第1175話、グレーニャ・エルと再会


『おっと、降参したんだ。撃たないでくれよ、センセ』

「そんな真似はしないさ。……が、俺以外が間違って攻撃すると面倒だから、ちょっと待ってくれ」


 俺は魔力通信機に呼びかけた。


「ソードナイト1より各機。セア・エーアールはこちらに付いた。間違っても攻撃するな!」

『了解、ソードナイト1』

『了解しました。さすがです、ジン様』


 エルダーエルフのニムが言った。


『セア・エーアール、グレーニャ・エル殿。ご無沙汰しています。覚えていらっしゃるでしょうか? ジン様の従者であるエルフのニムです』

『ニム? あー、何か覚えがあるなぁ。センセの従者エルフか、どっちだっけ?』

『顔が怖いほうです』


 ニムがそんなことを言った。えー、何そのやりとり。俺も初耳。


『おー、あんたも生きてたんだなぁ。こりゃますます本物で間違いなさそうだ』


 グレーニャ・エルは、まだ俺を本物のジン・アミウールと信じてなかったのか? まあ、魔法文明時代からの年月を考えると、疑いたくなるのもわかるけど。


「顔が怖いほう?」

『カレンとの比較です。エル殿は他人の名前を覚えることに熱心ではありませんでしたので、私たちをそのように判別していました』

『自己弁護させてもらうと、エルフを差別とかしてたわけじゃなくて、普通に名前覚えるのが苦手なだけだからな』


 グレーニャ・エルは自慢するように言ったが、別に褒めるところじゃないからな今の。

 それはそれとしてお仕事に戻ろう。


「ディーシー、そっちはどうなった?」

『ああ、制御システムを掌握しょうあくした。いつでも動かせるぞ』


 専用ソケットに収まっているDCロッドが答えた。


「なら、やってくれ」

『了解した。……セア・ゲー、遠隔操縦、歩行開始』


 シェード遊撃隊旗艦である戦艦『ラプトル』の格納庫に収容されている土の魔神機が動き出す。ディーシーの乗っ取りプログラムによって精霊コアが、こちらの思うままに動くのである。


「どんな様子だ?」

『操縦者がいないのに動き出したことを周りの雑兵どもが驚いているぞ。……あー、しかしこれはよろしくないな』

「何だ?」

『操縦者がいないから魔力が足りん。何とか動かしているが、戦闘はほぼ無理だ。ついでに魔神機を動かせるパイロットを乗せないと数分で動けなくなる』

「了解だ。……ソードナイト1よりシャドウ・バンガード、セア・ゲーの離脱を援護しろ」

『承知しました、ジン様』


 サキリスのリダラ・ドゥブ以下、魔人機隊が、ドック内で損傷している戦艦へと急行する。先制攻撃により、すでに敵艦の主砲や副砲などは破壊されている。

 こちらの機体が取り付くのと、土の魔神機が現れるのはほぼ同時だった。


『おいおい、何でセア・ゲーが動いているんだ?』


 俺のダーハの近くにいたエーアール、グレーニャ・エルが驚いた声を出した。


『セラスはいないはずだろ? 何でだ?』

「さっき言ったろ。機体を無力化されて強制的に動かされるってさ」

『センセの魔法かよ。ヤベェ、さっきのはマジだったのか!』


 魔法っていうか、魔法文明時代に俺とディーシーで細工しただけなんだけどな。詳しい話は後でもよかろう。

 土の魔神機セア・ゲーが、サキリス隊によって回収、護衛されながらドックから離脱する。


「さて、これで目的は達した。後は帰るだけだな。ソードナイト1より全機へ。作戦終了、帰投しろ」


 俺は、セア・エーアールを見やる。


「では、グレーニャ・エル。俺たちの母艦へご招待しよう。ついてきてくれ」

『りょーかい。またセンセと飛べる日が来るなんてなぁ。不思議な感じ』


 しみじみとした調子でグレーニャ・エルは言った。


『やっぱ、あたしのことを知っている人間がいてくれるってのは、いいことだよな』


 フアル城基地を離れ、しばらく飛行する。

 やがて合流地点につくと、潜伏していたバルムンク艦隊のうち、戦艦『バルムンク』とヴァルキュリア級強襲巡洋艦がステルス航行を解除した。

 艦載機を収容するためだ。


『へぇ、見たことがない艦だ。……これがセンセんとこの母艦かい?』

「いいだろ? 『バルムンク』って言うんだ」

『いいねえ、アポリト帝国の艦艇の面影を感じる。……ところでセンセ』


 グレーニャ・エルが真面目な声を出した。


『あたしのことを信用しちゃっていいのかい? センセに従うフリして、艦隊の位置を通報したり、無防備な今を狙って攻撃してくるって考えないわけ?』

「それを今言う時点で、それはないな」


 俺は苦笑した。もちろん、グレーニャ・エルが投降したフリをして、ここで大暴れするかも、と俺も想像しなかったわけではない。

 むしろ彼女と接触した場合、どういう行動をとるか、様々なパターンを想定済である。


「ま、いつでも機体を制御できるんだ。やれるもんならやってみろってやつだ」

『さっすがセンセ。やっぱ頭いいなぁ』


 グレーニャ・エルは一転明るい声を出した。


『んじゃ、団長さん。あたしはあんたの指揮下に入るよ。戦ってやるから、まあ使ってくれよ』



  ・  ・  ・



 フアル城基地襲撃を終えて俺たちは帰還した。

『バルムンク』の格納庫では、特殊戦闘部隊『ソニックセイバーズ』に救出されたシェード将軍と、彼の副官にして、魔法人形のひとりだったセラス=アリシャが再会を果たしていた。


「ご無事で、シェード様」


 セラスはシェード将軍の無事に涙を流し喜んでいた。シェード将軍もまた、彼女を優しく抱きとめていた。

 ……上官と部下というには、少々親密な空気を感じる。


 魔神機リダラ・ダーハを降りた俺は、シェード将軍にご挨拶あいさつしておこうと思ったのだが、ちょっとタイミングを逃した感があった。

 アリシャに会いたがっていた魔法人形の子たちもちょっと困惑している。


「セーンセ!」


 そんな俺に、セア・エーアールから降りたグレーニャ・エルが声をかけてきた。


「ひっさしぶり! あんま変わってないなぁ」

「そういうお前は、ちょっと大人になったんじゃないか?」


 少女だった彼女も二十くらいの外見となっている。


「まあね。……で、あっちにいるのはシェード将軍?」

「そ、今回は彼に会うのも目的だったんだ」


 俺とグレーニャ・エルが話していると、シェード将軍もこっちを見ていた。


 目礼をすると、将軍も同様に返してきた。

 さて、それじゃお話といきましょうね。

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