第1197話、襲来、海の魔物


 南海艦隊旗艦、戦艦『薩摩さつま』。

 司令塔にいた俺たちの耳に、索敵室からの報告が届く。


『ソナーに反応あり。敵船団方向より無数の移動物体、本艦隊に接近中。速度20ノット!』


 海の中からか。俺は戦術ボードに目を落とす。


「諜報部が得た情報では、ウモ海賊団は海の魔物を使役しているらしい」

「海の魔物?」


 アーリィーが首を傾げれば、俺は報告を思い出す。


「サハギンやシーサーペントだそうだ。海中からせまって、船に乗り込んできたり、穴を開けてくるらしい」

「この鋼鉄の船に穴が開けられるかな?」


 ベルさんが挑発するように笑みを浮かべた。エマン王が眉をひそめた。


「海の中の敵への攻撃手段はあるのか?」

「ご心配なく。対潜装備は各艦に積んであります」


 この世界の他国に潜水艦があるかは疑わしいが、海の中に危険生物が生息せいそくしているのは知っている。当然、備えもある。


「しかし、この数は少しばかり面倒だ。――通信士、随伴ずいはんしている潜水戦隊に打電。海中の脅威きょういを撃滅せよ」

『了解』


 通信士が俺からの指示を伝える中、フィレイユ姫が小首をかしげた。


「センスイセンタイ……?」

「海の中に味方のふねを潜ませています」

「船が、海の中に!?」


 フィレイユ姫は目をしろくろさせる。


「そ、それは沈んでいるのですか? だ、大丈夫なのですか!?」


 俺は一瞬、ベルさんとアーリィーと顔を見合わせた。船は海の上を進むもの、海の中はすなわち沈没では、という解釈だろう。


「そのふねは、魚の形をしているんですよ」


 魚なら水の中にいても不思議はないだろう? そのつもりで言った。


「後で披露ひろうしましょう。きっと驚きますよ」



  ・  ・  ・



 それは海の中、南海艦隊の真下を影のように航行していた。


 白鯨はくげい級万能潜水艦。

 全長130メートル。鯨を模した形の大型潜水艦だ。

 格納式プラスマカノンを2門、魚雷発射管8門、垂直ミサイル発射管を8門、その他対潜・迎撃装備を搭載。


 機関は世界樹の種子であるシード・リアクターを積んでおり、無尽蔵むじんぞうな魔力量を誇る。各種ミサイル兵装は搭載コアによる魔力生成で無限であり、各種シールド、ステルスフィールド発生装置のほか、エンジンの換装かんそうにより空中飛行艦としても使用できるという万能艦である。

 なお、水中航行速度は35ノットを発揮はっきする。


 南海艦隊の旗艦からの指令を受けて、『白鯨』と僚艦『大鯨たいげい』は戦闘態勢をとった。


『敵大型生物、その数8。水中速度25ノットにて艦隊に接近中』

『前部魚雷発射管、1番から6番装填そうてん


 シェイプシフター艦長の指示を受けて、2隻の大型潜水艦は接近する敵――シーサーペントに備える。


『発射管、注水開始!』

『標的にマーキング。1から4は本艦。5から8は『大鯨』に任せる』


 8体のシーサーペントにそれぞれ番号が割り振られる。それぞれに向けて、誘導魚雷が追尾する標的を割り振っていく。


『マーキング対象ロック。1番から4番、発射準備よし!』

『撃てっ!』


 潜水艦『白鯨』、そして『大鯨』から相次いで53センチ誘導魚雷が放たれた。スクリューを回転させながら海中を高速で突き進む魚雷は、艦隊に直進してくるシーサーペントに向かっていく。

 巨大海蛇も、突っ込んでくる魚雷に気づいた。だが高速で突っ込んでくるものが何なのか理解はできなかった。


 だから自分より小さなものに対して正面から突っ込み、噛みつこうとして、口の中に飛び込んだ魚雷が爆発した。内側から吹き飛ばされ、その半身を失った海の魔物の足は止まった。


『標的8体、それぞれに命中。撃破した模様』


 聴音士の報告に白鯨シェイプシフター艦長は『うむ』と頷いた。


『新たな反応。無数の小型物体、集団で敵船団の下に集合しつつあり』

『新たな敵か?』

奇怪きかいな音を発しています……』


 聴音士がコンソールを操作する。


『データベース照合――サハギンです!』


 水中にいる半魚人である。それらが集団で海賊船団の下に集まっているのだ。


『サハギン群、新たな行動を開始。海賊船団から、南海艦隊へ向かっています!』


 こいつらは何をしに現れたのか? シェイプシフター艦長はサハギン集団に警戒する。先ほどのシーサーペント同様、攻撃してくるつもりか。ウモ海賊団はサハギンも使役するという情報は確認している。


『サハギンの攻撃音声を確認!』


 人間もそうだが、集団での攻撃の際には号令をかけたり、ときの声を上げるものである。これで敵確定だ。


『魚雷5、6番発射! 敵の集団のど真ん中で自爆させてやれ!』


 シェイプシフター艦長の命令を受けて、装填済み誘導魚雷が発射される。これらは海中の大型目標用なので、人間サイズのサハギンには一対一でぶつけるのは難しい。しかし爆発させれば、まとめてダメージを与えられる。


『続いて、1番から6番、拡散魔法魚雷、装填! 敵は小さい上に数が多い! 油断するな!』


 水中戦は続く。

 サハギンの数は多く、対してこちらは潜水艦が2隻と、後方に1隻の潜水揚陸艦があるのみ。敵が個々にばらければ、その攻撃力は落ちるだろうが、潜水戦隊側も全て対処は難しくなる。


『南海艦隊に打電。「我、敵サハギン集団と交戦中。敵は小型ゆえ、討ち漏らしに注意されたし」』

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