第1198話、海賊船団、壊滅


「撃ち方はじめーっ!」


 号令と共に、戦艦『薩摩さつま』の40.6センチ三連装プラズマカノンが咆えた。

 三連の光が三基分、九つ。ウモ海賊団主力船団に伸び、その射線に入っていた船を文字通り消し飛ばした。


 鋼鉄の装甲をまとった空中艦艇ですら撃破するプラズマカノンの直撃を受けては、木造船などひとたまりもない。


「船が蒸発したな」


 エマン王が呟けば、フィレイユ姫も目を丸くする。


「溶けてなくなってしまいましたわね……」


 まあ、あんなもんでしょ――俺は双眼鏡を覗き込む。ベルさんが口を開いた。


「連中、今頃あわを吹いているだろうぜ」

「光が通過したら、船が消えているんだもんな」


 大型の帆船は……ああ、船体が半分食い千切られたみたいに穴が開いて、真っ二つだわ。


『薩摩』に続き、重巡洋艦『畝傍うねび』も30.5センチ連装砲を発砲する。

 クラスこそ重巡洋艦だが、大帝国の空中艦艇が襲来した時も応戦できるよう、30.5センチ砲を主砲として搭載している。

 とはいえ、船体は全長150メートルと巡洋艦クラスのため、主砲は連装砲2基4門しか詰めなかった。

 だが、こと時代遅れの帆船を相手にするなら、この程度の砲門の少なさはハンデにもならなかった。


 ヴィントボーゼ級軽巡洋艦『アオスブルフ』も15.2センチ単装プラズマカノンを連続射撃し、海賊船団をアウトレンジから砲撃。

 護衛につく2隻のラヴィーネ級駆逐艦は、艦隊に肉薄にくはくする敵船に備えている。


「まあ、近づける敵船など、早々いないだろうが」


 魔法を使う遊撃部隊は先制して叩いた。海賊主力船団にまだその手の術者が残っているかはわからないが。

 加速の魔法でモーターボートよろしく高速で突っ込んでこない限りは、南海艦隊の艦艇に近づくことさえできないだろう。


 通信士が振り返った。


「閣下、くじらより入電。『我、敵サハギン集団と交戦中。敵は小型ゆえ、討ち漏らしに注意されたし』です!」


 戦術ボードに『白鯨』とリンクした索敵さくてき情報が表示される。ベルさんがうめいた。


「小さい奴がわらわらと……。虫みたいだな」

「厄介だな」


 艦艇に比べてとても小さい上に数が多いというのは。


「各艦に対潜警戒。水上ばかりではなく水中にも注意だ。――それと、『鳳翔ほうしょう』に指令。直掩機と、対潜装備のシーホークを回すように」

「了解」

「ジン、水上はもうケリがつきそうだぜ」


 ベルさんが言った。俺は司令塔の窓に歩み寄る。


「魔法を使うという話だったが、本隊にはいないらしいな」


 一方的な戦いになることはやる前からわかっていた。


「だが海の魔物を使う奴は、こっちにいたんじゃね」

「だろうね。サハギンの群れがこっちへ来ているからな」


 俺は双眼鏡を覗き込む。……おや?


「でかいのが1隻残っているな」

「本当だ。真っ先に沈んでしまいそうなものを……」


 ベルさんが首を傾げれば、双眼鏡で敵船を見ていたエマン王が口を開いた。


「あの船、どうもこちらの攻撃を防いでいるようだ」


 山房さんぼう艦長もその船に気づいているようで、『薩摩』の主砲が件の敵船へと伸びる。

 ……見えない壁に弾かれた!


「防御魔法、あるいは結界か」


 戦艦主砲に耐えるとか、かなりの高レベルの魔法だ。俺やベルさんならできなくはないが、それだって結構魔力を食われる。


「防御が厚いということは、それだけ沈められたくないということだろう。おそらく敵の旗艦だ」

「どうする?」


 エマン王が問うた。俺は微笑した。


「標的演習と行きましょう。各艦に指令。敵旗艦に攻撃を集中せよ!」


 さあ、いかに強固な防御魔法や結界と言えど、集中砲火の前にどれくらい耐えられるか。攻撃で防御を維持する魔力が削られれば、やがては消滅する。


「敵旗艦周囲の魔力値を観測。数値が減れば、いずれは防御も抜けるだろう」


『薩摩』が、『畝傍』が、『アオスブルフ』がその主砲を総動員した。さらに駆逐艦『ヴァランガ』『アヴァランチ』が敵船へ突撃を開始。7.6センチ単装速射砲を撃ちまくった。

 圧倒的火線が集中し、敵旗艦が光に包まれる。パチパチと点滅を繰り返しているのは、こちらの攻撃を弾いた光か。


「あの船、沈みませんわね」


 フィレイユ姫が呟く。アーリィーが俺を見た。


「沈めてしまってよかったの? もしかしたら貴重な防御魔道具とか使っているかもしれないよ?」

「そうかもしれない。だが、水中の敵がまだ統制されているようだからね。さっさと仕留めたい」


『白鯨』『大鯨』が阻止しているが、敵も中々やるようで、前線を突破しそうな雰囲気だ。


 空母『鳳翔』から飛来したシーボーク艦上攻撃機が、波に揺れる海面近くまで降下すると対潜ロケットを撃ち込む。

 海面から水柱が噴き出し、海の中をかき回す。


 南海艦隊の水上艦にも、対潜装備はあるが、これは出番があるか?

 対潜用短魚雷、対潜ロケット砲が、海の中の敵に対していつでも応戦できるようになっている。


『敵旗艦、防御結界が消失!』


 測定員の報告が耳に届いた。直後、南海艦隊の砲撃が海賊船旗艦に殺到した。



  ・  ・  ・



 戦闘帆船グラナディエの結界が割れる!

 ウモ海賊団首領ゼルマンは手に握る魔道具がきしみ、ひびが入っていくのにあせった。


「嘘だ……! こんな――」


 パキン、と魔道具が割れて粉々になった。


「こんなっ――」


 光が旗艦に突き刺さった。次の瞬間、ゼルマンや海賊たちは光に飲み込まれ、意識を喪失そうしつした。

『グランディエ』はたちどころに帆船としての形が崩れ、あっけなく分断、海の藻屑もくずと化した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る