第1141話、逆電撃戦


 スティグメ帝国の辺境国家群占領軍は、ジルド王国とカルブ国に展開している。

 まだ序の口で、これからさらに周辺国を攻撃しようという段階である。だが俺たちウィリディス軍バルムンク艦隊は敵空中艦隊を撃破し、それ以上の侵攻に『待った』をかけた。


「敵地上兵力を掃討そうとうする」


 その方針に従い、俺はスティグメ帝国の占領軍がいる集落へ部隊を派遣した。


「中隊を下ろす必要があるか……?」


 敵は破竹の勢いで進撃していた。魔人機や機械兵器を用いれば、小集落などあっという間に制圧できる。

 その結果、村などに存在する敵部隊が、小隊程度と非常に少数だった。

 ベルさん曰く。


「そりゃあ、二、三機程度置いてけば勝てるってんなら、部隊を小分けにしても、ドンドン先を目指すわな」

「同程度の兵器を持っている俺たちからしたら、各個撃破してくださいって言ってるようなものだな」


 俺は苦笑する。ベルさんもニヤリとした。


「食事は少しずつですが、フルコースでお楽しみくださいってか」

「出されたものは残さず食す主義なんだがね」

「奇遇だな。オレもだ」


 と言うよりも――ベルさんは舌を出した。


「もっと量もよこせ、とオレは思ってる」

「さすが、暴食魔王」


 そうこうしているうちに、戦艦バルムンクから魔人機小隊が二個、地上の集落へと降下した。


 敵は悪魔騎士型魔人機が三機。あとは、雑兵が二、三十程度といったところだ。


「ヴァルキュリア級が合流してから本格掃討をやるつもりだったけど、今の戦力でもやれそうだな」


 連合国に置いてきた強襲きょうしゅう揚陸ようりく巡洋艦二隻が来てからが本番と思っていたのだが。


「ここまで少数だと、ヴァルキュリア級が合流した後も分散して掃除したほうがよさそうだな」


 強襲巡洋艦であるヴァルキュリア級には、魔人機のほか、パワードスーツを運用する陸戦隊が乗り込んでいる。

 結局のところ、魔人機などを排除はいじょしても、歩兵がいなければ集落を制圧はできない。こちらも敵を叩き出すために、歩兵戦力の投入は不可欠なのだ。


「でも――」


 アーリィーがやってきた。


奪回だっかいする集落の数が、ちょっと多いよね」

「仕方ない。少数で制圧できるからって、敵さんはドンドン広がっていったからな」

「奪回するのは簡単だが、手間が掛かるってやつだな」


 ベルさんが皮肉げに言った。


「ただ、セイスシルワの時みてぇに、鬼神機ってやつが出るかもしれねえ」

「あれは別格だな」


 サキリスの魔神機と互角以上に渡り合った強敵だった。スティグメ帝国の十二騎士。おそらく数はそれほどではないだろうが、手強い機体があるのは間違いない。


「ま、そいつはオレが相手してやるよ」


 不敵に笑うベルさん。多少、歯ごたえのある敵がほしいのだろうな。

 俺は手元のコンソールをいじる。偵察情報によると――


「鬼神機かはわからんが、奇妙な機体がジルド王国の王都だった場所で確認されている」

「へえ、どんな機体だ」

「まあ、見てくれ」


 俺は戦術モニターに、観測ポッドの映像を表示する。ベルさんは眉をひそめた。


「なんだこりゃ」

「人型じゃないね」


 アーリィーは顎に手を当て、考える。


「頭はあるけど、足はないし、手? 変な形をしているね。これはまるで……」

「まるで?」

天秤てんびんみたい」

「天秤……天秤かぁ」


 ベルさんが頷いた。


「見える見える。頭があって浮いていることを除けば、天秤だ」


 しかし、と黒猫姿の魔王様は首をひねった。


「何か、弱そうだな」

「見た目は、ユーモラスだが油断はしないほうがいいと思うぞ」


 俺自身、この天秤もどきがどんな性能なのか知らない。


「ただ、スティグメ帝国の兵器だ。少なくとも魔神機を除けば、大帝国の兵器より上だろうな。あー、そうそう、言い忘れていたけど」


 俺はモニターを操作する。比較対象用に、一般的魔人機を並べる。


「この天秤もどき、普通の魔人機よりでかいから」

「……」


 高さは1.5倍くらい。地上より浮遊しているので、対峙したら2倍くらいの差を感じるだろうな。



  ・  ・  ・



 バルムンク艦隊の敵地上部隊の撃破、集落解放は順調に進んだ。

 あぁ、解放と言ったが、こちらは部隊を駐留ちゅうりゅうさせたりはしなかった。


 あくまで、スティグメ帝国の戦力撃破を目的にしている。現地住民は大変ではあるが、ここを俺たちが占領するでも支配するわけでもない。あまり深入りすると地元勢力と面倒なことになるだろうから、無視させていただく。

 そうした足止めをしない分、こちらの移動と敵部隊の撃破は電撃戦もかくやのスピードで進んだ。


 セイスシルワから引き継ぎを終えてきたヴァルキュリア級強襲巡洋艦二隻が加わった後は、もう今日中に全部取り返すぞ的なノリで快進撃だった。

 搭載する陸上部隊も、ベルさんの隊、サキリス隊、ニム隊、オリビア隊をローテーションを組んで出撃したので、全体の出撃回数は多いものの、パイロットたちを酷使することはなかった。


 かくて、俺たちは旧ジルド王国王都に到達した。

 辺境国家と言うとどうしても未開なイメージがあるが、きっちりとした城壁に囲まれつつも、巨大な都市がそこにあった。

 もっとも、スティグメ帝国の侵略で、栄華を誇っていただろう都市はかなり損壊が見られたが。


「さすが王都だ。これまでとは数が違うようだ」


 例の天秤もどきを含めて、30機ほどの魔人機。さらに歩兵がそれなりにいて、巨大ワームも何体か確認できた。

 空中にはクルーザーとフリゲート、さらに輸送船らしきものの姿もある。


「航空隊、発艦! 制空権を確保せよ。地上部隊、順次発進!」


 俺は艦長席から王都と敵の様子を見やる。


「さあ、やっけよう」

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