第1196話、会敵! 海賊船団!


『ファング1、ミサイル発射!』


 空母『鳳翔ほうしょう』から飛び立ったシーファング艦上攻撃機が、武器翼から対艦ミサイルを発射した。

 僚機であるファング2、ファング3もミサイルを発射。それらはロケットモーターに点火して、海上を行く海賊団の小型船に飛んだ。


 3……2……1……今!


 海上で白波が吹きあがり、着弾寸前に爆発したミサイルが、その衝撃波と破片で木造の小型船をバラバラに吹き飛ばした。

 装甲など皆無に等しい小型船である。哀れ目標の3隻は木っ端微塵こっぱみじん――


『おや……?』


 1隻が沈没をまぬがれた。どうやらミサイルに反応し、船を加速させて回避しようとしたらしい。

 だが逃げ切れず、船体後部がズタズタに引き裂かれた。結果、無数の穴から浸水し、船は沈んでいく。


『敵船、残り5』


 シーファング隊は、敵小型船群の上空を飛び抜ける。空を行く航空機のスピードは、海上の船よりも断然速い。

 敵ロングシップは、蜘蛛くもの子を散らすようにそれぞれが逃げ出す。あまりに統制がないように見えるのは、指揮官の船を撃沈したのかもしれない。


『ファング1より各機。敵残存船を始末しろ』


 屍肉に群がるハゲタカの如く、上空を旋回しながら海賊船を見下ろす。猛禽もうきんのように急降下。機首の20ミリ機関砲が、木造船を紙のように撃ち抜いた。マストをへし折り、船体を貫通されたロングシップは立ち所に海に飲み込まれていく。

もはや、逃げる術なし。



  ・  ・  ・



 鳳翔航空隊が、敵遊撃部隊を全滅させた。

 俺は南海艦隊旗艦『薩摩さつま』の司令塔内にいて、その報告を受けた。

 攻撃隊に参加したシーホーク艦上攻撃機からの中継で、こちらが一方的に海賊を始末したのを見て、エマン王は満足そうに頷いた。


「完勝だったな」

「まあ、これくらいやってもらわないと、大帝国やスティグメ帝国の相手はできません」


 ぶっちゃけ、たとえに挙げた組織以外の戦力なら、こちらは数百年は技術が進んでいる。ただでさえオーバースペックなのだから、鎧袖一触でなければ困るというものだ。


「あとは、敵主力船団を叩けば、今日のところはひとまず終了です」

「ひとまず、は?」

「できれば、敵の母港も叩きたいところですので」


 俺はダヴィス湾を中心とした地図が表示されている戦術ボードへと視線を落とす。


「観測ポッドの報告では、こちらの島々に海賊団のアジトがあるようです。出撃地点を確認しましたから、船をつぶした後はここも制圧したく思います」


「うむ。やる時は徹底てっていして叩く。海賊の息の根を止めねばなるまい」


 エマン王も地図を見下ろせば、司令塔内に呼び出しブザーが鳴った。俺は戦術ボードの手元の通話スイッチを押した。


「こちら司令塔」

『第一艦橋、山房サンボウであります』


 シェイプシフター艦長の声がした。


『敵海賊団本隊を本艦の電探でんたん捕捉ほそくしました』

「了解した艦長。艦隊より空母を分離。残る艦は敵船団へ針路をとれ。砲・雷撃戦、用意」


 さて、いよいよ、海賊退治のお時間だ。連中を現在絶賛開拓中のザントランク一帯に来させるわけにはいかない。

 南海艦隊は巡航速度から戦闘速度にスピードアップ。ダヴィス湾の波をくだきながら、敵海賊船団に直進した。


 空母『鳳翔』と駆逐艦1隻は、すでに艦隊主力と分かれている。

 戦艦『薩摩』を先頭に、重巡『畝傍うねび』、軽巡『アオスブルフ』、駆逐艦『ヴァランガ』『アヴァランチ』が単縦陣にて進撃する。速度30ノット!


 俺は通信機で艦橋の艦長に告げる。


「敵艦隊の正面を横切るように占位せんい

『了解』


 山房艦長の返事をよそに、エマン王が呟く。


「T字戦法だな」

「よくご存じで」


 日本ではてい字戦法と、漢字の丁を当てているが、海外ではTで通じる。もっとも、前の世界の戦術をウィリディス軍の軍事マニュアルに記載したもので、エマン王はそれを読んだのだろう。


『とーりかーじ!』


 戦艦『薩摩』が左舷方向へ緩やかに旋回を開始した。後続の『畝傍』『アオスブルフ』も、その航跡をトレースするように続く。

 司令塔の窓、正面に見えていた海賊船団が右方向へとスライドする。観戦するフィレイユ姫とアーリィーもその動きに合わせて右舷側の窓へ移動する。


 艦首側の40.6センチ三連装プラズマカノン砲塔がゆっくりと右舷方向に指向。ここからでは見えないが、艦尾側の主砲塔も砲身を右へと向けている。

 主砲、全砲門が海賊船団に向けられた。



  ・  ・  ・



 ウモ海賊団の首領ゼルマンは、戦闘帆船グラナディエにて、ヴェリラルド王国艦隊を見ていた。

 帆船ではない。帆もない巨艦――それはさながら海に浮かぶ城だ。帆船の数倍はある巨艦にも関わらず足が速い。

 その姿を見た海賊たちは、呻きにも似た声を漏らした。


「化け物じゃ……。ありゃきっと下は海獣が動かしているんだ……」

「まるで要塞だ……」


 浮き足立つ船員たちをよそに、ゼルマンは眉間みけんにしわを寄せた。


 ――確かにありゃ、海の化け物に引っ張ってもらうか、魔法でもなきゃ動かんだろう。くそ、軍船を手放したってのはこういうことか!


 海賊行為で捕まえた商人の証言をゼルマンも聞いていた。既存の帆船を売却したのは、より新式の船を手に入れたからか。


 ――ちくしょう、ジョーヴェの奴は何してやがんだ……?


 高速で引っかき回す投げ槍隊。今こそ出番だというのに、影も形もない。……この時、ゼルマンは先遣隊が全滅していたことを知らなかった。


「こちらも、切り札を使うしかあるまい」


 懐から魔法の笛を取り出す。笛とは言っているものの、音が出るわけではない。というより人間には聞こえない魔力波長を出して、海中の魔物を操る代物だ。


「いかにデカい船と言えど、海の中は手も足も出ないだろう」


 ゼルマンはニヤリと笑った。気がかりは船の下にいるかもしれない海獣の存在だが、どの道取れる手段はそれしかなかった。

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