第1136話、イルカ艇、発進!
スティグメ帝国にも十二騎士があるのか。
敵の名乗りを聞いて、俺は思わず呟いた。俺自身は戦艦バルムンクの艦橋にいて、前線の様子はモニターしている。
どうやらリダラ・ドゥブを駆るサキリスが、敵の大物を引き当てたようだった。
『ならばこちらも名乗ろう! ウィリディス軍、シャドウバンガード隊長、魔法騎士サキリス・キャスリング! リダラ・ドゥブ、参る!』
あー、サキリスさんまでつられて名乗っちゃったよ。まあ、彼女は俺が任命したとはいえ騎士だから、相手が名乗った以上、それに応えてしまうわけだ。
『十二騎士第四将、テオン・カンセル。鬼神機カルキノス! いざっ!』
敵も騎士らしく振る舞い、カルキノスとやらとリダラ・ドゥブが激突する。電磁スピアを繰り出す黒騎士に、カニもどきは両手のハサミで防ぎつつ、肩の有線式ハサミ武装を飛ばす。
槍のほうがリーチがあるかと思えば、そんなこともなかった。
アポリト魔法文明時代の魔神機と、スティグメ帝国版魔神機――鬼神機とやらの戦いだ。
「これ、俺も出たほうがいいかな……?」
「好きにしろ」
ディーシーが気のない様子で言った。
「タイラントは用意してある。だが、それよりも――」
戦術モニターに、別の敵機――大型の多脚兵器が映る。
「大聖堂の陰に隠れていたが、こいつがかなり大きい。おそらく敵の地上兵力の移動基地のような存在だろう」
「でかいな……」
ウィリディス軍で回収したスーパーロボットT-Aが高さ10メートルほどだが、あれよりも大きい。
どうやら先ほどまで足を倒して地面に張り付いていたようだ。周囲の街並みに同化していたが、立ち上がったことで、その姿が一際目立った。
そして胴体に設置された砲が、ウィリディス機に火を噴く。崩れかけの建物に直撃し、粉微塵に吹き飛ばす。
艦艇用の魔法砲並の威力があるようだ。それを四方に撃ちまくるとか、かなりの邪魔者だ。
一方、その大型多脚兵器とは離れた町の外周に、アルバトロス上陸艇が次々に降下した。大きさゆえ、町中には降りれなかったが、結果的に、それが多脚兵器の砲撃から遠ざかる要因となった。
アルバトロス上陸艇から新型パワードスーツ『ウォリアー』が周囲に素早く展開。さらに兵員輸送区から、シェイプシフター歩兵が飛び出して、町への進撃を開始する。
上空援護機が、多脚兵器の砲撃で
「あいつが邪魔だな」
「どうするのだ、主。『バルムンク』から艦砲射撃を加えるか?」
「いや、ドルフィンを出そう」
俺は、戦艦バルムンクが搭載している突撃艇を使うことにした。
「バルムンク、ドルフィンは出せるな?」
『はい、一号艇、二号艇、とちらも発進できます』
「よし、地上支援を兼ねて、ドルフィン発進だ」
『了解』
バルムンクコアは、さっそく俺の命令を実行に移した。
戦艦バルムンクの艦底部には、二隻の小型艇が
全長45メートル。艦隊戦のお供にも、地上の火力支援にも使える多目的突撃艇。その名は、イルカこと『ドルフィン』という。
魔法文明の流れをくむ、三角を意識した形状。ボートのようにも見える鋭角的なフォルムには、7.6センチ単装プラズマカノンのほか、六連装クリエイトミサイルが四基と20ミリ対空砲が3門。そして船首にマギアブラスター発射口を2門装備している。
採算度外視のバルムンク艦載艇だけあって、ステルス航行はもちろん、超装甲、結界水晶防御も採用されている。
ブルーのラインが入った一号艇、レッドのラインが入った二号艇が、それぞれシェイプシフター兵と搭載コアの制御のもと、発進した。
『ドルフィン1、対地
『ドルフィン2、攻撃開始』
7.6センチ砲が矢継ぎ早に放たれ、地上の敵魔人機を砲撃する。防御障壁を装備する魔人機だが、艦砲クラスの威力の攻撃の阻止は難しい。速射に長けた7.6センチプラズマ弾に撃ち抜かれ爆散する。
高速で飛行するドルフィン艇。すぐに、例の多脚兵器の近くに到着する。
飛行するドラグーンがプラズマ弾やミサイルを浴びせるが、敵のシールドが厚く、ダメージを与えられずにいるようだった。
「防御力以上のダメージを与えれば抜けるはずなんだ」
俺は、敵大型兵器に接近するドルフィン艇を見やる。ドルフィン1、2は最大火力である船首のマギアブラスターを発射した。
スーパーロボットT-Aも搭載する超攻撃力の一撃が、多脚兵器のシールドに命中する。耐えたのは、1、2秒程度だった。防御装備を貫通し、その分厚い装甲を
「さすがの威力だ」
「そりゃあそうだろう、主よ」
ディーシーが少し呆れを交えた。
「ドルフィンは、シード・リアクターを搭載している。魔力無尽蔵なのだから、マギアブラスターの威力も相応だろうよ」
そう、スーパーロボットT-Aにも搭載している世界樹の種子をコアにしたシード・リアクターを、ドルフィン突撃艇は積んでいる。
魔人機や単座航空機サイズでは収まらないが、小型艇以上ならば積むことができる。
この突撃艇誕生のきっかけは、シード・リアクターを搭載できる最小の機体を出発点としているのだ。……まあ、最小でいうならスーパーロボットのほうが一番ではあるが。
「邪魔者は排除された」
俺は一息つく。ベルさんのブラックナイト隊も、敵機を掃討しつつある。地上ではエリーやレウたちの改造魔人機隊が、敵魔人機を排除。上陸したパワードスーツ隊やシェイプシフター兵が、スティグメ帝国の陸戦兵を町から一掃しつつあった。
あとは……サキリスと、カンセルとやらの戦いか。
魔神機対鬼神機。
カルキノスのショットシザーが、崩れかけの建物を破砕する。一撃をかわしたリダラ・ドゥブは、ブレードを手に肉薄する。
電磁スピアは、すでに二本とも切断され、使えなくなっている。
『そんな破れかぶれなど!』
カルキノスは両手のシザースハンドを突き出す。片方はリダラ・ドゥブのブレードを弾き、もう片方は
『このハサミは、回転できるぅ!』
ドリルよろしく猛回転するハサミがバックラーを
『それを待ってましたわ!』
サキリスは吼えた。背部のサンダースピア射出ユニットが前方へとスライドし、カルキノスのボディへと、その射出口を向けた。
『武器を飛ばせるのは、貴方だけではなくってよ! ショットスピアーっ!!』
騎兵槍を思わす魔法槍が放たれ、カルキノスの胴体を貫いた。
『ぬぉぉっ! バカなぁ……!』
槍に体を裂かれ、直後の爆発でカンセルは消滅した。鬼神機カルキノスは、大破し大地に倒れた。
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