第1174話、リダラ・ダーハ VS セア・エーアール
シェード将軍を確保した、と俺が報告を受けたのは、リダラ・ダーハのコクピットの中だ。
フアル城襲撃による要人救出作戦である。
まず、シェード遊撃隊が駐留するドックへ航空隊、魔人機部隊が襲撃をかける。守備隊の目がそちらに向いている間に、リアナ率いるソニックセイバーズとシェイプシフター部隊が城に潜入。要人を救出する。
と、ここまではうまく言った。
セイバー1こと、リアナはシェード将軍を救出した。シェイプシフター部隊もセラス――アリシャを助け出したという。
ここまでくれば、あとは残っている魔神機の始末だ。
セア・ゲーはパイロットであるアリシャがいないので、敵も動かすことができない。だが逆にこれを手に入れようというのなら、直接その場所まで出て行かなくていけないわけだ。
一方、セア・エーアールはパイロットがいる。こちらの攻撃で収容されている母艦を飛び立ち、迎撃に出てくる可能性がある。
……彼女は、大帝国人に別段忠誠を誓っている様子もないらしいし。
シェイプシフター諜報部からのレポートによれば、グレーニャ・エルの勤務態度はあまりよろしくない。どこか現代人を見下しているようだ。
上官であるシェードが拘束され、指揮官が代わっても『はい、そうですか』と軽く流してしまうだろう。
つまり誰が上官でも、彼女にとってはどうでもいいことなのだ。
じゃあ、かつての上官ではどうだ?
俺の部下だった頃は短くあっても、彼女にとっては初実戦からしばらく一緒だったからな。印象くらいは残っている……と思いたい。
「ま、ダーハを見て何も感じないわけがないんだがな」
ドックではすでに黒煙がいくつも上がっている。バルムンク艦隊の航空部隊による先制攻撃が効いているのだ。
基地守備隊も反撃してきたが、先制された衝撃から立ち直れていない。
『各機、警戒! エーアールが出てきた!』
通信機から聞こえた報告。いよいよ、お出ましか。
「ソードナイト1より、各機。エーアールは俺が対処する。手を出すな」
『了解、ソードナイト1』
『了解しました』
エルフ隊を率いるニムや各パイロットたちが答えた。さて、お仕事しましょうかね。
緑色の女性型魔神機。四枚の翼を持つ高速機動型――
「随分と久しぶりじゃないか、グレーニャ・エル」
魔力念話を使って呼びかける。俺の念話が届いたようで、動きにわずかに動揺が見えた。こっちを探しているのかな。
『誰だ、お前? ずいぶんとなれなれしい奴だな』
「アポリト帝国十二騎士団長、ジン・アミウールだ。忘れてしまったのか? お前の先生だよ」
『ジン、アミウール……?』
セア・エーアールの頭部が俺のリダラ・ダーハを捉えた。この姿を見て、お前さんは何を思う?
『ダーハだと? 何でここに!?』
「お前さんを誘いにきたのさ」
俺はエーアールへ接近する。攻撃してきても初撃はかわしてやるよ。
『おいおい、マジかよ。なんでこの時代にセンセがいるんだよ?』
どこか好戦的な響きにも似た声だが、グレーニャ・エルで間違いない。あれから何年か経っているんだろうなぁ、きっと。
「お前もな。どうやってこの時代まで生き延びた?」
『ちっ、ダンダン思い出してきた。アディスホーラーで未帰還になって、こっちの時代にご登場ってか』
グレーニャ・エルのエーアールが高速で突っ込んできた。これはどっちだ? 仕掛けてくるか?
『あんたはスティグメんところの吸血鬼か!?』
「おっと、そうきたか。吸血鬼じゃないんだけどな」
俺が魔法文明時代から生き残っているのは人間ではなくなってしまったから、と考えたようだ。
「さあて、どうしたら信じてもらえるかな?」
エーアールがブレードを抜いて斬りかかってきた。超高速斬撃――瞬きの間に真っ二つなやつだ。
「ぬん!」
防御魔法を展開。魔人機特有の障壁では、エーアールのブレードに貫通されてしまうので、別種の防御で斬撃を弾く。
『防がれた!?』
「そう簡単にやられるわけにもいかないんだよ」
俺はリダラ・ダーハを後退させる。もちろん、スピードでは風の魔神機であるセア・エーアールには勝てない。
「俺はお前をこちらに引き入れたい。昔の教え子のひとりだからな。別にお前は、大帝国に忠誠を誓っているわけじゃないんだろ?」
『そうさ、あたしはこれしかできないから戦っているんだ!』
再び加速しての攻撃。さらにエア・ビットを複数展開するのが見えた。時間差、多方向からの波状攻撃ってか?
セア・エーアールの近接攻撃を回避しつつ、俺はダーハのシールド・ビットを射出。マント状のパーツに見えて遠隔攻撃・防御ユニットであるシールド・ビットは、切り込んでくるエア・ビットを迎撃した。
『軍隊ってのは、戦う以外に考えなくても楽だからさぁ』
言われたことだけをやればいい、というスタンスか。姉もいない、周りに同胞もいない。ゆえに自分で考えるしかないが、何をすればいいかわからない。
「なるほどね。じゃ、うちに来ても問題ないってわけだ」
『吸血鬼はご免だぜ?』
「それはないから安心しろ。むしろ吸血鬼は滅ぼす方向でやってる」
とはいえ、まあ口で言っても簡単には疑いは晴れないだろう。たとえ姿を見せたとしても、だ。
「グレーニャ・エル、お前に与えられた選択肢は二つだ。こっちへ来るか。それとも機体を無力化されて強制的にこっちへ来るか」
『どっちもYESしかないじゃんか!』
エルからの念話が笑っていた。
『だが、あんたを倒しちゃうって選択肢もあるぜ?』
「残念ながら、それはないんだ、エル」
少し戦いに付き合ったが、ガチで
「俺はもう王手なんだよ」
『ハッタリか?』
「事実だよ。エルフの里でのセア・ヒュドールがどうなったか覚えているか?」
その言葉に、グレーニャ・エルは沈黙した。
水の魔神機。エルフの里での攻防で、突然裏切った機体。……同じシェード遊撃隊にいたんだ、異変くらいは知っているよな?
『……なるほどねぇ。選択肢なんて最初からないのに、一応聞いてくるのがセンセらしいや。……わかった、信用してやるよ』
セア・エーアールは、俺のリダラ・ダーハの前で動きを止めた。手にしたブレードも収納して戦闘態勢を解除した。
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