第1130話、再編成と暗黒領域の調査について
エマン王から了承を得て、俺はトキトモ領アンノウン・リージョンの
さっそく、エルフの里から呼び戻したサキリスに、この未確認領域について詳細を聞く。彼女は、トキトモ領になる前、キャスリング領だった頃からこの地で育ったのだ。
「――とは申しましても、わたくしたちが知っていることなど、ほとんどありませんわ、ご主人様」
サキリスは頭を下げた。メイド服姿が馴染んでいるが、貴族令嬢であった時の優雅さは隠しようがない。
「時々、モンスターが現れる。それを領の騎士たちで撃退する……。ダンジョンではないのですが、もしかしたらダンジョンがあるのではないか、と言われています」
「あの暗黒領域の中に何があるのかは不明という話だったな」
「はい。入った者は誰ひとり、帰ってきませんでした」
サキリスは心持ち視線を下げた。
「いつしか、入ることさえタブーとなり、出てくる敵を撃退するに留まっていました」
「帰還者なし、だからな」
自殺志願でもなければ、入りたくはないだろう。あの謎の黒い霧の中に何があるのだろうか?
「ふだんは、どのようなモンスターが?」
「ゾンビ、グールといったアンデッド系が多いですね。他にはゴブリンやオークの亜種が主です」
だが、今回のスティグメ帝国の艦隊が出現した。アンノウン・リージョンは、かの帝国と何らかの関係があるということか。
「これといった情報を提供できず、申し訳ございません、ご主人様」
「いや。油断するなってことがわかっただけでも大きい」
俺は微笑した。そうとも、いまだ帰還者がいない、という情報だけでも、偵察に送り込む時の参考になる。
そう、偵察せねばならないのだ、今回は。そしてアンノウン・リージョンの情報を持ち帰らなくてはいけない。
使い捨てのゴーレムか、あるいは偵察と生存性に定評のあるシェイプシフター偵察兵を送るか。それとも別の……人とは違うものを送り込むか。
「うん、ありがとう。サキリス、休んでいい」
「はい、ご主人様」
サキリスが席を立った。
さて、アンノウン・リージョンの偵察の前に、まずは封鎖だが、ウィリディス軍全体の再編成を先に済ませておかねばならない。
エルフの里の防衛戦での、損傷艦の修理、戦力が抜けた穴を補う件について、戦地より戻ってきたベルさんやアーリィーを交えて話し合う。
「ヴェリラルド王国には第一艦隊をメインに置いて、防衛態勢を取る」
キングエマン級戦艦1、ドレッドノート級7隻――同ウォースパイドが修理中――を主力の第一艦隊。その巡洋艦、空母はエルフの里に投入しなかったので、丸々残っている。
「友邦であるエルフの里の防備についてだが、青の艦隊が大打撃を被った影響で再編成が必要だ」
スティグメ帝国艦隊の砲撃で、巡洋戦艦1隻喪失の1隻大破ときている。また同規模の敵艦隊が現れたら、残る巡戦1隻と巡洋艦、改装空母群では心もとない。
「そこで、第二艦隊から、
「わかった」
アーリィーは頷いた。
第三艦隊は空母戦闘団だが、その護衛に生駒級巡洋戦艦4隻からなる第八戦隊――『天城』『赤城』『葛城』『阿蘇』が所属している。
「空母はいいの? 青の艦隊は、空母が4隻しかないけど」
アーリィーが指摘した。
「よければ、うちの艦隊から二航戦を回してもいいけど」
第二航空戦隊――
俺は首を横に振った。
「いや、青の艦隊用に改装の終わった空母戦隊を送るから、そっちは大丈夫だ」
ディーツーの遺産である秘密拠点で建造された艦艇がある。今回のエルフの里防衛戦の影響で、若干投入時期が早くなってしまうが致し方ない。
それで――と、ベルさんが首をひねった。
「アンノウン・リージョンの封鎖はどうするんだ?」
「第二艦隊であたる」
大和級戦艦2隻と伊勢級戦艦『伊勢』、生駒級巡洋戦艦3隻――筑波が撃沈されているため1隻欠――を中心に、第五航空戦隊、ほか巡洋艦部隊で何とかする。スティグメ帝国の戦艦が出てきても、大和級なら対抗できるだろう。
「となると、大帝国以外の場所に現れたスティグメ軍はどう対処するんだ?」
ベルさんは問うた。
「ファントムアンガーとシャドウフリートがあるが、あれは空母航空隊と陸戦隊を中心にした艦隊だから、艦隊決戦には向かないぜ?」
「『バルムンク』を中心にした新鋭の秘密艦隊と、シーパング艦隊を使う」
「シーパング艦隊! あ、第七艦隊か」
アーリィーが思い出したように頷いた。
最近、新設された艦隊である第七艦隊は、ディーツーの遺産、エルフの里の地下で建造されていた艦艇を中心にしている。
エルフから、艦艇の大半がウィリディスに引き渡されたが、その主力とも言うべき戦艦は、機械文明時代のテラ・フィデリティア主力戦艦を再現して作られている。
ディアマンテを除くウィリディス艦艇とは部分的に違いがあるので、せっかくだからシーパングの主力戦艦にしてしまえ、ということでこの配置となった。
こちらは俺のいた世界のアメリカ、その戦艦につけられていた州名を使った。
サウスダコタ級と命名した戦艦群は、ウィリディスのドレッドノート級戦艦とほぼ同等の性能を持っている。
それが16隻。エルフの里防衛戦の時は 最終試験航海中だったから参戦を見合わせたが、こちらも戦線に投入しようと思う。
「ディグラートル大帝国に加えて、スティグメ帝国……。新鋭艦艇の第二陣の戦力化は急ぐが、エルフたちに戦艦を含めた新艦艇を用意すべきだろう」
「スティグメ帝国艦に対して、かなり非力だったもんね」
アーリィーは渋い表情になった。ベルさんも口元を歪めた。
「コルベットクラスじゃ、スティグメ帝国の連中に蹴散らされる未来しかない。テコ入れしてやらねえと、オレたちからしたらお荷物以外の何物でもなくなる」
「エルフの里地下の施設にあった戦艦は、こっちでもらってしまったから、代わりと言ってはなんだけど、戦艦級の艦艇を用意したい。これはエルフのカレン女王に一言お
建造自体は、世界樹の地下の施設を使えばいいだろう。
アーリィーが俺を見た。
「ジン、『バルムンク』艦隊の艦艇って、いまどれだけ揃っているのかな?」
「新型重巡洋艦が2隻、改装戦闘空母が1隻、新型強襲巡洋艦が3、4隻。ステルス軽巡洋艦1、ステルス護衛艦と改装ステルス艦が十数隻」
「もう、結構できてるね」
「まだ試験の最中で、実戦に使えるのは今の半分くらいだけどね」
とはいえ、単艦でも強力な『バルムンク』が就役しているので、これら新鋭艦が間に合わなくても、致命的に困るわけではない。
さて、早々に行動したいところだが、艦艇の準備をしている間に、アンノウン・リージョンの偵察について考えよう。
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