第1149話、巨人機対策の新兵器


 大陸西方に現れたスティグメ帝国軍。出現地点は魔物領域と呼ばれる人間の国がない辺り。

 しかし近くにはしっかり国があって、攻め滅ぼされてしまった。


「ゴーラト王国。すでに王都は吸血鬼軍に制圧されており、王国全土にその魔の手が伸びている」

「辺境国家群と同じだね」


 アーリィーがスフェラを見た。


「ゴーラト王国の王族とは接触できたの?」

『諜報員の報告では、国王を処刑され、王族ほか生き残った者は捕虜ほりょとされたとのことです。同様に、スティグメ帝国軍は人間狩りをして、捕虜を集めているようです』

「本格的に地下世界へさらっていくつもりなのかな……」


 アーリィーの言葉を受け、エルダーエルフのニムも口を開いた。


「吸血鬼どもの奴隷狩りですね」

「で、主よ。どうするのだ?」


 ディーシーが俺を見た。


「王族が指導者として機能していないというのなら、こちらで勝手にやらせてもらう。スティグメ帝国軍を撃破し、住民を極力助け、出現地帯を塞ぐ」


 外交問題だ、と文句をつけてくる者は、この状況ではゴーラト王国にはいない。邪魔者を片付けてやるから、復興は自分たちでどうぞ、である。


『現在、判明している敵の情報です』


 魔物領域を艦隊と多数の兵力が警戒している。ここだけでもかなりの規模だが、それとは別にゴーラト王国王都周辺にも敵が集まっている。

 シェイプシフター諜報部が集めた敵情の中には、巨人機と付けた大型の人型兵器が確認された。


「アポリト本島攻略戦の時にもいたな。大型人型兵器」


 異常に硬く、戦艦をも一撃で破壊する強力な武器も搭載されていた。俺にとっては、かつての仲間だったブルがゾンビ兵となって、そいつを動かしていたというのがショックだった。だから印象に残っている。

 かつては吸血鬼たちの新生アポリト帝国で使われていたから、その後継者と思われるスティグメ帝国にも巨人機があるのは、ある意味当然かもしれない。


「こいつのような敵に対抗するために、ディーツーはT-Aを作ったのだ」


 ディーシーが、スーパーロボットの名を出した。


「主、T-Aを持ってくるか? エルフの里にあったもう一体があるだろう?」


 ヴィル少年が動かしたT-Aは確か二号機だったな。エルフの里の地下で一号機が作られていたが……。


「あれは今ウィリディスにある」


 スーパーロボット系列の開発ラボを、ウィリディスとノイ・アーベントの第七研究所にて行っている。先日のノイ・アーベントの襲撃で、第七研究所にあった二号機はヴィル少年が動かした。


「T-Aの他に、新型のT-Bがロールアウトしている。それとこれらスーパーロボットを運用する母艦もね」

「新顔だね」


 アーリィーが楽しそうな顔になった。新しいものに関心が強いのだ、彼女は。

 俺は手元のコンソールパネルを弾き、ホログラフを表示させる。


「T-Bは機体バランスを見直した。基本武装はT-Aに近いが、ギガントアームの代わりに超甲剣を装備して、巨人機も一刀両断にできる」

「T-Aに比べるとスマートでいいね」


 アーリィーはそう評した。鋭角的で、騎士のようにも近未来的な戦闘スーツのようにも見えるフォルム。ずんぐりむっくりのT-Aと違い、頭身のバランスもよい。


「パイロットはいるのかい、ジン?」

「それが悩みどころ」


 俺は素直に肩をすくめた。


「タイラントと同様、ディーシーコアを積んだんだが、それで広範囲の攻撃魔法や地形操作もできるが、パイロットに相応の魔力と適性を求める仕様なんだよ」

「魔神機と同じく、パイロットを選ぶ?」

「量産性度外視のカスタム機だからね。誰でも使えるってわけじゃないさ」


 それなりの魔法のセンスとコアの能力を引き出す力が必要だ。魔神機よりは適性を求めないが、使いこなせるかは別問題である。


「今のところはベルさんか、俺が使うことになるかな」


 俺のタイラントとほぼ同等のことができるスーパーロボットである。


「でも、ジンはタイラントがあるし、ベルさんは自分の機体を作るっていうんでしょ?」


 先日の申し出により、ベルさんがここを離れている。自分のメカと艦隊を作るといって出張中だ。


「俺が使うかどうかは状況によるな。タイラントかT-Bか。どっちでもやれることは変わらないが、シードリアクターの有無が決め手になるんじゃないかな」


 魔力回復機能があるタイラントといえど、全部の装備を発動させながら動けば、魔力を消費する。

 一方のT-Bはシードリアクターからの無尽蔵の魔力供給により、フルで動かしても魔力切れの心配をする必要がまったくない。


 だが両機の機体サイズの差が2倍以上あるから、場所によっては制限される可能性もある。


「それで話を戻すが、こっちの艦がウィラート級戦闘空母だ。いわゆるスーパーロボットや大型特殊航空機などを運用するために作られた母艦だ」


 アーリィーとニムがホログラフを眺め、口を開いた。


「どこかで見たシルエットだね」

「アポリト帝国のコンカス級空母の船体に似てますね」

「うん。艦首から船体中央あたりまで、とても似ている。でも上部の甲板に戦艦の艦橋がついているし、側面にも主砲を積んでいるね」

「ご名答」


 俺は頷いた。


「世界樹遺跡から回収したアポリト軍空母を流用した」


 遺跡の艦艇は修理が必要なものも多かったから、ウィリディス軍で改装したわけだが、このウィラート級もそのひとつだ。


「大型機の運用を前提にしているから、艦載機の搭載数は少ない。だが元は正規空母だから格納庫は広い」


 なお、ベースであるコンカス級空母は、飛行甲板を二層持つ、二段式空母である。艦首から艦尾まで伸びる飛行甲板が一枚だが、艦の中央から後部にもう一段、飛行甲板を積んでおり、艦橋もそちらについている。

 元の世界で複数の飛行甲板を持つ空母と言うと、かつての日本海軍の『赤城』『加賀』が有名だった。


 ただ、史実では飛行甲板を使って発艦や着艦を行う際、短い甲板では十分な距離を稼げず、廃れてしまっている。案外、同時使用ができず不便だった、という理由もあるが。

 俺たちウィリディス軍やアポリト帝国の航空機は、浮遊発艦や浮遊着艦ができるから、飛行甲板が短くても運用できる。

 だから元の世界ではアウトだったそれも、この世界ではさほど支障がなかったのである。


 もっとも、このウィラート級戦闘空母に関しては、上段の飛行甲板の一部に戦艦式の艦橋を設置し、通信、索敵能力を強化。艦載機搭載数を敢えて減らしたが。

 閑話休題。


「スーパーロボットは載せていないが、特殊航空機のほうはすでに積み込んでいたはずだから、こっちへ呼んでもいいかもしれないな。――通信士、アリエス軍港に打電。『ウィラート』をこちらに合流させろ」

『了解』


 シェイプシフター通信士が、さっそく職務をこなす。

 さて――俺は戦略ボードを見下ろす。


「せっかくだし、新兵器を試すとしようかね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る