第1124話、1対33


 俺が乗艦する戦艦『バルムンク』は、単艦でスティグメ帝国艦隊に飛び込んでいた。大出力の機関と膨大ぼうだいな魔力の供給は、『バルムンク』を高速戦艦たらしめる。

 さらに大和級に匹敵する45.7センチプラズマカノンは、スティグメ帝国戦艦にも効果を発揮した。


『右舷より、敵フリゲート3隻、接近!』


 高速の飛行クジラ型フリゲートが『バルムンク』の速度に追いすがる。しゃらくさい!


「副砲、ならびに側面10連砲、撃て!」


『バルムンク』の副砲はウィリディス巡洋艦の主力武器である20.3センチヘビープラズマカノンだ。巡洋艦にも対応可能なこの副砲の前には、小型のフリゲートでも充分過ぎる!

 さらに側舷防盾部には仕込まれた15.2センチ10連装光線砲が右舷に二基、左舷に同じく二基が、向かってくる敵艦を捉えた。


 砲口カバーが開き、無砲身の光線が敵フリゲートを絡めとる。爆発、火球と化す敵小型艦。


『敵戦艦、本艦を狙う!』


 見張りからの報告。敵戦艦の主砲が『バルムンク』へと向けられる。しかし、『バルムンク』は高速で航行し、敵艦隊の中を円を描くように機動している。

 的は大きくても、そのスピードで敵戦艦の砲塔の旋回の先を行く。


『敵艦、発砲!』


 敵戦艦の放った魔法砲弾が8発、飛来した。うち4発が外れたが、残りの4発が防御シールドに着弾した。


「敵弾、シールドにて阻止。被害なし!」


 ディアマンテが報告した。よし、こいつはお返しだ!


『バルムンク』の主砲が光弾を放つ。敵戦艦も防御シールドを持っていたようだが、こちらの45.7センチ光弾は防ぎきれず、艦体から爆発の閃光を走らせた。


「ディアマンテ、敵弾の威力はわかったか?」


 俺が問えば、銀髪女性軍人姿の旗艦コアは答えた。


「シールドの損耗からみて、およそ40センチ砲クラスでしょう。魔法文明時代のインスィー級より遥かに強力です」


 ――敵戦艦、発砲!


「レナウン級を一撃で沈める砲は、おそらくもっと強力だったはずだ」

「艦首方向に砲口ありますが、射界は狭いのかもしれません」

「側面や後方には、撃てないのかもしれないな」


 ――敵戦艦、撃沈! 残り1隻!


 俺とディアマンテが話している間に、敵戦艦が1隻となっていた。


「ディーシー。他の艦種の残存数は?」

「クルーザー12、フリゲート15だ」


 ディーシーがコンソールをいじる。


「まあ、こっちは単艦だ。クルーザー以下はまだ半分は残っている」


 すれ違いざまに、クジラ型フリゲートが魔法弾を撃ち込んでくる。反撃とばかりに『バルムンク』はミサイルの連続発射。飛行クジラを爆散させた。

 さすがに敵は、『バルムンク』を取り囲むように四方八方から襲いかかってくる。だが防御シールドがこれらの敵弾をすべて阻止しており、『バルムンク』自体に被害は出ていない。


 45.7センチプラズマカノンが、最後の敵戦艦を撃沈する。

 防御シールドに注ぎ込める魔力量の差は艦艇の防御性能にも大きく影響する。世界樹の種子を利用したシード・リアクターのエネルギーは、砲撃、防御、速力――すべての要素に多量に投入してもなお豊富だ。


 一方で通常魔力艦艇は、エネルギーを分配する総量の限界から、自ずと性能が限られる。『バルムンク』の主砲は、敵シールドを貫通できるが、スティグメ帝国戦艦の主砲は、自艦のシールドに配分するエネルギーを砲に振り分けたとしても、『バルムンク』のシールドを貫通できなかった。


「よし、敵戦艦は片づけた!」


 残るはクルーザー以下の艦艇のみ。


「主砲を換装する。45センチ砲から40センチ砲へ換装!」

『了解! 主砲6基、メインウェポンをタイプAにセット!』


 艦橋から、甲板にある主砲が光に包まれるのが見えた。その光はすぐに消えたが、それと同時に、『バルムンク』の主砲は別のものに代わっていた。

 40.6センチ三連装砲。戦艦級の主砲であり、これでもクルーザー相手ならオーバーキルだが、45.7センチ砲よりも小回りと速射性で凌駕する。


「主砲は敵クルーザーを狙え。統制射撃の必要はない。各砲、各個に射撃せよ」


 そもそも一発当たれば、敵クルーザーなど一撃でほぼ瀕死なのだ。それぞれの砲が別個に射撃を行う。

 艦首一番砲が左から迫る敵クルーザー、二番砲が、その後方についている別の敵クルーザーを狙った。先ほどの45.7センチプラズマ弾には劣るものの、強力な砲撃が、スティグメ帝国クルーザーに命中する。


「まるで紙の玩具だな」


 シールドも装甲も、初めから存在しないかのように、敵艦が轟沈していく。

 しかし敵もさるもの。格上の戦艦である『バルムンク』に対して、魔法砲を次々に浴びせてくる。またミサイルのような光弾兵器も使ってきた。


「この程度では、『バルムンク』のシールドを貫くことはできんよ」


 ディーシーが、ほくそ笑む。

 艦中央の20.3センチヘビープラズマカノン副砲群が矢継ぎ早に砲弾を浴びせて、敵クルーザーの艦体のいたるところから火の手を上げさせる。


「うーん、あのドラゴンクルーザーは、コサンタ級並の装甲があるようだな。副砲では手こずりそうだ」

「では、主砲で対応します」


 ディアマンテは、即座に砲撃担当に武器の切り替えを命じる。副砲は敵クジラ・フリゲートを狙い、ドラゴンクルーザーには40.6センチプラズマ主砲で応戦する。

 その間にも10連VLSや三連装ミサイルランチャーが、敵艦を攻撃しており、その数もみるみる減ってきていた。

 この分なら、スティグメ帝国艦隊の壊滅かいめつも時間の問題だな。


『バルムンク』の能力は、想定どおりを発揮した。バァイナ・DW装甲の防御性能のテストはできなかったが……まあ、これは仕方ない。防御シールドを敵の攻撃が抜けないのだから。


 超戦艦の初陣としては、上々と言えよう。

 それに、今回の戦闘で、スティグメ帝国艦艇の性能データも取れた。確認が取れている艦に限れば、ウィリディス艦で充分対処可能だ。


 戦艦に関しては、対抗できる艦が限られるので、主力のドレッドノート級も含めて攻撃力アップを図らねばならない。

 艦正面からの撃ち合いは、レナウン級の例もあるから、ウィリディス戦艦といえど注意である。


 さて、後の気がかりといえば、ノイ・アーベントと、リバティ村の状況だ。後続の艦艇は叩いたが、魔獣の群れや航空戦力が向かったと聞いている。

 果たして、地上戦はどうなっているのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る