第1142話、旧王都攻防戦


 戦艦バルムンクは、王都上空の敵艦隊へ接近を試みる。

 スティグメ帝国艦艇は、クルーザー以下、フリゲートばかりで戦艦の姿はなし。バルムンクと正面から撃ち合う相手としては格下である。

 一応、ヴォーテクス級ステルス巡洋艦などを潜ませているが、出番はなさそうだ。


 戦艦バルムンクの左右の格納庫から可変機ドラグーンが戦闘機形態で発進。さらにトロヴァオン戦闘攻撃機も続き、計24機がジルド王国王都の空を飛ぶ。


『敵機、接近!』


 スティグメ帝国の航空機、スカルヘッドが敵艦隊から飛来する。さらに地上からコウモリ型のブラックバット戦闘攻撃機が上がってくる。


『トロヴァオン中隊、エンゲージ!』


 ミサイルに続き、プラズマ弾と電撃弾が交差する。航空戦が展開され、不運な機体が石つぶてのように墜落していく。

 その間に、魔人機隊の発進となる。


 先鋒はベルさん率いるブラックナイト中隊。さらにアーリィー率いる近衛魔人機中隊『ホワイトナイト』が順次カタパルトで射出された。

 王都に降下する両魔人機中隊。アーリィーは魔神機リダラ・バーン、近衛パイロットたちは、新型魔人機のレアヴロードを駆っている。


『気をつけて。敵はもう来ているよ!』


 リダラ・バーンはホーリーブレードを構え、向かってきた敵魔人機ヴァンピールを刹那せつなのうちに切り捨てる。


『遅いよ! そんな動きで!』

『申し訳ありません、アーリィー様!』


 レアヴロード――オリビア隊長の声。アーリィーは苦笑する。


『違う、違う。敵に言ったの!』


 騎兵槍状の武器を手に、敵魔人機が迫る。レアヴロードは盾を構えつつ、ブレードを手に敵の近接戦に備える。

 巨大な人型兵器ながら、さながら甲冑をまとった騎士同士が戦っているように見える。

 さて、その間に、俺の指揮する戦艦バルムンクは、敵艦隊を捉えていた。


「一番、二番主砲、敵クルーザーに照準!」


 唯一の帝国クルーザーに指向する。やっぱり、クジラに艦上構造物や武器がついているように見えるんだよなぁ……。


『照準よし!』

「撃て!」


 45.7センチ三連装プラズマカノンが、青い光弾を放った。6本の光は、敵クルーザーのシールドを容易く貫通。その艦体をえぐり、機関を破壊した。

 紅蓮の火球が花開き、その破片が飛び散った。


『敵クルーザー、轟沈!』

「ようし、砲塔個別射撃! 蹴散けちらすぞ!」


 バルムンクは高速で飛行しながら、敵部隊へ矢のように肉薄にくはくした。



  ・  ・  ・

 


 スカルヘッドの電撃が空を焦がす。旋回して回避するトロヴァオン。

 ドラグーンのプラズマ砲弾が、ブラックバットをはちの巣にして撃破する。熾烈しれつなドッグファイト。


 一方、地上ではブラックナイトⅢが巨大ワームを両断し、王都中央広場へなだれ込む。バリケードごと、敵兵をなぎ倒した黒き魔人機の前には天秤てんびんもどき。


『あなた方ですか。我らが帝国に刃向かう不届き者は』


 天秤もどきから、トーンの高い男の声が響いた。


『ふん、地下で眠っていれば、やられずに済んだのにな』


 魔王の駆るブラックナイトⅢが大剣を向ける。


『お前らには、地の底がお似合いだぜ』

『ほほっ、口は達者なようですねぇ、野蛮人が!』

『五けたも生きられないガキがほざくんじゃねえぞ、半端者が』

『言いますねぇ。――よろしい。十二騎士第七将、審判のヴィスィー。鬼神機ジュゴンがお相手いたしましょう!』


 鬼神機――ジュゴンが、ふわりと浮かび上がる。腕に相当する部分からぶら下がるようなワイヤーの先から光線が放たれる。

 ブラックナイトⅢは後退して、攻撃をかわす。


 ジュゴンのワイヤーアームは六本。そこから炎や雷、光線と異なる攻撃を繰り出す。ブラックナイトⅢは両肩のシールドを前に出して、それらを防ぐ。


『違う弾速で連続攻撃か。回避するのがめんどくさそうだな!』

『では、もっと面倒にして差し上げましょう!』


 ジュゴンのワイヤーアームがさらに二本増えた。それを伸ばし、ワイヤーの先についたディスクを高速回転させる。さながら電動ノコギリのように。


『なめんな!』


 ブラックナイトⅢの両肩のシールドが、猛回転するディスクを弾く。だがジュゴンは同時に八つの攻撃を繰り出し、反撃の間を与えない。


『ふふふ、攻撃できませんね? それでは私に勝てませんよ!』

『それは、どうかな!?』


 両肩シールドを少し開くブラックナイトⅢ。その隙間すきまから、マギアブラスターを斉射。ヴィスィーは目を見開き、とっさにジュゴンを上方へ飛び上がらせた。


『ほほぅ、やりますねぇ!』



  ・  ・  ・



 王都の地面をぶちぬいて巨大ワームが飛び出す。

 生身だったなら、途方もないサイズに逃げることしかできないだろう。


「でも、魔神機なら!」


 アーリィーのリダラ・バーンはホーリーブレードを振りかざし、ワームの胴体を両断する。

 魔神機と比べてもワームのほうが全長が長く、サイズ差はあるが、やってやれないことはない。


「オリビア、そっちはどう?」

『はい、アーリィー様。町にいる敵は北側へ追い詰めつつあります!』


 オリビア隊長の近衛魔人機中隊は、敵を掃討しつつあった。

 近衛の機体は最近配備が開始されたレアヴロードも加わり、少々慣熟かんじゅくに問題があるかと思われた。だが従来どおり、グラディエーター近衛仕様も使われていて、そのあたり上手くカバーしていた。


 そもそも、レアヴロードは魔人機同様、防御障壁を搭載しているので、少々の被弾も致命傷にはならなかった。

 だが防御障壁の存在は敵の魔人機にも言えることであり、障壁貫通弾を使用しているものの、近接戦となるケースがとても多かった。


「それは、ここが市街地だからってこともあるけど」


 都市は障害物が多いのだ。


『アーリィー様!』

「見えてる!」


 敵魔人機ヴァンピールがブレードで飛び掛かってきた。飛行能力を持っている敵機は、建物に当たらないようスレスレを飛んでくる!


「甘い!」


 シールドバッシュ! リダラ・バーンの小盾体当たりからの斬撃ざんげき! ホーリーブレードがヴァンピールを左右に真っ二つにした。

 市街戦は続く。

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