第1165話、乱入するスティグメ帝国艦隊


 スティグメ帝国軍、大帝国本国内に侵入。

 新たに現れたのは第1艦隊だった。その前衛部隊がもたらした報告に、艦隊司令官であるレイヒェ・タンツォーは司令官席で足を組みかえた。


「黒い大帝国艦艇?」


 美貌の美少女悪魔という表現がピッタリのスティグメ帝国十二騎士であるレイヒェに、通信士官は言った。


「はい。アポリト帝国艦艇の流用ではなく、大帝国の独自艦のようですが、プロペラを使った旧式ではなく、魔法動力艦のようです」

「通常塗装とは異なる色の艦隊ねぇ……」


 大帝国の特殊部隊だろうか? こっそり大帝国本国の要衝を突いてやろうと思ったのに、早々に敵の艦隊とぶつかるとは。


「ツイてないわね」


 レイヒェはビシッと正面を指さした。


「このまま前進! 敵艦隊を粉砕し、大帝国本国中枢へと進撃する!」


 スティグメ帝国第1艦隊は速度を上げた。

 大帝国に発見されたのなら、もはや奇襲にあらず。とはいえ、手ぶらで帰るわけにもいかない。だから、強引に突破する!


「前衛部隊より報告。敵艦隊は小型空母3、巡洋艦9、護衛艦5」

「ふうーん。戦艦なしの巡洋艦部隊か。それなら簡単にひねり潰せるわね!」


 レイヒェは冷徹な笑みを浮かべた。

 敵とあらば完全粉砕。ここで遭遇そうぐうした不幸を呪いながら沈んでいくがいい!



  ・  ・  ・



 戦闘はシャドウ・フリートの戦闘機隊と、スティグメ帝国の航空機の衝突から始まった。

 地上の航空戦力と初めて戦うスティグメ帝国第1艦隊航空隊に対して、シャドウ・フリートの航空隊は百戦錬磨。


 空飛ぶ頭蓋骨頭蓋骨ことスカルヘッドが変幻自在に動けば、TF-4ゴーストはフレキシブルスラスターを使って、生身だったらパイロットを殺すような逆加速で敵機の後方へ回り込む。

 激しい空中格闘戦は、炎と煙を空に描き出した。


 シャドウ・フリート旗艦『キアルヴァル』。その索敵機器は、艦隊に接近するスティグメ帝国艦隊を捉えた。


「避難民を乗せた揚陸艦を死守する! クルーザー戦隊、突撃っ!」


『キアルヴァル』以下、Ⅱ型重クルーザー2隻、Ⅰ型軽クルーザー3隻がエンジンを噴かして突撃した。

 それはまるで矢のようであり、遮二無二に敵艦隊へ向かっていく。

 スティグメ帝国の前衛部隊は、急接近するシャドウ・フリート艦が想像以上に速いことに戸惑った。


 搭載された魔法砲が、接近するシャドウ・フリートクルーザーへ指向するが――


「食い破れ!」


 エスメラルダの号令を受けたシャドウ・フリート艦の攻撃が速かった。


『キアルヴァル』とⅡ型重クルーザーは15.2センチ三連装プラズマカノンを発射。3隻のⅠ型クルーザーは15.2センチ連装プラズマカノンを撃ち、手近な標的を砲撃した。


 クジラ・クルーザーことオルキ級巡洋艦の艦首にプラズマ弾が命中し、火の手が上がる。

 スティグメ帝国艦にも防御障壁が搭載されているが、テラ・フィデリティア式プラズマカノンは、その防御を貫通し、ダメージを与えていく。


 反撃の魔法弾がシャドウ・フリートにも伸びる。高速で艦隊を突っ切る黒き艦艇を数発がかすめ、数発が命中した。

 しかし、プラズマカノンに比べ威力に劣る魔法砲は、シールドを貫いたものの、かなり威力が殺されてしまう。シャドウ・フリート艦の装甲貫通には至らず、表面で爆発してしまう魔法弾。だが、シャドウ・フリート艦もまったく無傷とはいかない。


