第1123話、超戦艦、突撃す


 超弩級戦艦『バルムンク』は、アリエス浮遊島軍港を飛び出した。

 闇夜の中、全長271メートルの巨艦が風のように空を翔る。

 さて、トキトモ領へに現れたスティグメ帝国の動きを確認しよう。


「ディアマンテ」

「はい。観測ポッドからの報告です」


 艦橋正面天井の戦術モニターが、それを映し出す。


「敵艦隊は、ノイ・アーベント方向に移動を開始しました。推定到着時間は15分」

「――戦艦5、クルーザー10、フリゲート20か」

「これとは別に地上を魔獣とおぼしき軍勢が、街道に沿って移動中。こちらは前回の報告と変わらず、ノイ・アーベント、リバティ村へ進撃中です」


 ディアマンテは、モニターの表示を追加した。


「そして敵艦隊より飛翔体が発進。地上部隊の到着前に、先に都市への空爆を行うつもりのようです」

「現地の守備隊がどこまで対抗できるか、だな」


 俺は指示を出す。


「キャスリング基地の航空隊に、敵航空兵力への攻撃を命令。少しでも守備隊を楽にしてやるんだ」

「はい、閣下。通信士、キャスリング基地航空隊に打電!」


 ディアマンテの指示を受けて通信士が連絡を取る。

 さてさて――


「まずは、この敵艦隊を叩こうか。いま近くにいる艦隊は――」

「『ユニコーン』以下、第一遊撃隊だな、主よ」


 ディーシーが答えた。


「わずか6隻しかいない。これで敵艦隊に挑むのはキツイぞ」

「第一遊撃隊には、こちらの討ちもらしを片付けてもらおう。敵艦隊は、『バルムンク』単艦で仕掛ける!」

「うむ、こいつの性能を知らなければ、耳を疑うところだがな」


 ディーシーが皮肉るように笑った。


「しかしいいのか、主よ。本艦にとっては初陣だぞ」


 どこにエラーがあるかわかったものではない。だが、その手のトラブルも、シップコアがあれば、即時の修正、修理もある程度できるから、大きな問題となることは少ない。


「駄目なら、俺が責任をとってタイラントで敵を駆逐するさ」


 ストレージには俺専用機があるから『バルムンク』の格納庫にはないが、いつでも出せる。


「では、他に意見がなければ敵艦隊に奇襲をかけようと思う。転移で、敵の至近に出現しよう」


 接近に気づかれても、対応する間を与えない。転移移動のメリットを活かす!


「主よ、まだ我のテリトリーは、敵艦隊まで伸びていない。転移魔法陣は――」

「魔法陣は使わない。俺が、直接『バルムンク』を転移させる」


 俺は艦長席のコンソールを操作する。


「操舵手、艦の制御をこちらにもらう」

『了解。コントロールをそちらに回します』

「ディアマンテ、観測ポッドを使い、敵艦隊の配置と周辺状況をモニターに移せ」


 転移直後の激突事故のない安全な場所に目星をつけて、俺が『バルムンク』を跳躍させる。

 コンソールにあるモニターに映像が表示される。夜の闇の中、航行するスティグメ帝国の艦隊――なるほど、エルフの里で見たやつと同じ艦種だ。


 暗視調整……っと。よしよし、これで細部まで見やすくなった。俺はパネルの一角にある、魔力板と呼ばれる長方形のスイッチに手を乗せる。

 俺の魔法を艦に伝え、シード・リアクターからプールされた魔力を使って、『バルムンク』に作用する魔法を発動するのだ。


「ようし、敵艦隊の左舷に転移する! 転移後、主砲は右舷に指向、敵戦艦を砲撃! 副砲、ミサイルはクルーザーとフリゲートを手当たり次第、攻撃だ」


 俺は、カウンドダウンを開始する。


「5秒前、4……3……2……1……今!」


 転移魔法、発動! 次の瞬間、外の光景が一変した。

 スティグメ帝国艦隊の左舷側に、『バルムンク』は出現したのだ。



  ・  ・  ・



 それは奇妙な光景だった。

 スティグメ帝国第九艦隊は、地上人のいうところのアンノウン・リージョンを飛び立ち、ヴェリラルド王国領へと侵攻を開始していた。

 艦隊司令官シュッツェは、旗艦『アルパガス』にいて、『それ』が目の前に現れるのを見た。


「!」


 巨大な空中艦艇――戦艦が艦隊のど真ん中、『アルパガス』の至近に出現したのだ!


「なっ!?」


 言葉も出なかった。

 夜の闇の中、突然、現れた巨艦に、シュッツェは目を見開く。艦橋にいる青エルフ兵たちは、それぞれの端末にいて、それに気づいていない。索敵機器がようやく『警報』を鳴らしたが、何もかも手遅れだった。


「敵――」


 シュッツェが言いかけた時、出現した巨艦から青いプラズマの光弾が放たれ、戦艦『アルパガス』に直撃した。


 地上人は劣等種のはずだ――爆発が迫る中、シュッツェは思った。

 連中は、長い年月をかけてもアポリト帝国のレベルに達していない原始人である――それは多くのスティグメ帝国吸血鬼が思っていた。


 一年前の大規模偵察において、大帝国を名乗る一部の国以外では、空中艦艇や魔人機すらない世界だとわかった。

 地上人など、鎧袖一触がいしゅういっしょくのはずなのに――シュッツェの意識は、光と共に消えた。



  ・  ・  ・



 戦艦『バルムンク』を転移させ、スティグメ帝国艦隊の中に出現させる。俺の試みは成功した。

 転移と同時に『バルムンク』の主砲である45.7センチ三連装プラズマカノンが指向し、旗艦とおぼしき中央の敵戦艦へ一撃を加えた。

 大和級と同威力のプラズマ弾の一斉射撃を食らい、敵戦艦が爆沈した。


「ようし、主砲は引き続き、敵戦艦を砲撃! 副砲、ミサイル、敵護衛艦を攻撃!」


 俺の命令を受けて、『バルムンク』の各砲、ミサイルが火を噴いた。


 翼を広げたドラゴンのような巡洋艦や、飛行クジラに似た護衛艦に、20.3センチヘビープラズマカノンやミサイルが殺到し、次々に火の手を上げさせる。


「敵は奇襲に完全に浮き足だっています!」


 ディアマンテが報告した。


 敵の艦隊は陣形が崩れた。どうやら初撃で指揮官をやったらしいな。回避行動をとったり、反転したりと、てんでまとまりがない。


「このまま敵をかき乱す!」

『主砲、敵戦艦に照準よし!』

「撃てぇ!」


 45.7センチ砲が、二隻目の敵戦艦を砲撃。その圧倒的火力は、敵戦艦の厚い装甲を貫き、火球へと変える。

 まだまだ、こんなもんじゃないぞ、このバルムンクは!

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