第1166話、駆けつける援軍


 シャドウ・フリートは窮地きゅうちに立たされていた。

 亜人難民を乗せた強襲揚陸艦を守るべく展開した護衛艦隊は、スティグメ帝国第1艦隊の圧倒的戦力差に、落伍らくご、沈没艦が相次いだ。


 護衛のコルベットは肉薄する敵クルーザーを迎え撃ったが、『神無月かんなづき』『霜月しもつき』を喪失、『満月みちつき』が脱落し、軽空母『トレイター』が大破、炎上していた。


 旗艦『キアルヴァル』率いるクルーザー戦隊も、Ⅱ級重クルーザー『ピアージュ』が撃沈され、残るはⅠ級軽クルーザーの『ペルセ』のみとなっていた。


 幸いなのは、難民を乗せた揚陸艦3隻はまだ無傷であること。敵航空機が巡洋艦にコンテナをくっつけたような強襲揚陸艦より、軽空母のほうを脅威と見てそちらに引き寄せられたのも大きい。

 コルベット『長月ながつき』『雪月ゆきつき』が、揚陸艦の盾となる機動を見せるが、その守りが崩壊するのも時間の問題だった。



  ・  ・  ・



 スティグメ帝国第1艦隊、旗艦『トゥレラ』。

 司令官のレイヒェは、冷めた目で戦況を眺めていた。


「手こずるわね」


 航空機同士の戦闘は一進一退。兵力差は歴然。にもかかわらず、よく粘る。


「それにしても、奇妙ね……」


 黒い艦隊は、第1艦隊から逃げるように移動している。巡洋艦主体の軽空母群なので、砲撃戦を挑むのは愚の骨頂。退避は正解なのだが……それにしては護衛艦が空母よりも、クルーザー改造の輸送船を守っているように見える。


 ――こいつらは空母機動部隊ではなく、輸送艦隊だった?


 それならばこの動きも理解できる。守る対象が空母ではないのも。

 とはいえ……。


「ま、それもここまで、ね」


 連中の運命はまさに風前の灯火。あとは、吹き消すだけだ。


『魔力レーダーに反応! 山陰より、敵艦出現!』


 索敵士の報告に司令塔に緊張が走った。

 現れたのは小型艦――漆黒塗装のⅠ級コルベットだった。それが5隻。第1艦隊の艦列に突っ込んできた。


「まさか斬り込みか!?」


 戦艦『トゥレラ』の艦長が声を張り上げる。

 小型のコルベットなど、戦艦を前にすれば火力も防御力も劣る雑魚である。それが小口径の砲を撃ちまくりながら突撃してきたのだ。


「近接防御だ! 近づいてくるなら副砲で迎撃!」


 艦長が指示を出す中、レイヒェは口元を笑みの形に歪めた。

 雑魚ざこが何とかしようと足掻くのってゾクゾクするわよねぇ……!



  ・  ・  ・



 スティグメ帝国第1艦隊に突撃をしたのは、シャドウ・フリートで警戒艦を務めていたコルベット『睦月むつき』『菊月きくづき』『夕月ゆうづき』『望月もちづき』『三日月みかづき』だった。


 主力より離れて前方索敵――いわゆる、レーダーピケットの役割を果たしていたⅠ級コルベットは別艦に任務を引き継いで合流。主力艦隊の危機に敵艦隊へと肉薄にくはくしたのだ。


 12.7センチプラズマカノン単装砲をメイン武器とするコルベットは、全長80メートルと小型だ。敵クルーザーどころか護衛艦にさえ劣勢ではあるが、それでも果敢に敵艦隊に飛び込んだ。


 前方ばかりを気にしていたスティグメ帝国第1艦隊は、後方、それも近くまで忍び寄っていたコルベット部隊に不意を突かれた格好となった。

 体当たりもかくやの急接近を許し、とっさに回避運動をとって隊列を乱す艦も現れた。


 ひとまずの混乱を与えつつ、一撃離脱をかかるシャドウ・フリートコルベット部隊。だがスティグメ帝国もやられてばかりではない。

 やはり火力の差、そして数の差。『菊月』『夕月』『三日月』が撃沈され、離脱に成功したのは『睦月』と『望月』のみだった。


 だがこの決死の突撃により、シャドウ・フリート主力への敵第1艦隊の砲撃が一時的に止んだ。

 貴重な時間稼ぎに成功したのだ。

 そしてその結果、スティグメ帝国艦隊は、ウィリディス軍最強戦艦の出現を許すこととなった。



  ・  ・  ・



 転移。突如、現れたのは超戦艦バルムンク。


「戦闘配置」


 俺の指示を受けて警報が流れる。45.7センチ三連装プラズマカノンが、スティグメ帝国艦隊へと指向する。

 敵艦隊を正面に捉え、シャドウ・フリートを追撃する連中の横っ腹に迫る。


『主砲、射撃よーい、よし』

「撃ち方始め!」


 プラズマカノンが青い光弾を放つ。標的となった敵戦艦が45.7センチプラズマ弾の集中を受けてシールドを貫通、その艦体に紅蓮の火の手をあげて吹き飛んだ。


「これで敵さんも目が覚めただろう」


 6隻いた敵戦艦の1隻が爆発、墜落していく。残る敵戦艦も反撃すべく、こちらにその砲門を向けてくる。


「砲撃中止。結界水晶防御を展開」


 俺はすかさず命じる。エルフの里の防衛結界である水晶防御は、敵弾をシャットアウトすると同時に、内側からの砲撃も対策なしでは通らない。プラズマカノン系は対策できないので、結界水晶展開中は使っても無駄だ。


 スティグメ帝国戦艦群が40センチ魔法弾を発射した。こちらは敵の横っ面に向かっている格好なので、敵戦艦は旋回する主砲を全部向けることができる。

 いわゆる理想的な丁字戦法を敵が使う格好だ。


「ふん、この結界水晶を抜けられれば有効なんだろうが」


 敵魔法弾は結界にすべて弾かれ消滅した。無駄だよ無駄。百発だろうが千発だろうが、すべて無効だ。


「こちとら転移したのは1隻だけじゃないんだ」


 戦艦『バルムンク』がスティグメ帝国戦艦の砲撃を一手に引きつけている間に、もう1隻の超戦艦が戦場に現れた。

 艦首に三本の衝角をつけた漆黒の大型戦艦――ベルさんが作り上げた超戦艦『レーヴァテイン』見参!


 エンジンを唸らせ、全長330メートルの巨艦が高速で突進する。艦首側の主砲45.7センチ連装プラズマカノンが火を吹き、また1隻のスティグメ帝国戦艦が木っ端微塵みじんとなった。


 さらに『レーヴァテイン』は速力を緩めることなく、敵艦隊との距離を詰めた。

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