第1125話、押し寄せる敵、奮戦する亜人村


 トキトモ領リバティ村。亜人や獣人、元奴隷たちを中心に住んでいる村は、いま、アンノウン・リージョンから現れた魔獣の猛攻もうこうにさらされていた。

 村を囲む外壁の上には村の自警団が弓や魔法銃で応戦している。


「いったい、こいつらは何なんだ!?」


 狼獣人のグルが怒鳴った。

 村の外には、ゾンビのようなアンデッドが大挙押し寄せている。


「わかりません!」


 答えたのはメガネをかけたゴーゴン――上半身が人間、下半身が蛇――のリラだ。自警団に属する彼女は、爆弾弓を使いながらゾンビ兵を吹き飛ばす。

 グルもウィリディス軍から村の自衛用にもらった魔法銃ライトニングバレットを構えて、撃つ。

 弓に比べて扱いやすく、クロスボウより連射が効く。専門の訓練をさほど受けていない獣人にも使いやすい飛び道具ということで気にいっている。

 だが――


「こいつら、数が多過ぎやしねえか?」

「先ほど、村長が救援の信号を送りましたから!」


 リラは声を張り上げた。


「ノイ・アーベントからジン様が援軍を送ってくださるはず!」

「ああ、あの人は信用できるが……」


 グルは不安げな顔になる。


「本当に、来てくれるんだろうか?」


 この村は、故郷を追われた者たちの集まってできている。種族は違えど、大なり小なり境遇きょうぐうが似ていて、親しい関係を築いている。

 何より、誰かに迫害はくがいされない。衣食住も困っていないという住み心地がよいところだ。


 グルは、亜人や獣人を差別する隣国に未練はない。仲間たちとリバティ村で一生を終えてもいいと思っている。

 だから、村が破壊されたり失われるようなことは絶対に避けたかった。


 ジン・トキトモという侯爵は、この村を作った。他の種族にも手を差し伸べてくれた。だが彼は人間だ。人間は獣人に差別的だ。グルの中で、辛酸しんさんを舐めさせられた経験は根深い。


「オレは疑い深いところがあって、人間がこういう時助けてくれるか、いまいち自信が持てないんだ」

「こんな姿ですけど」


 リラは、足でもあり尻尾のある蛇の下半身を指さした。


「わたしは元は人間ですよ。それに――」


 メガネの元キメラ・ウェポンの女性は笑みを浮かべた。


「頼もしき隣人たちが、駆けつけてくれたみたいですよ」

『お前ら、無事か!?』


 拡声の魔法だろうか。若干エコーがかかったその声。見れば黒と赤の悪魔的意匠のアーマードソルジャーが現れ、ゾンビ兵をなぎ払い始めた。


『エクゼキューター、九頭谷くずたに ごう! 見参!』


 リバティ村近くに屋敷を立てて、美女四人と過ごしている変わった人間だ。グルも彼のことは知っている。

 初顔合わせの時は、他の人間同様びびられた。こいつも他の人間と同じか、と思ったが、その後の正直な反応と歩み寄る態度に、悪い感情は吹き飛んだ。


 割と信用していい人間――そう評価している九頭谷が、人型兵器を引っさげて、リバティ村を助けにきた。


『オラオラァ! ゾンビは消毒だ!』


 大型マギアランチャーは、自衛団の武装より遥かに強力であり、ゾンビ兵をまとめて消滅させていく。

 守りについている村人から歓声が上がる。

 さらに、九頭谷のエクゼキューターの他、青い機体のフェアブラス、黄金色のティニャス、赤い機体のクレーフトが現れ、敵集団を蹴散けちらしていく。


『相手は死霊の群れか?』


 フェアブラスに乗るフェブリスが大剣でなぎ払えば、ティニャスのモルブスが黄金鎖で地面ごと敵を耕しながら返した。


『つまらない相手ですが、さすがにわたくしたちのお屋敷の近くで腐臭がするのはいただけませんわ』

『おらー、弾幕! 弾幕ぅ!』


 クレーフトの全身魔弾式ガトリングが、ゾンビ兵をミンチに変えていく。

 九頭谷と悪魔娘たちの攻勢。たかが四機の増援は、窮地に思えたリバティ村の戦況を覆してみせた。

 グルは、リラと顔を見合わせる。


「頼もしい連中じゃねーか」

「本当ですね」

『リラー』


 魔力念話の声が届いた。空を飛んでいる変わった亜人セイレーンの少女フィーナだ。


『援軍! ウィリディス軍、きたー!』


 声に魔力がこもっていて周囲を眠らせてしまうセイレーン。以前はコミュニケーションに難があったフィーナだが、今では念話を使いこなし、直接声を使わず報せてきた。


 ただ彼女は、念話を当てるタイプなので、その声は対象とその周りの者たちにも聞こえるという少々変わった特徴がある。

 だから、グルにもフィーナの念話は届いた。


「援軍か!」

「ほら、やっぱりきたじゃないですか」


 ワスプⅡ地上攻撃機が舞い降り、ロケット弾や対地爆弾を敵集団の頭上から見舞う。さらに複数の大きな足音を響かせて、ウィリディス軍の魔人機ソードマンが文字通り駆けつけた。

 こうなってしまえば、もうリバティ村は大丈夫だ――自警団や村人たちは安堵した。

 だが――


『ほう、蹂躙されるだけの家畜と思いきや、意外と戦える力を持っていたか』


 傲慢さを滲ませた、ふてぶてしい声が降りかかった。

 見上げれば、そこには悪魔の翼をもった黒い騎士のような姿の人型兵器――魔人機が複数、浮遊していた。


『出番がなくて、暇を持て余していたところだ。遊んでやろう、地上人!』

『やいやいやい、てめえら一体何者だ!?』


 九頭谷が吼えた。悪魔騎士型魔人機――ヴァンピールのパイロットが答えた。


『我らはスティグメ帝国! 天上人の末裔にして、この世界の真の支配者だ!』

『天上人? なんだそれ』


 挑発するように九頭谷は言った。


『それに何だそのマシンはよぉ。悪魔モデルで、こっちとデザイン被ってんじゃねえーか! アイデア料を寄越せ!』

『それ言っちゃう?』


 クレーフトに乗るブラーガが言った。この悪魔意匠の機体を作ったのが、この赤毛の美少女悪魔である。


 ヴァンピールのパイロットは鼻で笑った。


『フン、下等な地上人どもめ! 粛清してやる!』

『うるせー! 元祖悪魔を舐めんな!』


 激突する双方。だが結果だけを言えば、九頭谷たちの圧勝だった。

 悪魔であり、専用カスタム機である彼らと、量産型魔人機であるスティグメ帝国機では、そもそも性能が違いすぎたのである。

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