『キアルヴァル』の三連装プラズマカノンがフート級フリゲートを一撃で轟沈させる。射撃練度も敵より優勢であり、艦の数こそ少ないもののスティグメ帝国艦隊に打撃を与えていった。


「一航過ののち、反転追尾!」


 エスメラルダのスレーブ・サーキットに制御された6隻のシャドウ・フリートクルーザーは、一撃離脱で敵艦隊の間を突き抜けると一列の縦陣を形成。円を描くように機動すると、追いかけようと転舵する敵フリゲートに全砲門を開いて追い打ちを浴びせた。


 後部を撃ち抜かれて墜落していく敵クルーザー。機関を撃ち抜かれて爆沈するフリゲートなど、艦隊練度の差はシャドウ・フリート艦隊にさらなる戦果をもたらした。

 だが――


『敵後続艦隊出現! 戦艦6、巡洋艦10以上!』


 スティグメ帝国第1艦隊の主力が前衛艦隊に追いついた。

 パライナ級戦艦の40センチ魔法加速砲が飛来し、シャドウ・フリートクルーザー部隊をかすめた。


「敵前衛部隊の中に突っ込み、戦艦からの砲撃を回避する!」


 エスメラルダは艦隊を敵前衛部隊に向けて全速力で突進させた。だが敵主力艦隊はなおも砲撃を繰り返し――


『「アリアンス」、被弾ひだん!』


 見張り員の報告。艦体後部を破壊されたⅠ級軽クルーザーが僚艦から落伍らくごしていく。

 それをスティグメ帝国の戦艦群は逃さない。容赦なくトドメの砲撃を浴びせ、軽クルーザー『アリアンス』は爆沈する。


 敵前衛部隊は、味方戦艦の射線から逃れるように左右に分かれた。

 その間にも『キアルヴァル』の近くを敵の放った魔法弾がかすめた。クルーザークラスの砲ならともかく、戦艦クラスの砲は直撃すればタダでは済まない。

 直後、旗艦の右を進んでいたⅡ型重クルーザーがその艦体を撃ち抜かれた。


『「クレル」轟沈!』


 シャドウ・フリートクルーザー部隊は、残り4隻となった。

 巡洋艦のシールドでは、やはり戦艦の魔法弾には耐えられない。


『敵艦隊の一部が、揚陸艦部隊に接近!』


 見張り員の報告が木霊した。

 亜人難民を乗せた強襲揚陸艦3隻、その護衛の軽空母3隻とⅠ級コルベット5隻のほうへ、敵の高速艦が迫っていた。


 難民護衛艦隊のⅠ級コルベットが、その小型快速をもって敵クルーザーの正面を横切って砲撃を開始する。

 しかし、個々の火力では敵クルーザーのほうが上だ。


「何としても難民を乗せた艦を守れ!」


 エスメラルダが指示を出した直後、『キアルヴァル』を振動が襲った。また1隻――Ⅰ級軽クルーザー『エヴァシオン』がやられたのだ。

 クルーザーも残り3隻。


「難民護衛艦隊が離脱するまで、時を稼げ! 砲撃!」


 残存するシャドウ・フリートクルーザーが、追い上げながら敵クルーザーやフリゲートにプラズマカノンを撃ちまくる。

 しかし、後方の敵主力艦隊もまた追いすがる。その数はシャドウ・フリートを数で圧倒しており、このまま戦い続けても劣勢は火を見るより明らかだった。



  ・  ・  ・



 遠くで爆発音がした。

 強襲揚陸艦『トライアンフ』の艦内格納デッキにいたグレゴらドワーフや亜人難民たちは、敵が迫っていることを艦内放送で知っていた。

 振動を感じるために、悲鳴を上げる者もいる。グレゴはじっと座り込んでいた。

 ジタバタしてもどうせできることはない。

 とはいえ、思わずにはいられない。


「大丈夫なんだろうか……?」


 追っ手は大帝国だろう。果たしてあの強大なる敵から逃れることができるのだろうか?

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