第1192話、白い砂浜と別荘


「海ですわー!」


 フィレイユ姫の歓声が聞こえた。

 ザントランクの町郊外にあるプライベートビーチに、お姫様はいた。

 フリルスカート付きのビキニ。髪をツインテールにしているせいで、より幼く見えた。


「広いですわね、お姉様! 水平線の向こうまで海ですわ!」

「そうだね。対岸が見えない」


 答えたのはアーリィーだ。彼女も白のビキニ姿。ほっそりくびれた腰まわりが、いかにもセクシーで、その素肌も眩しい。

 遥かなダヴィス湾が視界に広がる。俺は彼女たちの後ろ姿を見つめ、のんびりした気分になった。


 町役場での会談後、町の観光をしていたアーリィーたちと合流した俺たちは、本日宿泊となる海の別荘へとやってきた。

 かつての南方侯爵こうしゃく、ラーゲン侯も避暑地として利用したことがある屋敷である。格式高く少々無骨ではあるが、ベランダから見渡せる大パノラマは、ゆったり休暇きゅうかを楽しむに充分だった。


 別荘べっそうのすぐそこが砂浜ということで、一階の庭にビーチチェアを置いて、のんびり日向ぼっこである。

 夏には少々早いが、穏やかな気候は過ごしやすく、海の青さも相まってリッチな気分になれた。


「ジン様ー!」


 フィレイユ姫が浜から手を振っている。俺もチェアに腰掛けて、手を繰り返してやる。


「……いいものだ」

「そうですね、お義父さん」


 俺の隣のチェアには水着のエマン王。その目には日光の反射から目を守るサングラス。……いったいどこで手に入れたのやら。普通に驚きだ。あとは若干、腹に肉があるものの、年齢の割にはスマートなほうである。


「たまには休暇が必要だ」

「戦争からこっち、なかなかのんびりとは行きませんからね」

「ああ。城にいたのでは、こんな格好も許されん」


 苦笑するエマン王。サングラスのせいで、イケてるオヤジ感がまた小憎こにくらしい。


「王都で売られている最新の水着だ。まさか自分で身につけることになるとは思わなかった」

「どういう風の吹き回しですか?」


 好奇心にかられ聞いてみれば、エマン王は視線を波打ち際で遊んでいるフィレイユ姫とアーリィーに向けた。


「フィレイユに頼まれた。私にも似合うだろうと、どうしても着せたかったらしい」

「家族でお出かけしたかったのでは?」

「海に行きたい口実かもしれん。公務やらで出かけることはあっても、それ以外では自由に遠出できないからな」

「王族ですから、何かあっても困ります」


 警備に狩り出される近衛隊を思えば致し方ない。


「娘のわがままに付き合えるのも、お前がいてくれるおかげだ。ありがとう、ジン」

「いえ……」


 唐突にお礼をぶっこまれると、びっくりするんだけどね。


「それにしても……」


 俺は話を変える。


「あの水着、何とも先進的ですね」

「そうなのか? 水着なるものについて、私は詳しくなくてな」


 エマン王は言った。ちゃんとした水着がこの王国に出たのが半年ほど前。そのちゃんとした水着とは、俺がこの世界に召喚される前にいた日本で見かけた現代の水着。

 忙しさにかまけて調査していないが、この水着のデザイナーは、おそらく異世界から来た人間だと思う。毎回、気づくたびに調べようと思うが、つい忘れてしまうんだ。


「ご主人様、陛下」


 傍らでサキリスの声がした。見れば、彼女も水着を着用している。黒と白のメイド服カラー。スカート付き水着で前には白いミニエプロン。ビキニタイプなので肌面積がかなり広い。


「このような姿で失礼いたします。お飲み物を用意いたしました」


 元から別格のプロポーションの持ち主であるサキリスである。その胸の谷間とか凶悪過ぎませんかね……。

 丸テーブルにジュースが置かれるたびに、その凶悪な代物が目の前で動いている。


「ありがとう、サキリス」

「どういたしまして」


 サキリスの笑顔が心に染みる。

 海へと視線を戻せば、アーリィーたちの元にも人数が増えていた。


「こ、ここ、このような姿を、姫様や陛下の前にさらすとは!」


 などと緊張しまくっているのは、オリビア近衛隊長だった。彼女も水着姿だ。

 黒のワンピースタイプで、どこか競泳水着っぽさがある。体力バカな彼女は運動も欠かさず、非常に引き締まった体をしているが、出ているところは出ていてこれまた凶暴。インストラクター感がハンパない。


「よもや、私が水着など!」

「えー、ボクが海に入ったら、オリビアは浜辺で見物しているつもり?」


 アーリィーが悪戯いたずらっ子のような顔になった。


「万が一、ボクが溺れたら、オリビアは助けにきてくれないの?」

「もちろんお助けします、アーリィー様!」

「でしょ? でもいつもの鎧姿だと助けに行く前にあなたが溺れるよ? それじゃ護衛失格だよね?」

「ぐぬっ……」


 ぐぬ、じゃないよ。やりとりを聞いていた俺はニヤニヤしてしまう。


「……いやしかし水着を着ていても……そもそも、私は泳げ――」


 ブツブツ独り言を漏らすオリビア。そこへエリーとラスィアが肩掛けのバッグを持ってやってきた。

 ちなみに二人は、サキリスと同じくメイド水着を身につけている。

 金髪ドリル髪美少女のエリーに、小麦色の肌のダークエルフ美女のラスィア。ふたりとも着やせするタイプだから、水着がまぶし過ぎるぜ。


「姫様方、これからどうしましょうか?」


 エリーが聞けば、ラスィアが続けた。


「泳がれますか? ビーチバレーなるスポーツをされますか? それともバーベキューをされますか?」

「全部!」

「かしこまりました」


 即答するフィレイユ姫に、エリーとラスィアは笑顔で応じた。欲張り贅沢セットである。中々外出できないお姫様が遠慮などするはずがない!


「ジン様ー、こっちへ来て、一緒に遊んでくださいませー!」


 フィレイユ姫は元気である。俺は傍らのエマン王を見る。行ってこい、とジェスチャーをいただき、俺は砂浜に出る。


 美少女美女だらけ。いいのかなぁ、これは。と、そこで俺はベルさんの気配を感じて振り返った。


「ベルさんもどうだい?」

「オレ様は見てるだけー。若いもん同士でイチャコラしてこい」


 黒猫姿のベルさんは、いつの間にかいたユナに抱きかかえられていた。

 つばの広い麦わら帽子を被った魔術師ユナ。あいからず巨であるお胸様である。白に青いアクセントがついた水着。下はショートパンツとどこまでも夏な格好だ。


 そしてベルさんは、ユナにかかえられていると……。相変わらずのうらやましポジションだ。

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