第1135話、セベランサ上陸戦


 スティグメ帝国第四艦隊は、新たに出現した敵艦隊へと迎撃に向かった。

 第四艦隊司令官であり、十二騎士であるカンセルは、鬼神機『カルキノス』に搭乗していた。

 港町セベランサにて、スティグメ帝国の地上戦力は都市の破壊と制圧にかかっていた。


 カンセルは、人間の町を蹂躙じゅうりんすることを楽しんでいた。


「下等な人間どもめ。これでは張り合いがないぞ」


 ろくな防衛戦力がなかった。こちらの攻撃に大して、やられるがまま。地上人はただ逃げ回ることしかできなかった。


「まるで積み木くずしだな」


 カンセルは無骨な顔に、残忍な笑みを貼り付ける。三度の飯より、人間の血を見るのが好きという性格の男だ。

 彼の操る鬼神機『カルキノス』も、両手と両肩に巨大ハサミを装備し敵を切り裂くのを得意としている。


「つまらんぞぉ、人間ども! ぐはははっ!」


 鬼神機を走らせて、建物を砕いて回る。飛び散る破片が逃げ遅れた人間の体に当たり、その命を奪っていく。


『カンセル様! 敵と思われる魔人機の反応を確認しました!』


 部下からの報告。カンセルは唇の端を吊り上げた。


「ようやく、おかわりのお出ましか。待ちくたびれたわ!」


 データ照合――鬼神機の識別装置が知らせた結果に、カンセルは眉をひそめた。


「なに、魔神機だと? こんな骨董品が動いているのか!?」


 驚くのも無理はない。アポリト魔法文明時代の魔神機――黒騎士こと、リダラ・ドゥブが魔人機部隊を引き連れて現れたのだ。



  ・  ・  ・



 ステルス航行の賜物か、敵に察知されることなく、バルムンク艦隊は港町セベランサ近くまで進出した。

 俺は艦橋にいて、出撃準備中の陸戦部隊を見やる。航空管制官が発艦作業の指揮をとっている。


『右舷カタパルトより、ブラックナイト隊、順次発艦』

『あいよ。ブラックナイト、出るぞ!』


 戦艦バルムンクの艦中央の張り出しにある艦載機格納庫。その右舷側より電磁カタパルトレールに従い、ベルさん搭乗のブラックナイトが前方に射出される。続いて、彼が率いる黒塗装の魔人機が順番に打ち出される。


『左舷カタパルト、シャドウバンガード隊、どうぞ』

『リダラ・ドゥブ。サキリス・キャスリング、行きます!』


 左舷側のカタパルトから、魔神機リダラ・ドゥブが飛び出す。大型槍を装備した漆黒の騎士型魔神機が風のように飛び立つ。

 その次に発進口に出てきたのは、黒塗装のセア・フルトゥナ、その改良型だ。


『セア・フルトゥナ・シルフ。エリザベート・クレマユー、出ます!』


 背部の飛行ユニットを強化した風の魔人機が軽やかに飛翔する。


 魔力通信機を通して、サキリスやエリーが出撃していくのを確認する。さらに魔法人形の子供たち――レウやロン、リュトも改造魔人機で戦地へと向かっていく。


「大丈夫かな……?」


 相手はスティグメ帝国。これまでの大帝国の機体とは違う。子供たちは、過去、吸血鬼軍と戦った経験があるから、多少はマシだが、サキリスやエリーはほぼ初見だ。

 ふたりとも戦場を体験しているが、特にエリーは魔人機に乗っては初の実戦ではないか。


「心配するな、主」


 ディーシーが自分の席のモニターから顔を上げることなく言った。


「我が、それとなくサポートしてやる」

「頼む」


 俺はからかうでもなく、ディーシーに割り振る。

 戦艦『バルムンク』から魔人機部隊が発進する中、2隻のヴァルキュリア級強襲巡洋艦からも直掩用のドラグーンが航空機形態で発艦。


 さらにアルバトロス上陸艇が、シェイプシフター兵やパワードスーツ小隊を積んで、母艦から飛び立っていた。

 上陸艇と分類されているが、形状は輸送機に近い。折りたたみ式の主翼を持ち、上面に二基のマギアエンジンを搭載する。

 胴体中央にコンテナを積むことができ、ここに兵員や物資を輸送する。


 このコンテナは、輸送用パッケージの他、歩兵や戦車などを積む揚陸ようりくパッケージと呼ばれるものが存在する。今回はもちろん、後者だ。


 標準的な揚陸パッケージの場合、左右にパワードスーツを二個分隊、5機×2と中央に二十名から三十名の歩兵を輸送することができる。

 ヴァルキュリア級は、このアルバトロスを露天駐機も含めて8機、搭載可能だ。


 つまり、上陸艇を全機飛ばした場合、1回の輸送で、パワードスーツ80機、歩兵160人から240人を送り出すことができるのだ。

 さて、いよいよ、こちらも敵部隊と交戦だ。


 ベルさんやサキリスたち、護衛の魔人機部隊が、スティグメ帝国地上部隊に攻撃をかける。

 敵もヴァンピール、デビルナイトといった魔人機が、早速、迎撃に上がってくる。スティグメ帝国の魔人機は、きっちり空中戦に対応している。


『ようし野郎ども! 吸血鬼どもを蹴散けちらせ!』


 ベルさんのブラックナイトⅢが先陣を切って突っ込んだ。


『エンゲージ!』

『翼のデカいのが指揮官機だ!』

『突っ込め! 行けっ! 行けー!』


 パイロットたちのチャンネルからは、さまざまな声であふれてくる。敵機の位置や数などの報告に混じり、怒号や悲鳴も聞こえてくる。


「こりゃ私語をするなって言いたくもなるよな」


 必要な情報とそうでない情報のカオス度よ。


『空中の敵はブラックナイツが引き受ける! シャドウバンガードは、上陸艇を援護えんごしろ』

『了解。バンガード・リーダーより各機、続け!』


 ベルさんから、サキリスへ。アルバトロス上陸艇を援護するサキリス隊は、港町に突入した。

 しかしそこにはスティグメ帝国軍の地上戦力が待ち構えていた。


 ドゥエルカスタムら陸戦型魔人機のほか、大型の多脚兵器が、バルムンク所属魔人機隊に牙を剥く。


『でぇぇい!』


 サキリスのリダラ・ドゥブが、電磁スピアで立ちはだかる敵魔人機を貫いた。

 大帝国のドゥエル・ランツェによく似た槍装備のドゥエルが、サキリス機に迫るが――


『残念、槍はもう一本ありますわ!』


 二機目の敵を串刺しにするリダラ・ドゥブ。その二機を貫いたまま、マギア・スラスターを噴かして突進。二機のドゥエルカスタムを単機で押し込むそのパワーは、さすがは魔神機。格が違う!


『キャスリング隊長! 敵未確認機!』


 通信機から聞こえたそれに、俺は画像確認する。

 それは魔人機より頭ひとつ大きかった。両肩にそれぞれ目立つハサミ状の武装。両手にもハサミ状になっている、オレンジの機体だ。

 何というか、カニか、はたまたザリガニのような印象を与えるマシンだ。


 そのカニもどきは、右肩のハサミを発射。シャドウバンガードのカスタム魔人機を一機、そのハサミで両断した。


『ぐはははっ! 我はスティグメ帝国、十二騎士カンセル! 我らに抵抗する愚かな地上人よ。我がハサミのサビにしてくれるっ!』


 スピーカーからわざわざ敵が名乗った。

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