第1158話、大帝国に対する嫌がらせ


 スティグメ帝国攻略についての方針は定まった。

 次は仇敵きゅうてきとも言えるディグラートル大帝国だろう。


「今、大帝国はどうなっている?」


 俺はスフェラに確認した。

 現在、大帝国はスティグメ帝国軍と交戦中。だが皇帝が戦死したことにより、後継者争いが勃発ぼっぱつ。一触即発の状況になっているらしい。


「きちんと後継者を用意しておかないからだ」


 公には、ディグラートル皇帝に息子はいない。すでに若くして他界しているのだ。……そういや、先日ノイ・アーベントで食事した時、隠し子がいると言っていたな。

 まあ、隠し子だから、大帝国でもその事実を知る者がどれだけいるかわからないが。


 ともあれ、皇帝不在、正式な後継者の不在が、状況を悪化させているのは間違いない。


「あのクルフが死ぬはずがない。ならば、なぜ表舞台に出てこない?」


 大帝国を切り捨てた? 

 もしかしたら今の大帝国を見限り、新たな勢力を立ち上げようとしているとか? 確か、現在所在がわからないアポリト本島を皇帝が保有していたはずだ。相変わらず位置は掴めていないが、奴がそこで何かやっている可能性は高かった。

 その時間稼ぎだろうか?


 表に戻らず、大帝国を混乱させているのは? 俺たち対大帝国同盟が、皇帝不在を狙ってそちらにかかっている間に陰謀を進めるつもりとか。


「現在、大帝国は大きく分けて四つの勢力に分かれています」


 スフェラが説明した。


 アマド侯爵を中心とする議会派。

 ケアルト元帥指揮の陸軍を中心とした軍部。

 コルバ侯爵をリーダーとする貴族派。


 そして、現在の勢力争いをよしとせず、干渉を避けているアノルジ海軍長官の海軍の主な者と、その他中立派勢力。

 アーリィーが腕を組んで唸った。


「やっぱり大帝国としたら、この内輪揉めの空気を早く何とかしたいよね」

「スティグメ帝国と戦っていますからね」


 ラスィアが頷けば、ニムも口を開いた。


「外敵と戦わねばならない時に、まとまりがないのでは、敵に利するだけです」

「俺たちとしたら、このまま内輪揉めで潰し合って倒れるか、スティグメ帝国軍との戦いで疲弊ひへいしてくれれば万々歳なんだがな」


 その間に、地下世界の吸血鬼たちを一掃することができる。あわよくば、漁夫の利も狙えるかもしれない。


「スフェラ、大帝国の次の動きの予想は?」

「一番戦力を有しているケアルト元帥派が、議会派、貴族派を逆賊として討伐に動くと考えられます」

「中立派はどう?」


 アーリィーの問いに、スフェラは首肯した。


『ケアルト陸軍元帥とアノルジ海軍長官の直接通信を傍受ぼうじゅしております。少なくとも海軍の主な戦力はスティグメ帝国軍に注力するため、内乱劇には静観を決め込むようです』

「議会派と貴族派は、軍部に対抗できるの?」

「正面からのぶつかり合いとなれば、軍部が圧倒すると予想されます。議会派と貴族派の拠点の場所が異なりますので、おそらく各個に撃破されてしまうかと」

「となると、思いの外、早く状況は収まるかもしれないか」


 俺は頭を掻いた。


「ちょっかいを出してみるか……」

「ジン?」


 皆の視線が俺に向いた。


「軍部の戦力が勝っているなら、適度にそれを削ぎ落としてやれば、内輪揉めも長引かないかな?」


 戦力が拮抗きっこうするなら、状況は泥沼化する。大帝国さんにはたっぷり苦労してもらい、その間にスティグメ帝国軍にケリをつけてやろう。


「シャドウフリートを動かそう」


 最近出番がなかったが、大帝国戦域での作戦とあれば、影艦隊にお任せである。


「スフェラ、攻撃目標の選定を頼む。ケアルト元帥派の戦力を削る」

「承知いたしました」


 というところで、会議は閉幕となった。



  ・  ・  ・



 トキトモ領キャスリング基地。地下数百メートルの大空洞に作られた基地には、スティグメ帝国軍の兵器、その残骸ざんがいが運び込まれていた。

 エルフの技師ガエアは俺に報告した。


「先日、回収した大型の多脚兵器ですが、戦車というよりも移動できる格納庫というべきもののようです」


 メインの足は四本。さらにサブでさらに四本の足を展開可能だという。その箱形の胴体には艦艇搭載型の魔法砲を備え、腹には魔人機も搭載可能。


「陸の船か。まあ、足があるからそうは見えないが」


 俺は、艦艇用発着場の一角を占領している大型多脚兵器の残骸を見下ろす。


「よくもまあ、あの巨体で歩けるものだ」

「自立には魔力の補助が必要なようです。駐機ちゅうきする際はサブ足の展開が必須。これがないと立てません」


 エルフの女技師はデータパッドを見る。


「で、足まわりの各関節はボール型になっていまして、どういう仕組みか、内部のフレームと繋がっていないようです。おそらく魔力で接続、可動するものと考えられます」

「ほーん。中は繋がっていないけど、外はくっついているように見えるわけか。ボール型ってことは、可動範囲広そうだな」

「装甲のパーツが干渉するので言うほど範囲は広くないですね。歩行する分には問題はないようです」

「装甲か。かなり分厚そうだったもんな、こいつ」


 俺は、足の関節とやらの球形を睨む。


「やっぱ、攻撃する時は関節を狙うべきか?」

「いえ、稼働中は魔力シールドが張られていて、重量で機体を支えられないという事態を防いでいますから、たぶんここが一番頑丈なのではないかと」


 むしろ関節は狙うだけ無駄か。こういう重装甲の敵は、関節が弱点ってセオリーがあるんだがなぁ。


「なにぶん残骸ですから、再現できないものも多いです。この兵器を支える魔力を発生させる魔力ジェネレーターも、おそらく出力は高いと思われますが復元できそうにないですし」

「ゴーラト王国で巨人機を回収した」


 俺はガエアを見た。


「あれの手足を切り離して胴体はほぼ無傷で回収したから、解析の参考になるかもな」


 なおコクピットは巨人機のパイロットが脱出した際に壊していきやがった。自爆装置は搭載されていなかったのは不幸中の幸いか。


「しかし、あの巨人機の関節は案外脆かったんだけどな」

「どうやって破壊したんですか?」

「解体魔法で解体した」


 俺が答えると、ガエアは自身の顎に手を当てた。


「魔法だから脆かったのかも……。まだ見ていないので推測ですが、巨人機の関節もこの多脚兵器と同様の仕組みなら、魔力が通ることで支えているわけですから、その魔力の流れに作用した結果、あっさりこわれたのかも」

「なるほど、魔力ね……」


 意外な弱点が見つかったりして。

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