第1193話、遊んで、食べて


 ビーチバレーは見ているほうが楽しい。

 メンバーが美女・美少女ばかりだからね。俺はつくづく傍観者ぼうかんしゃスタイルを通すベルさんはうまいと思った。

 ま、女の子たちとワイワイやるのも楽しいんだけどね。


 ビーチバレーの参加者は、俺、アーリィー、フィレイユ姫、サキリス、ラスィア、エリー、そしてオリビアだ。

 対戦ということで、ペアを組むんだけど、皆が俺と組みたがる。何故かオリビアまでそれに加わっているのが意外。


 仲良く順番に――その順番決めでも埒があかなかったので、くじ引きで決めた。

 この中で一番運動能力が低いのはフィレイユ姫。他が冒険者やら騎士やらでならした連中だから、箱入り娘である姫はしょうがない。


 なので身体強化の魔法でのアシストをつけてあげた。

 フィレイユ姫とペアを組むと基本アシストに回る。子供を守る親の気分である。彼女には気分よく遊んでもらいたい。

 その辺りは対戦するペアも察しである。


 しかし……この中で、正気を保つのは中々骨が折れる。どいつもこいつも、お胸の凶悪な代物を揺らしていらっしゃる。ほっそり腰回りに、伸びた健康的な足と、どれもこれも男の視線を引きつける。

 派手にダイビングしたり、飛び上がったりすれば、そりゃ胸も弾むわ。……物理的に。


 さて、俺とペアを組んで非常にやりやすかったのが、エリーとサキリス。甲乙つけがたいが、一番はエリーだった。

 連合国にいた頃、つまり俺が英雄魔術師になる少し前、彼女に魔法を教え、冒険者として連れ出したことがある。その時からエリーは俺の動きに合わせ、その一挙手一投足を観察していた。


 サキリスもまた、俺に合わせて動くのがうまい。特に前に出たり下がったりの判断は、エリーを凌駕する。

 次点はアーリィー。この辺りはサキリスと体力の差かもしれない。反応はいいんだけどね。


 ラスィアはほどほど。からっきしだったのはオリビアだった。とにかく、球をうまくさばけない。反射神経はいいのだが、ボールを操れないのではしょうがない。


 エマン王とベルさん、そしてユナはのんびり観戦。ひとしきり遊んだ後は、メイドのクロハらがバーベキューの準備を整えていて、お食事タイムとなった。

 王様を交えての砂浜バーベキュー。ウィリディスから持ち込んだ食材に加えて、ダヴィス湾でとれた海の幸も一緒に食する。


「美味しいですわー」


 満面の笑みを浮かべて、焼けた肉を頬張るお姫様。姉であるアーリィーが嗜める。


「フィレイユ、お行儀悪いよ」

「やめてくださいませお姉さま。こういう場です、誰に遠慮する必要がありますの?」


 やれお姫様は、常に慎ましくあれ――礼儀作法を押しつけられて、年相応の少女は少々ご不満。


「ねえ、お父様」

「お? ああ……」


 エマン王は、ビールの入ったコップを傾けていた。立食スタイルは経験があり、食事やワインの時は、人の目を意識した振る舞いをしているが、ここでは背筋を伸ばすことなく、完全にどこにでもいるおっさんスタイルだった。


 諸侯を集めたパーティーではないので、誰にもはばからず飲み食いする。この時ばかりは王様ではなく、ひとりの大人だった。


「身内の集まりだ。よほどの振る舞いでなければ許容してよかろう」


 エマン王はそう言うと、視線をバーベキューコンロへと向ける。焼けた牛肉ステーキやスペアリブを一瞥すれば、サキリスが焼けたものを取り分け、エマン王へ献上けんじょうした。


「どうぞ」

「うむ」


 王の視線だけで察するとか、このメイドさんスキル高ぇなぁ。それにしても香ばしいニオイがもうね。

 その焼きトウモロコシ、いただき!


「ジン様、その黄色いものは美味しいのですか?」


 フィレイユが興味深げに言った。


「おや、フィレイユはトウモロコシを食べたことがない?」


 甘くて美味しいのに。というか――


「野菜も食べなさい。焼いたカボチャとかピーマンとか美味いぞ」

「ピーマンは苦いですわ」


 フィレイユは正直だった。フフン――


「苦味を食べられるのは大人の証拠というね。子供だと舌が受け付けないらしい」

「むぅ」


 食べてもないのに苦々しい顔になるフィレイユ。聞いていたアーリィーとエリーがそれとなく視線を逸らした。彼女たちもピーマンは駄目らしい。

 そしてエマン王も。……ですよねぇー。王様は好き嫌いありそうですもんねー。やれやれ。

 そこへ、新たな人の気配。


「遅れました」


 穏やかなその声。アーリィーとフィレイユが声を弾ませた。


「サーレ姉さん!」

「お姉様ー!」


 二人の姉である美女、サーレ様が合流した。貴族の令嬢たちとの会合に出席していたというサーレ姫……。

 はて、エマン王やフィレイユ姫がここでのんびり過ごされているのを見ていると、彼女だけ真面目にお仕事しているように感じられるのは気のせいか。


「……そんなに見つめられると、恥ずかしいですね」


 サーレ様は困ったような表情を浮かべた。それもそのはず、ふだんはドレス姿の彼女は、いま上にパーカーを羽織っていらっしゃるが、下は薄紫色のビキニ!

 うわぉ、この人も着痩きやせするタイプだな。胸の谷間くっきり、ボリューム感すごっ。


「姉様がお水着を! これはお写真を――」


 はっ、といつの間にか現れたフィレイユ姫付きのメイドが魔力プリント式カメラで素早く撮影した。

 これにはサーレ様は赤面する。


「いや、撮らないでー! ただでさえ、破廉恥なのですから!」


 最近、王都で流行っていると言っても、普段のサーレ様なら水着など身につける機会などなかっただろう。肌の露出をあまり好まれない彼女が、水着をおしになられたのは、あくまでここがプライベートなビーチだからだろう。


 尊い……。

 おがんでおこう。


「もう、ジン様ったら!」


 サーレ様が可愛らしく怒った。大人しい彼女の、そのちょっとした怒りなれていない言動はホッコリするよね。……本当に怒ると氷もかくや、ガチで怖いとフィレイユ姫から聞いているので、まだおふざけ程度なんだろうけど。

 サーレ様を加えて、バーベキューの続き。ニヤニヤしているベルさんとエマン王をよそに、午後ものんびり過ごすつもりだったのだが……。


 あいにくと、世の中うまくいかないものだ。魔力念話を通じてディアマンテ・コピーコアから、知らせが届いた。


「……海賊ねぇ」

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