第1169話、ドワーフ目線のスーパーロボット
ディグラートル大帝国から、亜人たちを脱出させるエクソダス作戦、その第一段は成功に終わった。
大規模離脱は今回が最初で最後かもしれないが、規模の小さい脱出作戦は定期的に行われる予定である。
亜人差別を特に進めていたコルバ侯爵の貴族派の軍は、アーリィーの第三艦隊の猛攻撃を受けて、その戦力の多くを失った。
歴戦の第三艦隊を前にすれば、寄せ集め軍であるコルバ侯爵軍など、鎧袖一触である。
その第三艦隊も、ひとまず作戦を終えてアリエス浮遊島軍港へ帰還した。艦載機に少し被害が出たが、艦隊は無傷である。
シャドウ・フリートが撤退したことで、ディグラートル大帝国本国で、活動している我が艦隊はなくなった。
通商破壊フリゲートや監視ポッドなど、情報収集活動は引き続き行われているが、今のところ艦隊を投入するような作戦はない。
保護した難民たちを今後どうするか。彼らが考えをまとめるのを待ちつつ、俺は東部トキトモ領、南方トキトモ領に新たな移住者受け入れ準備の指示を出した。
同時に俺の領地になってさほど時間が経っていない南方トキトモ領について、諸問題への対処、改善策を考え、動かしていった。
末端への往復に十数日、指示が現場に届くまでに時間が掛かっていたこれまでと違い、通信やポータル連絡網、監視ポッドを駆使することで指示はリアルタイムで届く。
連絡の効率化と
民衆も、こちらが問題を素早く片付けてくれるので、新領主万歳と受け入れてくれている。
スピード。これが大事だ。
もちろん、問題が発生した時、それに対処できる資金や物資、人員などがいないと意味はないが。
隣国の境界であるエーレ川は海へと繋がっているが、俺の南方トキトモ領の一部はその海に面している。
北方のノルドハーウェンにもあったが、海賊や海の魔物の出没には悩まされているとあり、こちらでも海軍の増強は急務だった。
軍港の拡張と、海賊撃退用に海上型空母や巡洋艦の整備。ノルテ海艦隊同様に、戦艦を海に浮かべるもいいな。
などと考えていたら、俺の執務室に来客があった。
「侯爵閣下」
「やあ、ノーク。よく来てくれた」
ドワーフの武器職人であり、我がウィリディスの技術部門の古参である。
「先日は、我が同胞を大帝国から救っていただき、ありがとうございました」
「親族には会えたのか?」
「ええ。まあ、思ったより元気そうでした」
ドワーフは髭を撫でつつ苦笑した。聞けばこのノーク、ここヴェリラルド王国の生まれではなく、移民なのだそうだ。
ディグラートル大帝国が大陸侵略を始める前から、かの国のきな臭い亜人差別主義を危険視して国を離れたという。
その勘はまさしく当たりで、大帝国が侵略を開始して多くの国が飲み込まれていく中、一族の者たちも捕らわれて強制収容や移動をさせられた。
エクソダス作戦を立案、実施するきっかけとなったのは、ノークの一族や同胞救出の願いも一因だったりする。
「今回救出した難民たちの中には、俺たちウィリディス軍に参加したいと申し出ている者たちがいる」
「大帝国に酷い目にあった連中ですからね。やられっぱなしというのは性に合わないんでしょうな」
ノークは目を細めた。
「うちの従兄弟もおります」
「本人たちがどこで働くかは、ある程度尊重するとして、当面は同胞たちの面倒をみてやってくれないか?」
「承知しました。奴らには自分から話しておきます」
頷くノーク。
「そういえば先日頼まれておりました、スーパーロボット案できました」
「おっ」
できたか。以前、
色々やってて俺は忘れかけていたぞ。
ドワーフ視点のスーパーロボットプラン……楽しみだ。
果たしてロボットなど馴染みがなかった彼が、ウィリディスでマシンに触れたことで、どういう思考を得たのか。その集大成とも言えるものだから、ワクワクしてしまうね。
ノークが見せてくれた線図と装備などを確認する。
……ドワーフらしい、がっちりした機体だな。
ずんぐりしたT-Aをモデルにしているのか。ただ技巧に定評のあるドワーフらしく、戦士か古代の神像のようにも見える。
第一印象が、とにかく『重装甲』。ブァイナ鋼装甲を採用しているにも関わらず、装甲板が厚い。こりゃ、ちょっとやそっとの攻撃もそよ風のようなものだろう。マギアブラスタークラスの攻撃を食らっても、ビクともしないのではないか。
腕部に展開式のドリルがついている。T-Aと同じく腕は打ち出せる仕様のようだ。クリエイトミサイル、マギアブラスター――ただし、これらはシード・リアクターを持っていないために、エネルギーパック方式となっている。
しかしよくもまあ、こんな魔力消費の激しい武装を盛り込んだものだ。機体の稼働時間がかなり限られてしまうのではないか……?
「ああ、なるほど」
これ装甲が分厚く見えるが、そうでなく予備の魔力――エネルギーパックか。ブァイナ鋼なら薄くても充分な防御性能を持つから、ここまで分厚くする意味があるのかと思ったが、エネルギーパックの分だけ厚くなっているように見えているのだ。
このがっちりスタイルにも理由がある。さすがドワーフ、やるなぁ。
結界水晶防御も標準装備と、その防御性能はスーパーロボットと呼ぶに不足はない。
メイン武装はギガントハンマー。手に持って使う大型のハンマーだ。
さしずめ、敵地へ突入する強襲機。または拠点破壊用の機体と言える。
「いいね。中々面白いな」
「ありがとうございます」
ノークは目尻を下げた。職人としての彼から自信のほどがうかがえた。
こうなると、エルフのガエアが設計中のエルフ視点のスーパーロボット案も気になるところだ。
「そういえば、完成しましたね。T-B」
新開発中のスーパーロボット、タイプB。T-Aからより人型に近い新型機。
「うん、相変わらずパイロットがまだ決まっていないがね」
「閣下は乗らないのですか? ウィリディス軍のフラッグ機になるやもしれませんぞ?」
我が軍で最強のスーパーロボット。
「はてさて、どうかな。ベルさんのブラックナイト・ベルゼビュートのほうが強いかもしれんぞ」
「なればこそ、閣下とベルさんが双璧となれば無敵ではないですかね?」
中々持ち上げてくれるね、ノーク君。俺は微笑しながら、今後のスーパーロボット計画について、ドワーフの職人と話し込んだ。
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