第1153話、高威力武器が使えない理由


 タイラント・ヘビーアタッカーで戦闘空母『ウィラート』に帰還した俺は、そこから戦艦『バルムンク』に戻った。まあ、転移すればすぐなんだけどね。

 艦橋につくと早速ゴーラト王都の様子を確認する。魔物領域では俺ひとりだから、こちらの戦力は損害なしで丸々温存できた。


「さて、大穴は塞いだが、残るはゴーラト王国王都に駐留するスティグメ帝国軍だな」


 増援は来れなくしたから、後は残っている敵を討てばいいのだが。


「巨人機って言うのか? でかいな」


 王都の中央で巨人のようにそびえるその巨大メカを遠巻きに眺める。


 太めだが周囲の建物よりも高く、手足の長い鋼鉄の巨人がポツンとそびえ立っている。


 すでにバルムンク艦隊は王都近辺に待機している。さらにヴァルキュリア級強襲巡洋艦から、王都に向けて上陸部隊を送り込んでいる。

 もちろん、ステルスで。


「だが、あの巨人機……普通の魔人機じゃ、ろくなダメージが与えられそうにないな」

「頑丈そうだもんね」


 アーリィーは頷いた。


「ジンは、アレと戦ったことがあるんだっけ?」

「アレより少し小さかったと思う」


 魔法文明時代の最後、吸血鬼率いる新生アポリト帝国が巨大な人型兵器を投入した。魔人機の数倍の大きさだが、かなり頑丈だった。

 パイロットはかつての仲間だった男で、少々トラウマではあるが……。


「解体の魔法でバラしたんだ。今度もそれでいけるかな?」


 その場合、俺がいかなきゃいけない。魔人機ごしに、敵機械を解体できる人材は、他にいないもんな。


「『バルムンク』のレールガンで吹っ飛ばせば――」

「確かに、それなら倒せると思うよ」


 アーリィーはいい顔をしなかった。


「でも、威力があり過ぎて人のいる都市では使えないよ」


 使えなくはない。犠牲を無視すれば。もちろん、そんなのは許容できないが。


 レールガンを巨人機に当てられれば一撃だろう。だが着弾の衝撃があり過ぎるので、間違いなく周囲を巻き込む。当然アウトだ。魔導放射砲もダメ。

 戦艦級のプラズマカノンなら……。でもそれはつまり、王都に向かって艦砲射撃するってことだしな。


「あるいはマギアブラスターなら……いや、直接乗り込んだほうが確実だな」

「やっぱり人命優先だよね」

「恨みは買いたくないしな」


 モニターを注視すると、戦術ボード脇にいて、上陸部隊をモニターしていたダークエルフのラスィアが振り返った。


「閣下、上陸した陸戦隊が王都の敵部隊と交戦を開始しました」

「始まったか」


 俺とアーリィーも戦術ボードに向かう。

 シェイプシフター兵とパワードスーツ『ウォリアー』が、王都内を進み、スティグメ帝国の吸血鬼兵と戦っている。

 剣や槍、魔弾投射型クロスボウで武装した吸血鬼兵に、ライトニングバレットライフル装備のシェイプシフターが銃撃戦を仕掛ける。


 全高2メートル半のパワードスーツが、専用魔法銃や切断用ブレードで敵兵や陣地に突撃しなぎ払う。

 ウィリディスのパワードスーツ『ヴィジランティ』に比べると、小さくスマートに見えるウォリアーは軽快な動きで市街地を駆ける。


 個々の戦闘では、大鬼オーガとも単独で戦えるというパワードスーツが圧倒的だ。屋外に限定すれば、魔人機より小さいのだが、市街地という建物や障害物が多い地形でも活動しやすい。

 魔人機に比べて小回りが利き、隠れやすいという利点もある。


 さすがに屋内ともなると入れない場所のほうが多いが、そこはシェイプシフター兵の出番である。


「どんな人型兵器があろうとも、結局は歩兵が必要なんだ」


 俺は呟いていた。

 王都のスティグメ帝国兵が、そこかしこでバルムンク艦隊陸戦隊と交戦を繰り広げる中、魔人機や大型の魔物も動き出した。

 だが、巨人機だけは、その場で立ち尽くしたまま。


「あの図体だからな。町中の歩兵を狩るのは不得意だろう」


 たとえばガンファルコンと合体したタイラント・ヘビーアタッカーだって、町に潜む敵兵『だけ』始末しろと言われても、威力過多で困ってしまう。


「障害物のない平地だったら話は変わるんだけどね」


 アーリィーが同意した。俺は口元をほころばせた。


「そうそう、周りを気にせず吹き飛ばしていいなら簡単だ」


 ラスィアが前線と通信でやりとりをしている。それに合わせて戦術ボードの敵味方の配置も動く。

 敵魔人機に対して、パワードスーツやシェイプシフター兵は携行するロケットランチャーを用いて、よく撃退していた。

 だがロケットランチャーの弾頭の数が少ないから、時間と共に火力不足になっていく。


「こちらも魔人機を展開する。戦闘機隊も制空戦闘を開始。ただし、巨人機には気をつけろ」


 アポリト本島で出てきた巨人機は、一撃でインスィー級戦艦を吹き飛ばせるだけの武器を搭載していた。

 こいつはその時のとは違うが、9900年も経った新型なら、それ以下ということはないだろう。


「ジン、ボクらも出るよ」


 アーリィーが艦橋エレベーターへと向く。


「ベルさんがいないんだし、あの巨人機を対処できるのはジンだけだと思うし」

「それはいいけど、君も行くのか?」

「援護くらいはさせてよ。それに魔物領域でジンはもう一戦やってるんだから、あまり無理もさせられない」

「ご配慮、痛み入る」


 うちの嫁は優しい。

 エレベーターで艦中央の格納庫区画へ下りる。

 戦艦『バルムンク』の中央、左右の張り出し部分に艦載機発進口とカタパルトがある。その両端まで艦載機格納庫となるので中は割と広い。


 その発進口ではトロヴァオン戦闘機が次々に発艦作業を行っている。これらは浮遊で格納庫内を移動、カタパルトを使わずに出て行くので、非常にスピーディーだ。

 俺とアーリィーは待機所でパイロットスーツにお着替え。……もちろん、更衣室は男女別々だよ。


 待機所を出ると、そこにはオリビア近衛隊長がいて、部下たちに声を張り上げた。


「トキトモ閣下とアーリィー様が出られる! 我々、ガードも出るぞ!」

「おおっ!」


 待機していた近衛隊員たちが、気合いの入った声を出した。

 さらに緑のパイロットスーツ姿のエルフたちもまた俺を待っていた。エルダーエルフのニムがヘルメットを小脇に抱えて、背筋を伸ばした。


「ご主人様、我々もお供いたします」


 ウィリディスに志願したエルフたちは、過去の白エルフの歴史のせいか、俺の近衛騎士団のように振る舞う。あの時代で俺の従者であるニムがそうなのだから余計にそう思える。


「巨人機はこっちで対応する。周りの雑魚は任せる」

「はっ! お任せください」


 エルフたちの士気はすこぶる高い。パイロットがそれぞれの機体へと走る中、俺はタイラントを収納から出すと、コクピットへ乗り込んだ。

 巨人機狩りといこう!

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