第1143話、王都、解放


『地上戦は、我が方に優勢』


 俺は戦艦バルムンクの艦橋にいて、王都上空の敵の全滅を確認した。

 では、下に降ろした連中はどうなったのか。それに対する答えが先ほどの優勢という報告だった。

 ディーシーがモニターを見やる。


「敵の魔人機は撃破されたな。ベルさんが、鬼神機とやらと交戦しているが……。これもまた時間の問題だろう」

「ベルさんは手こずっているのかい?」


 俺もモニターで、その様子をながめる。

 天秤てんびんもどきとブラックナイトⅢが激突している。


「最初は敵の弾幕に押されていたのだがな」


 ディーシーがかいつまんで説明した。


「攻撃自体は装甲で受け止められる程度。そしてベルさんの機体は、独自の再生魔法で少々の被弾をものともしない。反撃に出てしまえば呆気ないものさ」


 ベルさんのブラックナイトⅢが、敵鬼神機のワイヤーアームをブレードで切断している。


「敵が案山子かかしに見えてきた」



  ・  ・  ・



『おのれおのれ! 地上人ごときが!』

『ずいぶん余裕がなくなっちまったようだなぁ、ジュゴンさんよぉ!』


 ブラックナイトⅢがブレードからの蹴りで、鬼神機ジュゴンの胴に一発入れる。


『ぐぬっ!?』

『くたばりな!』


 追い打ちに再度肉薄するブラックナイトⅢ。だが――


『馬鹿め! 運命の天秤!』


 ヴィスィーの操る鬼神機ジュゴンの腕が傾いた。寸前まで迫っていたブラックナイトⅢが突然、前進を止められた。


『なにっ!?』

『食らえぇ! ギガントプレスぅ!!』


 ブラックナイトⅢの頭上に分銅ふんどう型の鉄塊が降ってきた。それは回避の間もなく、ブラックナイトⅢに落ち、その機体を押し潰した。

 大地に立つ鉄塊に隙間すきまはなく、機械だろうとペシャンコになってしまったようだった。


『はっはー! 我がジュゴンを侮りましたねェ! この機体は、ダメージを受けるほど必殺のギガントプレスの威力が上がるんですよっ!』


 ヴィスィーは高笑いを響かせる。


『追い詰めたつもりだったのでしょうが、残念でしたねェ! ……ムッ?』


 鉄塊が動いた。持ち上がるはずのない超重量の鉄塊がどかされた。潰れたはずのスクラップが、元の魔人機の形に再生していく。


『ああ、ほんと、やってくれたよなぁ』

『ばっ、馬鹿な!? あり得ない! 潰れたはずー!』


 ヴィスィーは愕然がくぜんとした。目の前でブラックナイトⅢが何事もなかったかのように立っているのだ。

 そして次の瞬間、ブラックナイトⅢの尻尾にあたる部位が伸びて、ジュゴンの胴体を貫いた。


『本当、おかげで機械は全部おしゃかだ』


 ブラックナイトⅢの姿をしたそれは言った。


『結構、気に入ってたんだがな。もう生体部品しか残ってねえよ』


 コクピットを貫かれたジュゴンが落下し、動かなくなった。パイロットを失い、鬼神機がものいわぬ残骸と化す。


『新しく作り直さないといけねえなぁ、こいつは』

『――あー、ベルさん、無事かい?』


 魔力念話でジンが呼びかけてきた。


『ああ、鬼神機とやらは撃破した』

『お疲れさん。敵の機械兵器はそれで全部片付けた。シェイプシフター陸戦隊が、敵兵の掃討に掛かっている。ベルさんは帰投してくれ』

『ブラックナイト、了解』


 頭上に戦艦バルムンクが差し掛かり、影が廃墟はいきょ同然の町に伸びる。ブラックナイトⅢだったものは飛び上がり、バルムンクの格納庫へと着艦した。

 なお、その姿を目撃した者たちの証言によれば、その機体はロボット兵器ではなく、まるで生き物のようだったという。



  ・  ・  ・



 王都でのスティグメ帝国兵の掃討は、ヴァルキュリア級強襲巡洋艦から降下したシェイプシフター陸戦隊により順調に進められた。

 魔人機や巨大生物が、魔人機中隊によって殲滅せんめつされたとあっては、吸血鬼兵は逃げるしかなかったのだ。


 戦艦バルムンクの艦橋にて、俺はディーシーと敵がどこからやってきたのか検討中。


「おそらく、トキトモ領のアンノウン・リージョンと同じように地下世界の入り口があるだろうな」


 敵の逃走方向から、現在、偵察機を出して捜索中だ。


「仮にあったとして……いや、あるのは間違いないだろうが――」


 ディーシーは戦域地図を見下ろした。


「ヴェリラルド王国より遠く離れた土地だ。艦隊を置いて見張るつもりか、主よ」

「これ以上、戦力を分散させるのは得策とは言えない」


 俺は否定した。


「すでにセイスシルワに第七艦隊を分派している。いくらポータルですぐとはいえ、これ以上手を広げるのはまずい」


 あれもこれもと欲張って、結局すべてを失うなんてことも世の中にある。


「じゃあ、どうするの?」

「お帰り、アーリィー。お疲れ」


 リダラ・バーンで出撃していたアーリィーがやってきた。そのパイロットスーツ、格好いいね。


「無事で何より」


 軽くハグを交わせば、かすかに汗のにおい。スティグメ帝国と戦った勇敢ゆうかんなる嫁さん。

 それはさておき、戦域地図へと俺は視線を戻す。


「地下世界の入り口があれば、ふさいでしまおうと思っている」

「ふさぐ?」

「そう。ディーシーの力を使ってね」

「なるほど、理解した主よ」


 ディーシーは頷いた。


「ダンジョンコアの力で地形を操作して、穴を埋めてしまおうというのだな」

「戦艦クラスが通行可能な穴だろうが、ダンジョンコアの能力ならやれるだろう」


 逆に普通の方法で埋め立てなど不可能だろう。仮に艦砲射撃を受けても破壊できないように分厚く、強固な天井にするのなら、なおのことだ。


「いっそ、トキトモ領のアンノウン・リージョンも埋めちゃう?」

「どうしようかな。諜報ちょうほう部の偵察情報次第では、考えるかも」


 スティグメ帝国の攻略方法が定まるまでは、アクセスできる場所は残しておかないといけない。


「でも、そうだな。全部入り口をふさいでしまうというのもありかもしれない」


 俺がそう言った時、シェイプシフター通信士が振り返った。


『閣下、地上の陸戦隊より入電。敵の捕虜ほりょになっていたジルド王国民を発見。その数、千人を超えているとのこと』


 やれやれ、捕虜収容キャンプでもあったのかな? 面倒な予感がする。

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