第1144話、吸血鬼たち


 ジルド王国の王都住民は廃墟はいきょになった王都の一角、とある建物の中にいた。……いたのだが――


「全員、昏睡こんすい状態?」

『はい、薬物が投与されているようです』


 発見したシェイプシフター陸戦隊員からの報告によると、ひとり残らず深い眠りに陥っているらしい。


「スティグメ帝国の連中は、現地民をどうするつもりだったんだ?」

「眠らせたということは……逃げられないようにするため?」


 アーリィーが首をかしげた。


「確かに眠っているなら逃げないよな」


 俺は考える。


「だが、吸血鬼どもが人間を殺さずに眠らせている理由は?」

「血を吸うため? 吸血鬼だし」

「保存用の食料ってか」


 なるほど、そういう考えもあるのか。そこへディーシーが口を開いた。


「スティグメ帝国の吸血鬼がアポリト文明時代の生き残りであるなら、魔力狙いかもしれないな。もちろん血を吸うが、魔力摂取の面が強いらしい」

「どっちにしろ、人間を食い物にするってことだろうな」


 俺は嘆息した。


「とりあえず、昏睡状態の住民たちをさらに調べよう。自然に目覚めるのであればそれでいいが、処置をしないと目覚めないのなら放っておくと死なせてしまうからね」


 それはさすがに寝覚めが悪い。


「しかしそうなると、連中は地上の人間を連れ去っているかもしれないってことになるのか」


 そこへエルダーエルフのニム、ダークエルフのラスィアがやってきた。


「あー、ニム、ちょうどいいところにきた。ちょっと話を聞いてくれ」


 俺はニムに昏睡状態の住民たちと、吸血鬼たちの行動について相談した。彼女は無表情のまま答えた。


「アポリト時代での敵でしたら、誘拐された人間は吸血鬼の雑兵として使役されるパターンが大半かと」

「誘拐!?」


 アーリィーが眉間みけんにしわを寄せた。俺も口の中で苦いものがこみ上げた。

 アポリト最終決戦の時、かつての部下だったブルが敵巨人機のパイロットにさせられていたのを思い出した。胸くそ悪い……。


「――もちろん、吸血による汚染で死体となった者をゾンビ兵として使っていたという話ですが」


 ニムが付け加えた。ラスィアが難しい顔になる。


「以前、ディグラートル大帝国がダークエルフ狩りをした時、我らの脳を機械の部品にしようとしていましたが、スティグメ帝国にもその可能性は?」

「ふむ……吸血鬼は我らを下等なものとして見ている。利用できるとあれば、そういう外道な行為も平然とするだろうな」


 何にせよ、俺たち人間にとっては不快な理由に違いないだろうな。


『ジン』


 突然の魔力念話が俺の頭の中に響いた。すかさず返事。


『どうしたんだ、ベルさん?』

『しくじった。艦内に吸血鬼を入れちまった、すまん』

『は!? 敵が侵入しただって!?』

『ああ、例の鬼神機のパイロットだったようだ。オレのブラックナイトⅢの尻尾にくっついてやがったようだ』


 ベルさんが報告する。俺はディーシーに合図した。


「艦内全体をスキャン」


 バルムンクコアはそうした反応をしなかった。ここはダンジョンコアであるディーシーのテリトリーサーチを使う。


『ベルさん、それで敵は――』

『ああ、とりあえず侵入してきた野郎は完全に消滅させたから安心しろ』

『そうか……』

『だが、侵入されたってことだけは知らせておこうと思ってな』

『よく気づいたね』

『何だか変な違和感はあったんだよ。そうしたら敵さんがオレに噛みついてきやがったのさ』

『噛まれた? 大丈夫なのか!?』


 上級吸血鬼に首もとを噛まれると、あっという間に吸血鬼の仲間にされてしまう。


『オレを誰だと思ってるんだ? そんな攻撃に当たりゃせんさ。ちりも残さず吹き飛ばしてやったよ。さすがにもう復活はできんだろうよ』

『そういえば上級の吸血鬼は、魔力的エネルギーの存在だから姿形を自在に変えられるって聞いたな』

『だな、普通に刺したり切ったりした程度じゃ死なんってことだ。だから欠片も残さず消滅させないと殺せねえ』

『上級を相手にする時は気をつけないとな』


 下級の吸血鬼はゾンビのようなものなので、こちらは物理で殺せる。……すでに死体なのに殺せるとはこれいかに。


「主、艦内をスキャンしたが異常はなしだ」


 ディーシーが自分のコンソールから結果をしらせた。


「ありがとう」


 ベルさんが始末した奴だけだったか。しかし、今後はもっと警戒しないといけないな。きっちり対策を立てないとヤバイ。

 敵がこっそり潜入していて、母港で破壊工作など仕掛けてくるなんて可能性もあるわけだし。


「ジン、何かあったの?」


 アーリィーが俺の一連の言動について聞いてきた。バルムンク艦内に上級吸血鬼が潜入しかけたが、ベルさんが片付けたことを伝えておく。

 敵の侵入と聞いて、アーリィーも他の者たちも驚いた。

 やはり一筋縄ではいかないな、スティグメ帝国と吸血鬼は。



  ・  ・  ・



 その後、偵察機がアンノウン・リージョンを発見した。

 闇の領域の周りには魔獣と警備と思われるスティグメ帝国製魔人機が複数、確認された。


 これ以上、増援がやってこられても面倒なのでさっそく移動。

 今日は連戦だったし、ベルさんの場合、機体も大破させていたから、俺が直属の中隊を率いてタイラントで出撃した。

 ぶっちゃけ、守備する敵は俺が出張るまでもなかったんだけどね。マギアライフルを撃ち、ビットを飛ばし、ソードで斬る。その程度であっさり駆逐できた。


 が、出張ってきた最大の理由はこのアンノウン・リージョンの封鎖である。


「ディーシー、頼む」

『任せろ。ダンジョン・テリトリー展開。アンノウン・リージョン内、地下侵入口を地形改変で潰す』


 数百メートル規模の穴がモゾモゾと中央へと動き出して小さくなっていく。


「凄まじいな。穴が埋まっていく光景ってのは」


 本来ならあり得ないし、普通に埋め立ても不可能な大きさと深さだ。たとえるなら、湖を埋め立てるようなものである。

 ダンジョンコアによる地形操作は不可能を可能にしてしまう。


「この分なら、あと十分くらいかな?」

『いいや、まだ時間が掛かるよ』


 コア姿のディーシーは言った。


『地表は埋まるが、穴深くまで埋める必要があるからな』


 薄いと破壊されてしまう。そう簡単に掘れないくらいの厚さともなると、相応に時間が掛かるのだ。

 だが、それで敵を封じ込められるなら、やる価値はあった。

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