第1140話、レールガンを撃ってみた


『フレスベルグより入電。敵戦艦、轟沈ごうちんせり!』


 通信席のシェイプシフター兵が報告した。俺は艦長席で頷く。


「いいね。『バルムンク』のレールガン」


 超戦艦バルムンクの船体中央より左右に張り出した部分。その先端には艦側面を守る盾状の構造物があるが、その裏には、砲弾を超加速させて標的をぶち抜く強力なレールガンが装備されていた。

 このレールガン、いわゆる電磁加速砲と呼ばれる兵器で、砲弾を光速近くまで加速させる。


 本来は膨大な電力を瞬間的に流し込むことによって撃ち出す代物だが、『バルムンク』は無尽蔵な魔力を生み出すシード・リアクターを用いた魔力式レールガンである。

 ぶっちゃけると、このシード・リアクターがなければ、戦艦クラスの敵を一撃撃破できるような威力のレールガンを作ることはできなかった。


 通常の魔力動力では、一発撃つにしても全部の魔力を使っても足りないという有様だ。

 またこの威力と引き換えに砲身であるレールや砲弾にも凄まじい耐久性が求められるが、これはバァイナ金属とDW材の複合合金を用いることでクリアした。……またまたぶっちゃけると、費用対効果はどうなの?ではあるが。


 これら規模の大きくなる兵器は、戦車や航空機への搭載は不可能。地上の砲台とするには、ますます使い勝手が悪い。

 しかし、それを戦艦に搭載し、さらにポータルによる砲弾を転移させるやり方で運用した場合、絶大な威力を発揮した。


「もう戦艦を3隻も沈めてしまったね」


 アーリィーが感心を露わにする。


「俺としては、ステルス偵察機であるレイヴンを作ったのは、このレールガンを使ったポータル射撃のためと言っても過言じゃない」


 ほぼ光速に近い速度で撃ち込まれる砲弾は、狙われたら回避不可能。


「ただし、ポータルで砲弾を転移させる手前、狙いをつける偵察機の存在が不可欠だけどね」


 それにいくらレイヴン偵察機がステルスとはいえ、ポータルを使う際の魔力の反応は発見される恐れはあった。


「そして敵に転移位置がバレないように気をつけないといけない」

「スナイパーに似ているよね」


 アーリィーはそう表した。

 確かに。スナイパーは狙撃したら自分の居場所を悟らせないように移動するものだ。そうやって姿を隠しつつ、敵にさらなる狙撃を浴びせて出血を強いる。


「後は動かない標的とか艦艇のような大きな標的が望ましいな。直線で飛んでいる航空機ならともかく、魔人機とか小さなものは狙うのが大変だ」

「でも、この威力なら直撃しなくても衝撃で周りの部隊も吹き飛ばしちゃうんじゃないかな」

「それな」


 ひとりを狙うのではなく部隊をまとめてやっつける。それなら使いようがある。……少々、もったいない使い方な気もするけど。


「主よ」


 ディーシーが専用シートからこちらを見た。


「敵戦艦、残り1隻だ。どうする?」

「もうそのまま、レールガンで沈めてしまおう」


 戦術モニターに表示されている敵情報をながめる。こちらは観測ポッドからの情報だ。


「先行する潜行戦隊も、攻撃位置につく頃だな」


 バルムンクがレールガン射撃を行っているいま、バルムンク艦隊のステルス軽巡1隻と護衛艦4隻が、敵艦隊に迫っていた。

 ステルス軽巡は、ヴォーテクス級と呼ばれる新鋭の潜行巡洋艦だ。


 全長172メートル。潜水艦を思わせる艦首を持ち、艦全体のシルエットは宇宙巡洋艦を思わせる。

 主砲はウィリディス巡洋艦の主力兵装となっている20.3センチヘビープラズマカノンを連装砲にして、艦首側に二基のみ。艦側面に単装のプラズマカノンを8門持つが、メイン武装は、対艦用の大型ミサイルだ。これらはステルス時に、敵に姿を見せないまま攻撃するためのものとなる。


 そして随行ずいこうするアカツキ級潜行護衛艦は、全長96メートル。ヴォーテクス級をそのまま小さくしたような外観を用ち、主砲は単装の12.7センチヘビープラズマカノンを6門で、やはりというべきか各種ミサイル発射管を備えている。

 いずれも潜行してのステルス襲撃を得意戦法とする潜行戦隊の主力と言える。


 そして敵は、まだこちらに気づいていない。さらにレールガンによるポータル射撃から、立ち直る気配がない。残りも片付けてしまおう。

 そうこうしている間に、最後の敵戦艦がレールガンの餌食になった。これで残るはクルーザーとフリゲートのみとなる。


「よし、潜行戦隊に攻撃開始を命令! 不意をついてやれ!」


 旗艦より指示を受けたステルス航行中の潜行戦隊へ攻撃に移る。

 ヴォーテクス級潜行巡洋艦『ヴォーテクス』が、ステルス状態から艦首の発射管から大型ミサイルを発射。


 同航するアカツキ級潜行護衛艦『あかつき』『ひびき』『いかずち』『いなずま』も、大型ミサイルを艦首の発射管4門から発射する。

 これらは何もない空間から突然、現れたように見えた。


 スティグメ帝国のクルーザーやフリゲートの見張り員たちはレーダー要員が、それを探知した時には、これらのミサイルは至近にまで迫っていたのである。

 後方より飛来したミサイルは、それぞれスティグメ帝国艦艇の艦尾エンジンノズルに吸い込まれ、爆発した。


 艦尾が四散しさんし、帝国艦が次々に火を噴いて墜落、もしくは爆沈する。


 クルーザー2隻、フリゲート4隻が瞬く間に消えた。残るスティグメ帝国艦は3隻のみ。しかもこれらは、まだ『ヴォーテクス』以下、ステルス艦の居場所がつかめずにいた。


 反転しつつ、ひとかたまりになって離脱りだつするように移動する帝国艦。

 そこへ、『バルムンク』からのポータル射撃が、残る最後のクルーザーを襲った。光のようによぎったレールガンの砲撃は、オルキ級クルーザーの船体をえぐり、削った直後、大爆発を起こさせた。

 その余波をくらい、回避するように距離を置こうとする帝国フリゲート。そこへ『ヴォーテクス』の対艦ミサイルが吸い込まれ、火球へと姿を変えることとなる。


『敵艦隊、全艦撃沈を確認』


 俺は、戦艦バルムンクの艦橋でそれを見守っていた。

 完全勝利。敵に反撃を許さず、一方的に撃滅に成功した。


「使えるな」


 俺は口元が緩むのを感じた。何もかも上手くいくことは中々ないが、そういう場面をいざ引き当てるとニヤけるのが止まらないわけだ。


「バルムンク、潜行戦隊に合流指示を出せ」

『了解』


 バルムンク・コアが答え、そこで艦橋内の空気がフッと和らいだ。アーリィーがシートを回した。


「やったね。文句なし」

「残るは、2部隊だったか?」


 ディーシーも、アーリィーと同じように俺のほうに向いた。


「これなら、これらも楽勝だな」

「油断はするなよ」


 俺は頭の後ろに手を当て、艦長席にもたれる。


「初っ端が上手くいったが、まだまだ実戦でのデータは不十分だからね。それにレールガンを実射してみて、状態のチェックも必要だ」


 壊れていたり、あるいはその兆候ちょうこうが見られる可能性もある。何せ、ウィリディス戦闘艦では初めての装備だ。

 主砲のプラズマカノンと違って、データが蓄積ちくせきされているわけではなく、手探り感もある。


 とはいえ、滑り出しは順調と言えた。

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