第1146話、強国、激突


 シェード遊撃隊が対峙したのは、スティグメ帝国第10艦隊だった。


「敵増援!」


 十二騎士第十将ガウルは、二本のねじれ角を側頭部にはやした悪魔に似た吸血鬼だった。


「閣下、敵は旧アポリトの魔神機を使用! 風の魔神機セア・エーアール!」

「迎撃急げ! 前線の魔人機を呼び戻せ。オレも出る!」


『ははっ、おせーよ!』


 拡声魔法か。目の前に緑の魔神機セア・エーアールが艦橋に肉薄していた。ソニックブレードがパライナ級戦艦の艦橋を真っ二つに引き裂いた。


『まずは頭を潰す!』


 セア・エーアール――グレーニャ・エルは不敵に笑った。

 超高速で敵艦隊に切り込み、直掩の目も振り切って旗艦を潰す。疾風迅雷。風の魔神機は伊達ではない。


 遅まきながら吸血鬼軍の魔人機が向かってくる。セア・エーアールはエア・カッターを射出して迎撃しつつ、自身もソニックブレードでヴァンピールやデビルナイトを切り裂いた。


『止まってみえるぞ、雑魚ども!』


 縦横無尽に飛び回り、帝国艦隊の中で暴れ回る風の魔神機。アポリト魔法文明の遺産は、旧文明の後継であるスティグメ帝国に牙を剥く。

 セア・エーアールが引っかき回している頃、シェード遊撃隊の3隻の戦艦が敵艦隊を射程に捉えた。


 旗艦の司令官席に座るシェード将軍は指示を飛ばす。


「前方の防御障壁を強化。それ以外は削っても構わない」

「側面、後部の守りが弱くなりますが、よろしいのですか?」


 オノール参謀長が小声で確認する。シェードは窓から見える敵艦隊をにらむ。


「これまでの戦闘による断片的な情報をつなぎ合わせると、敵戦艦はこちらの性能を上回っている。手順どおりのやり方ではやられるのはこちらだ」


 敵戦艦の装備する主砲は、大帝国主力戦艦であるインスィー級の30センチ砲を遥かに凌駕している。まともな砲撃戦などしようものなら、返り討ちにされてしまうだろう。

 障壁の防御力を高めて、対抗するしかない。


『射撃、用ー意よし!』

「射撃開始!」


 号令がかかり、シェード遊撃隊の戦艦3隻は砲撃を開始した。


「敵魔人機、急速に近づく!」

「コルセア中隊に艦隊直掩を命令。防空は任せた!」


 戦艦の周りを飛行するは、リダラ・グリーヴ。大帝国が独自に改造、製作したリダラタイプ魔人機だ。

 飛行能力が強化され、背中の飛行ユニットも大型化されている。その名の語源でもあるグリフォンのように力強い。

 そしてそれを操るコルセア中隊は、腕利きを集めた精鋭である。


 直掩隊は艦隊に接近する敵魔人機に突進する。双方、防御障壁を備えていて、飛び道具はあまり有効ではない。だから近接しての空中格闘戦となるのだ。

 一方、地上に降下したセア・ゲーや魔人機部隊も、敵陸上部隊と交戦を開始した。

 セア・ゲーの岩石の散弾が地上のスティグメ帝国軍を潰す。その恐るべき猛撃は地形が変わるほど激烈であり、防御も関係なく質量と連打によって粉砕していった。


 脇を固める魔人機隊も混乱する敵部隊を狩っていく。

 数の上ではシェード遊撃隊のほうが少ない。しかし、魔神機を中心とした打撃力により、戦線をディグラートル大帝国側に傾けつつあった。



  ・  ・  ・



 ところ変わって大帝国本国、東部戦線。

 侵攻するスティグメ帝国軍の猛攻により、大帝国軍は後退を強いられていた。


 戦線を守る部隊は、魔人機と巨大ワームなど大型魔獣に殲滅せんめつされ、各地の集落はゾンビウォリアーと呼ばれる下級吸血鬼らによって次々に攻め滅ぼされていった。

 これに対し、大帝国側も本国艦隊や各方面より部隊を結集して一大反撃を決行した。


 数で勝るが兵器の性能で劣る大帝国と、高い技術と兵器を持つスティグメ帝国は激しくぶつかり、双方戦力を消耗しながら、なお続いた。

 そんな中、スティグメ帝国の一部隊が戦線を大きく迂回うかい。大帝国東部戦線の後方拠点を襲撃した。


 燃えさかるはボルコスの町。スティグメ帝国の襲撃部隊は住民もお構いなしに攻撃を仕掛けた。陸戦魔人機ドゥエル・ペンテが建物を破壊し、逃げる民間人を構わず炎で焼き払う。

 迎え撃つ守備隊の大帝国製ドゥエル・ヴァッフェも、瞬く間に蹴散らされてしまう。


「ふあっはー! いいねェ、どんどん燃やしちゃおうぜェ」


 鬼神機ディディモスを操る十二騎士第三将ジェモーは、歓喜した。

 下等な地上人を、まるで虫を潰すがごとく蹂躙じゅうりんする。楽しくてしょうがなかった。


「お前ら! 景気よくいけェー!」


 部下たちのドゥエル・ペンテが金棒や火炎放射器で町を壊して回る。弱い生き物を一方的に攻撃する。吸血鬼たちに慈悲はなかった。


『ジェモー様! 敵の増援です!』

「来やがったか!」


 報告を受けてジェモーは舌舐めずりをした。


「どうやってぶち倒したら、地上人どもは戦意を喪失するかねぇ……」

『むっ、あれは――魔神――』


 通信がプツっと途切れた。続いて別の部下だろう悲鳴が聞こえた。


「どうした!?」

『ジェモー様、敵は魔神機です!』

「はあ? 魔神機だとぉ?」

『大帝国の領土に攻め込んだ魔の者どもよ!』


 外部スピーカーが聞いたことのない声を拾った。見れば魔神機――鎧武者を模した機体が、大型の両手剣でスティグメ帝国機を一刀両断した。


『我がドゥエル・シュヴェーアトが成敗してくれる!』


 ――へぇ、ドゥエル・シュヴェーアト。


 ジェモーは相好そうごうくずした。昔、軍の学校で資料を見たことがあった。アポリトの十二騎士、それに与えられる専用魔神機の存在。


「おんやぁ~、何かと思えば、大昔の骨董こっとう品でないの。まだ動いてたぁ?」


 たっぷりと挑発を飛ばすジェモー。


「おら、お前ら、そのポンコツをスクラップにしてやんな!」


 ドゥエル・ペンテが斧や槍を手にシュヴェーアトに迫る。向こうは1機。こちらは複数。数で押せば――


『ふんっ! 大太刀・旋風!』


 シュヴェーアトが大剣の一振り。それは接近するペンテ部隊をまとめて両断した。


『敵の指揮官機ィッ!』


 ドゥエル・シュヴェーアトが、ディディモスに加速した。ジェモーはニヤリと笑った。

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