第1139話、超高速砲弾


 辺境国家群の現状。スティグメ帝国軍は、そのうちの一国、ジルド王国の中枢を叩き、そのお世辞にも広大とはいえない土地を制圧しつつあった。

 さらに帝国の艦隊は、ジルド王国の隣国カルブへと侵攻。進路上の集落を艦砲射撃や航空攻撃で滅ぼしていった。


 連合国から転移によって移動した俺たちバルムンク艦隊は、早速、辺境国家群を攻撃するスティグメ帝国軍に向けて反攻作戦に移る。


「当初の予定どおり、まずは艦隊を叩く」


 俺は宣言した。

 旗艦バルムンクの艦橋。ベルさん、サキリスのほか、アーリィー、オリビア近衛隊長、ダークエルフのラスィア、エルダーエルフのニムがいる。


「連中が基地を作るまでは艦隊がそれを担う。沈めてしまえば、残るは散らばっている地上部隊を各個に撃破するだけだ」

「まずは敵の足を止めるのが大事だよね」


 アーリィーが言えば、地上戦を担当するだろう、各魔人機隊長らは頷いた。

 敵がすでに複数の土地を占領しているため、地上戦が多くなるのが想定される。だから、ベルさんとサキリスの中隊のほか、今回は近衛やその他部隊にも参加してもらう。アーリィーも白騎士こと魔神機リダラ・バーンで参戦する可能性が高かった。

 だが、まずは艦隊だ。


『確認されている敵艦隊の陣容です』


 バルムンク・コアが報告した。

 戦艦5、クルーザー3、護衛艦6の本隊と、クルーザー3、護衛艦6の別動隊が2セット活動している。

 これらを順番に潰していこう。


「今回はステルス戦法で行く」


 こちらの戦力は『バルムンク』の他、空母1、重巡洋艦1、軽巡洋艦1、護衛艦4と数ではこちらが不利である。

 しかし、全艦ステルス艦艇であり、またポータル運用も可能な装備を有している。俺が構想した、ポータル攻撃の艦隊運用試験にちょうどいい。


「バルムンクの魔力式レールガンが、どれほどのものか試させてもらおう」



  ・  ・  ・



 スティグメ帝国第7艦隊は、辺境国家群の制圧を順調に進めていた。

 艦隊司令官である十二騎士第七将ヴィスィーは、鬼神機ジュゴンに乗り、地上へと降りていた。


 第7艦隊は、次席指揮官ペルノ将軍によって運用されていた。

 彼ら艦隊に与えられた任務は、辺境国家群と呼ばれる地上蛮族を駆逐することだ。

 敵が降伏した場合は捕虜とするように、と通達されている。しかし空を飛ぶ艦隊から、地上人の降伏など早々にわかるものではない。


 結果、地面をたがやすがごとく、艦砲射撃で集落や砦を吹き飛ばしていった。


「実に簡単な仕事だ」


 ペルノ将軍は司令官席に座りながらほくそ笑む。旗艦『ツァコモス』以下、第七艦隊主力は、我が物顔で空を占有している。

 愚かな蛮族に飛行する敵を迎え撃つ能力などなく、まさに虫を一方的に踏みつぶすように楽な戦いが続いてる。


「楽過ぎて、面白味には欠けるがな」


 だから、司令官のヴィスィーは占領地に行ったのだろう。

 ペルノが従兵に飲み物を頼んだ時、それが起きた。

 艦橋の窓を閃光が満たし、爆発音がズシリと響いてきた。


「なっ……何事だ!?」


 大爆発の衝撃。これは戦艦クラスのモノが吹き飛んだか――ペルノのとっさの予想は的中した。


「戦艦『カヴキ』、ご、轟沈ごうちん!」


 報告を受けて、ペルノは席から飛び降りると右舷側窓に取り付いた。

 確かに、旗艦の右舷側を航行していた戦艦の姿が煙の跡しか見えなかった。


「敵襲だ! 索敵! 何をしていた!?」


 ペルノの怒号が艦橋に響き渡った時、またも閃光と爆発が先ほどと同じように起きた。

 今度は左舷側だ。


「まさか……!」

「戦艦『スファギ』大破の模様! 沈みます!」


 艦の後部が吹き飛び、地面に向けて墜落していく戦艦だったもの。


「またも一撃か……!」


 戦艦の装甲を、そんな簡単に撃ち抜くなど、空への対抗手段のない蛮族には不可能な芸当だ。

 ペルノは信じられなかった。果たして何が起きたのか。


「索敵、まだ敵は発見できんのか!?」

「魔力レーダー、反応なし!」

『こちら見張り指揮所。敵性存在を確認できず!』


 寄せられた報告に、ペルノは歯噛みする。


「これは、いったい何だと言うのだ……!」



  ・  ・  ・



『こちらフレスベルグ1、目標、着弾確認。敵戦艦を撃沈』


 リムネ・ベティオンは、レイヴン戦闘偵察機の後座から、スティグメ帝国の戦艦が沈む光景を遠くから眺めていた。

 ステルス偵察機であるレイヴンは、遮蔽しゃへい魔法装置によって姿を消し、魔力や電波など、さまざまな索敵さくてき機器から回避しながら、敵艦隊を観察していた。


すごい威力だったね……』


 前席である操縦席にいるフラウラは呟くように言った。


『戦艦を一撃で破壊しちゃった』

『ジン様の新兵器ですもの。当然よ』


 リムネはバイザーの奥で小さく笑みをこぼした。


『――フレスベルグ1』


 通信機が鳴った。


『こちらバルムンク。第三射、用意完了。ポータル展開、次の標的送れ』

『フレスベルグ1、了解』


 リムネはコンソールを操作する。レイヴン戦闘偵察機の機体下部のアームが動き、次の標的――敵戦艦へと合わせる。


『フラウラ、針路そのまま』

『了解』

『バルムンク、ポータル展開、5秒前、4……3……2――』


 アーム先のポータルが開く。それはバルムンクの超兵器――レールガンの砲身先に展開されているポータルと繋がる。


『ゼロ!』


 その瞬間、光がまたたいた。リムネはすぐに、魔力反応を探知される可能性のあるポータルを解除した。

 刹那のごとき、ポータルの開閉。そして起こったのは、光に近い速度まで超加速された砲弾が、敵戦艦をぶち破り、爆沈させる光景だった。

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