エマン王から新たに戦艦を購入されたとか」

「空中戦艦は本来なら独占しておきたい技術であろうが、同盟のよしみで格安で購入できることになった」


 パッセ王はしばし苦い顔になった。関係は良好になりつつあるとはいえ、そこは国同士のやりとり。駆け引きもする。隣国ゆえ、渡した兵器を使って牙を剥いてくるような事態になったら……など考えないわけにもいかないのだ。

 自国の安全にも関係するから、エマン王もタダでは譲らない。俺のところの造船施設や回収した魔法文明時代兵器を使うわけだが、その辺り、かなり神経をつかってもらっている。


「ドレッドノート級戦艦を手に入れることができるのは喜ばしい」


 そうパッセ王は言った。ヴェリラルド王国軍の主力戦艦である。それと同等の装備を得られたのだから、一から開発する技術のないリヴィエルからすれば大収穫と言える。


「本音を言えば、私もヤマトやキングエマンと言った超戦艦が欲しいがね」


 それはエマン王も渋るだろうなぁ。俺は苦笑するのである。


「しかし陛下。まずは艦隊を整備できる軍港施設を作りませんと、せっかくの艦隊も運用できません」

「その通りだ。こちらも急ピッチで造船施設の建造に着手している」


 だが従来通りのやり方では、完成するのはいつになることやら。

 ダンジョン工法が使える俺のところだと、大して時間も掛からないんだけど……。国外でやるとなると、エマン王とも要相談だろうな。俺からは黙っておこう。


「おお、いたのか、パッセ」

「エマン」


 思っていたら本人がやってきた。どうやら早々にお仕事にケリをつけてきたらしい。

 休養の再開だ。

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