第1161話、貴族派の暴挙
アリエス浮遊島司令部に、俺とベルさんが到着する。
ディアマンテやアーリィーがすでにいて、戦略ボードを見つめていた。
「貴族派が動いたって?」
「はい、閣下」
女軍人姿の旗艦コアは答えた。
「コルバ侯爵率いる貴族派が国内の亜人種に対して追放宣言を行い、弾圧を開始しました」
シェイプシフター諜報員、観測ポッド衛星など複数から報告が上がっており、亜人集落と思われる場所の焼き討ちや虐殺が展開されていた。
「何だって、いま亜人種の
「大帝国は人間至上主義だからな。亜人などの他種族を差別している」
ベルさんが鼻をならす。
「貴族派なんていうくらいだ。さぞ差別している連中ばかりなんだろうよ」
実際のところはどうなのだろう? 俺はスフェラに確認する。
「貴族派は亜人種排斥に賛同する味方を自陣営に取り込むつもりのようです。根っからの人類至上主義者は、亜人が視界に入ることさえ嫌っていますから」
「自陣のアピールのために亜人を殺すか。とんでもない奴らだ」
これだから種族差別する奴は嫌いだ。俺は憤りを隠せない。
スティグメ帝国という敵が現れて混沌とした状況を、さらに悪化させるようとするとは!
「貴族派がこれ以上、馬鹿なことをする前に潰してしまおう」
大帝国同士で争って自滅しろ、などと
「シャドウフリートは動かせるな?」
「軍部相手に作戦を準備中でしたから、投入は可能です」
ディアマンテが答えた。
「意見具申、よろしいでしょうか?」
「許可する」
「かねてより計画されていた亜人救出作戦を、実行に移すべきではないでしょうか」
他の種族への差別が強く、迫害も行われていたディグラートル大帝国。確か、うちで働いているドワーフのノークが言っていたのがきっかけだったと思う。シェイプシフター諜報部で、大帝国の亜人種族を脱出させる計画を進めていた。
いきなり亜人たちの前に出て、さあ脱出しましょうと言っても彼らが困惑するだけなので、下準備をしていたが……いよいよ、その時が来たか。
「そうだな。これ以上は亜人たちの犠牲が大きくなるだけか。では『エクソダス計画』を前倒しだが発動する!」
「承知しました」
ディアマンテが
「では、大帝国に潜入する各工作部隊に、エクソダス計画発動の指示を出します」
「よろしく頼む。……アーリィー」
俺は言った。
「シャドウ・フリートをエクソダス計画に使用する。援護のため、第三艦隊にも出てもらう」
「人の命がかかってるからね。もちろん出撃するよ」
ウィリディス軍は大帝国での新たな作戦行動のために動き出した。
・ ・ ・
ディグラートル大帝国北東部、エルダン山岳地帯に秘密の地下空間が存在する。
そこにはドワーフをはじめとした、亜人種が生活していた。
いわゆる隠れ里である。亜人種を
仲間たちと静かに地下生活を過ごしていたグレゴのもとに、『黒い人』がやってきた。
『大変お待たせしました、グレゴさん』
この黒い人が何者なのか、グレゴやここに住む亜人たちは知らない。そもそも人間なのかも怪しい。
『情勢に変化がありましたので、移動となります』
「つまり……」
『はい、エクソダスです』
黒い人は事務的に言った。黒い人がやってきたので、集まっていた他の亜人たちも、「やっとか」とホッとした空気が流れた。
「いよいよか」
グレゴは独りごちる。
彼と仲間のドワーフたちは、大帝国の資源採掘の労働力として強制的に連れてこられた過去がある。
劣悪な環境と亜人差別に凝り固まった大帝国の人間によって尊厳を踏みにじられてきた彼は、黒い人の手引きにより仲間共々、脱走。このエルダン山脈地下の隠れ里にいた。
「住めば都、ここもだいぶ慣れてきたんだがなぁ」
元から地下暮らしに慣れているドワーフであるグレゴにとっては、この隠れ里もそう悪いものではなかった。
もっとも、この隠れ里に大帝国が気づき、攻めてくるかもしれないと思えば、早々に国外へ脱出したくはあった。
黒い人はグレゴのように大帝国から迫害されている亜人たちを助けて回っている。ドワーフ以外にも、隠れ里にやってきた連中はそういう経緯でやってきた。
聞けば、黒い人とその仲間たちが今なお苦しめられている亜人たちを保護、脱出ための手はずを整えているらしい。
そこにきて、脱出となれば――
「同胞たちの脱出の目処がついたんだな?」
『いいえ』
黒い人は首を横に振った。
『計画は前倒しになったのです』
「前倒し……?」
『大帝国の亜人差別主義者たちが虐殺を開始したのです。事ここに至っては、すでに保護されている皆様を一刻も早く助けるようにと、我らの主がご決断されたのです』
「おお、あなたたちの主様か!」
グレゴはもちろん、ここにいる誰ひとり知らない、黒い人たちのボス。
誰なのか聞いたのだが、黒い人は教えてくれなかった。人間なのか亜人なのかもわからない。
ただ大帝国で悪名を轟かせている反乱者たちが黒いカラーだから、そのリーダーではないかと一説では言われている。
大帝国のやり方に反発し、戦い続けている彼らならば、亜人種に救いの手を差し伸べてもおかしくないと思えた。
いつかその人物に会ってお礼を言いたいものだと、グレゴは思った。
大帝国人に奴隷のように扱われた地獄のような生活から抜け出せた恩がある。そして今、亜人たちを大帝国の外へ逃がそうと動いてくれている。
「ありがたいことだ」
拝むように呟くグレゴ。黒い人は言った。
「飛行する船で迎えが来る手はずとなっています。皆様は、ここを退去する準備をしてください」
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