第1137話、セイスシルワ国からの通信


 セイスシルワ国へ攻め入ったスティグメ帝国軍は、壊滅かいめつしようとしていた。

 港町セベランサを制圧していた帝国軍は、ベルさん、サキリスら魔人機隊と、ドルフィン突撃艇の攻撃で、その機械戦力を喪失そうしつ


 ヴァルキュリア戦隊から出撃した上陸部隊のパワードスーツとシェイプシフター歩兵により、吸血鬼軍の残党は掃討そうとうされつつあった。

 また、艦隊戦では第七艦隊が数の差で圧倒。戦艦『マサチューセッツ』『テネシー』が中破、『ネヴァダ』が損傷したものの、敵艦隊を撃破した。


 いざとなれば、バルムンク艦隊で支援をしようと思っていた俺だったけど、その必要はなかったな。

 よきかな、よきかな。切り札は使わずに済んで、ナンボだ。


「よし、ここの始末は第七艦隊に任せて、バルムンク艦隊は撤収作業を開始。次の戦地へ移動する!」

『了解』


 俺は艦長席を回して、戦略ボードを見やる。


「次は、大陸東端の辺境国家群に現れた連中か」

「いまはどんな様子なんだ?」


 ディーシーが、自分の専用シートを回して、俺と同じくボードを見る。


「バルムンク」

『観測報告では、ジルド王国が首都陥落。スティグメ帝国は隣国カルブへ攻撃を開始しているようです』


 シップコア『バルムンク』が報告する。

 俺にとっては馴染なじみのない国名だ。連合国より、さらに文明レベルが劣っている辺境国家群である。たとえるなら地方貴族程度の勢力が王様をやっているような国々が、乱世乱世と暴れ回ってた地域だ。


「その程度では、スティグメ帝国に対抗などできんだろう」


 ディーシーは鼻で笑う。


「辺境国家群など、制圧されるのはまさに時間の問題だろうな」

「とりあえず、艦隊や機械戦力を喪失させて、敵の勢力拡大を阻もう」


 艦隊や航空戦力を潰せば、敵の進撃速度も鈍る。スティグメ帝国の地上侵略の足場固めの拠点にされるのを、見過ごすわけにはいかない。


「本当なら、地元連中と共闘の形に持っていきたいところだが……」

蛮族ばんぞくだろう? 時間の無駄だよ。寝首をかかれるのがオチだろうよ」

「だよな……」


 対大帝国連合に引き入れても、益になりそうにない。

 正直、この辺境国家群を完全にこちらは見下している。シェイプシフター諜報部や偵察資料によると、まさに蛮族としかいいようがなく、『自分たち以外の誰かのために』戦うなどしないという。


