第1159話、ベルさんの艦隊
ベルさんが自分の艦隊が欲しいと言ったので、工廠を貸した。そこでベルさん自身の魔力を使って、艦艇や兵器を生産した。
ということで、俺にそれをお披露目してくれるという。意外に早かったな。
「しかし、ベルさんが艦隊とはね……。これからは独自行動するの?」
「いいや。必要ならするが、基本的にはお前さんと一緒にいるよ」
黒猫姿の魔王はそう言った。
「ほら、お前さんが暴れている間、オレが暇だからな」
俺が『バルムンク』を使っている間に、ベルさんも専用艦で暴れたいということなのだろう。
「じゃあ、別に艦隊でなくてもよくなかったか? 専用の艦があれば」
「言ったろ? 必要な時に独自に動ける艦隊があったほうが、お前さんにも都合がいい」
まあ、そうかもしれない。その必要な時ってのがとっさに浮かばなかったが、ベルさんに別行動で何か頼む時だろうなと思った。
では、ここでベルさん設計の艦隊の紹介だ。ベルさん専用の旗艦は――
「戦艦だ!」
ふだんの黒猫姿に合わせたのか、シャドウフリート艦のように黒で塗装されている。
「衝角がついてるな……」
艦首に角が三本ついている。かつて水上船にも衝角がついていたが、それは大昔の話である。
しかしこっちのは、ガチで角なんだよなぁ。
「おう、結界水晶とブァイナ金属の合わせ技だ。体当たり戦艦というのも悪くないだろう」
全長は300メートル超えで、ウィリディス戦艦の中でも最大クラスだ。主砲は45.7センチプラズマカノンと、これまた最強クラス。ただし『バルムンク』が三連装なのに対して、こちらは連装砲となっている。しかし砲塔の数は12基と、トータルでは上。
「他にもマギアブラスターとか必殺武器も積んだぞ」
「ほう」
さすがにレールガンは搭載していないが、個艦の能力は『バルムンク』に匹敵するとみていい。艦載機も搭載可能で、魔人機の運用もできる。
「この戦艦の名前は?」
「レーヴァテイン」
ベルさんの返事に俺は首をひねる。
「魔剣の名前かな……?」
「そういうことだ」
こっちの世界でもレーヴァテインは剣なのか。俺の元いた世界だと、確か北欧神話に出てくる武器の名前だったような……。
「これは強そうだ」
デカいのに、砲も強くてさらに体当たりまでしてくるなんて、猛牛も真っ青だ。
「で、こっちにあるのは、空母だ」
エグジル級戦闘母艦というらしいそれは、見た目は空母というより巡洋艦のように見える。飛行甲板がなく、艦載機の射出口が艦内に収められているせいだろう。
全長は230メートル。やはり目立つのは艦首の盾のような構造物。見るからに装甲の塊であるそれは、正面からの防御が凄まじく高いのを予感させる。
「空母としてはもちろん、クルーザーとしても使えるように設計した」
ベルさんは得意げだった。空母は敵の攻撃に
「そしてこっちは突撃型揚陸艦だ」
ベースにしたのがエグジル級であるのを想像させるほど、艦全体のシルエットや部品が似ていた。
ドゥルール級と呼ばれるそれは、エグジル級と同じく全長は230メートル。艦首も盾のようなチャージブレードが装備されており、突撃揚陸艦の艦種の名の通り、直接敵地へ乗り込む艦艇である。
「こいつは敵地や敵艦に直接ぶちあたって接舷する。そこで搭載するパワードスーツ部隊や、モンスターを送り込む」
「モンスターだって?」
「ダンジョンコアを積んだのさ」
ベルさんはニヤリとした。
「ディーシーの劣化版だがな。あれの使いようは敵地上陸で役に立つ」
劣化版ということはベルさんが作ったものかもしれない。魔王様なら大抵のことはできてしまうだろうし。
しかし、考えたな。ダンジョンコアからモンスターを製造しまくれば、上陸、派遣できる兵力も、並大抵のものではない。
まさかの数で敵を圧倒するなんてことも可能かもしれない。大帝国陸軍が使っているモンスターメイカーを積んでいるようなものと言えば、そのえげつなさがわかるというものだ。
「エグジル級、ドゥルール級は各3隻ずつ配備する予定だ」
ベルさんは、次へと案内する。
「で、こっちが艦隊の護衛や攻撃を兼ねるアンビシオン級フリゲートだ」
「こいつも
艦首左右に2本、巨大な騎兵槍のようなものがついている。
「ああ、その左右の槍状のもんは、モール級突撃艇だ」
突撃艇だって? すると、真ん中の艦艇が、アンビシオン級フリゲート本体ということか。
アンビシオン級は、ウィリディスの神風級駆逐艦に似たシルエットと、砲の配置を持つ。最大の特徴は艦の両舷に、突撃艇を1隻ずつ搭載できるということか。
モール級突撃艇は全長75メートルと、小型の艦に匹敵する。騎兵の持つランス型の船体に小型の艦橋、そして推進用のエンジン噴射口がついたような艦艇だ。水晶結界と艦首にブァイナ金属を使い、突撃戦法を得意とする。
「ベルさん……。あんたの艦艇は、全部突撃仕様なんだな」
俺は苦笑する。
ラム・アタックなど、まだろくな飛び道具がなかったころの古い戦術だ。
しかし防御装備が充実し、敵の攻撃を無効化できるのなら、一周まわって体当たり戦術というのもまんざら悪いものでもなくなる。もちろん、相手に突進できるスピードは必須であるが。
「わかりやすいだろ?」
ベルさんは余裕たっぷりに言った。
「砲撃しながら、がむしゃらに敵に突撃する。シンプルだ」
「非常にわかりやすい」
だって敵に向かって突撃せよ、でほぼ指示完了だからね。それ以外の細かな戦術など不要である。
「まるで騎兵だ」
敵陣に突撃する騎馬の騎士たち。ベルさんは、それを艦艇でやろうとしているのだ。
さしずめ艦隊突撃と、艦載機による上陸作戦を得意とするのが、ベルさん直属艦隊と言えよう。
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