 一部の国では、残忍な戦争捕虜虐待や、生け贄行為などが当たり前のように行われている。自陣営にいたら汚点にしかならないような勢力なのである。


「まあ、地元の文化に口出しするとろくなことはないからな」


 蛮族と見下してはいるものの、『正しき道を教えてやろう』とか、傲慢な行動をするつもりはない。

 俺は嫌だぞ。我が民族は神に選ばれた優良種であり、その他民族の主義信仰はぶち壊して導いてやるぞ、みたいなのは。


「だが、スティグメ帝国は倒す」


 よそ様の土地で、ドンパチやらせてもらう。すまんな、害獣退治のためだ。土足で上がらせてもらうよ。……言葉にするとひどいな、俺も。


「仕方あるまいよ。地元連中が自力で、敵を追い払えないのだからな」


 ディーシーは皮肉げに言った。


「彼らには、早過ぎた」


 未来人が攻めてきた感覚なのだろうな。……まあ、実際は過去の遺物なのだが。兵器や戦術の差が大き過ぎる。


「地上の敵の掃討は後回しにして、まずは艦隊を叩こう」


 俺はシップコアに向き直る。


「ヴァルキュリア戦隊は、上陸させた部隊を第七艦隊の陸戦隊に引き継がせるまで、ここで待機だ。それ以外のバルムンク艦隊艦艇は、辺境国家群へと跳躍する」

『承知しました』

「航空管制。魔人機とドルフィン艇の収容作業は?」


 俺が確認すると、航空管制席のシェイプシフター・オペレーターが振り返った。


「ドルフィン1、ドルフィン2は収容完了しました。ブラックナイト隊、シャドウバンガード隊、まもなく全機収容完了します」

「了解した。収容完了次第、バルムンク艦隊は移動だ」


 ああ、そうそう。


「通信士、『ヴァルキュリア』に打電。敵兵器の残骸を回収をさせろ」


 鬼神機とか、あの多脚兵器とか、スティグメ帝国の兵器の解析もしないといけないしな。性能分析の助けになるだろう。


『閣下、「サウスダコタ」より入電。セイスシルワ国のガーリオ大臣より、シーパング艦隊司令官への通信が入ったとのこと』


 通信士が報告した。ガーリオ大臣……ああ、連合国会談の場でセイスシルワ代表として何度か、うちと交渉したことがある人物だったな。


「セプテム提督に任せるが、通信はこちらでも聞こえるように、『サウスダコタ』に返信」


 さあて、セイスシルワ国は何を言ってくるかな? こちらからの一方的な支援や、領土への侵入に対する抗議かな?

 第七艦隊の旗艦、戦艦『サウスダコタ』にいるセプテム提督は、シェイプシフターである。これまでの外交やら諜報活動の経験で、それなりに交渉ができるようになっている。

 通信が聞けるようになっているので、その内容を戦艦バルムンクの艦橋でも拝聴。


『――まずは、貴国の速やかな支援、感謝いたします』


 ガーリオ大臣かな。俺はキャプテンシートに肘をつく。


『敵の卑劣なる奇襲により、貴国より送られた貴重な艦艇を数隻失ってしまいました。連合各国に救援を要請しようとした矢先、貴国が援軍として駆けつけてくださった。まさしく疾風迅雷! 感謝の念に堪えません』

『今回、現れたのはスティグメ帝国なる吸血鬼の軍勢です。セイスシルワだけでなく、世界の複数カ所で出現が報告されております』


 これはセプテム提督の声だな。ガーリオ大臣が『スティグメ帝国!?』と驚いた。


『のちほど、こちらで判明しているスティグメ帝国の情報を貴国に送ります。もちろん、連合各国にもです』

『助かります。我々は、敵の正体がわかりません。ディグラートル大帝国の手の者かと思ったくらいで……』


 そこから港町セベランサ周辺の残敵処理の話と、町やその周辺への救難活動が話し合われた。


『この近くに、敵地下帝国の出現地点があると思われ、調査をしたく思います。ここはセイスシルワ国の領空、領海でありますから、許可をいただきたい』

『もちろん許可いたします。こちらからも敵の調査と……あと、できれば、このままシーパングの艦隊には、危険が去るまで留まっていただけましたら……と』


 大変言いづらそうにしているガーリオ大臣。セプテム提督は言った。


『それがセイスシルワ国の正式な要請とあれば、我が艦隊は留まり、警戒いたしましょう』

『ありがとうございます、提督。シーパング国の寛大なるご配慮、痛み入ります』

『我々と貴国は同盟国ですから。……他に連絡事項はありますか? なければ、これで』

『はい、今のところは以上です。それでは、今後ともよしなに――』


 通信が終わった。シェイプシフター提督は、うまくやってくれた。駐留と調査許可の獲得はありがたい。敵を撃退した貸しは、今後返してもらう方向で。


「さて、では、バルムンク艦隊は大陸東端へ向かう」


 交渉の間に、艦載機も収容が完了した。これで目的地へ向かえるってもんだ。

 いざ、辺境国家群へ。

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